第27話メルト、リュークの心の闘い。

「どこだっ!?」「相手がいないっ!!」


(今回の敵は、自分との闘いだよーっ!!)


「自分!?」


(幻影に惑わされないで、しっかり自分の意思を持って闘って!!)


幻影?意思?どういう事だ!?

その時、メルトの声が聞こえた。


「ど、どうしてあんた達がいるの!?」「よぉ、オカマ!元気してたかよっ!?」「…リューク、誰だ?あいつら。」「きっと、あれがメルトの『敵』なんだ。」


メルトが泣きそうになりながら後退りしている。

…そうか。これはメルトの現実の世界で起こっていた『幻影』。

今回の敵は、自分の『幻影』に打ち勝つこと…。


(みんなは手を出しちゃダメだよ!それぞれが自分で闘わなきゃいけない敵なんだからねー!!)


「タケルさん…?」「ユキナ、会いたかった。」「どうしてここに!?」「俺はユキナと結婚する為に来たんだ。」


ユキナさんの『幻影』。


「じーちゃん!?」「リューク。これからはもう離れない。ずっと一緒に暮らそう。」「嘘だ!じーちゃんは死んだんだ!!」「リューク、何を言ってるんだ?これが現実だ、目を覚ませ。」


リュークの『幻影』。


「お、お父さんっ!?」「今まで何をしていたんだ!!家に帰るぞ!!」「い、嫌だ!戻りたくない!!」「また殴られたいのか?殴られたくないなら俺の言う事を聞けっ!!」


アリティの『幻影』。


そして…


「左江内さん!」「さ、さちさん!?」「会いたかった…」「君は…人間じゃない。」「愛し合った事、忘れたの?」


俺の『幻影』。


それぞれの過去がこの世界で甦り、そして誘惑し…俺達を戸惑わせる。

誰もが願う『平穏な生活』。それを壊そうとするのが同じ人間。

日々、人間同士でいがみ合い、恨み会い…そして闇が生まれる。

それが今、幻影となって現れている。

分かっているはずなのに…飲み込まれてしまう。


「メルト!!気持ちわりぃんだよ(笑)男のくせになんだよ、その格好!!ぎゃはははっ!!」「人種差別よっ…、あたしはあたしらしく生きて行くの!邪魔しないで!!」「お前の存在自体が邪魔なんだよ!!」「あたしの…存在が?」


(負けないでメルト!!メルトの人生はメルトのものだよっ!!)


「人格否定なんかに負けない!!あたしはあたし!邪魔な人間なんてこの世にいないんだから!!」「な、なんだよっ!?きもちわりーくせに!!」「あんた達の方がいつも群れをなして気持ち悪い!!1人じゃ生きれない寂しくて愚かな人達ねっ!!」


『消え去りなさいっ!!』


風と共にスーッと幻影が消えて行く。メルトは己に勝った。弱かった自分を投げ捨て、例え向かい風に晒されたとしても、メルトはもう大丈夫。だって『個性』という強さを覚えのだから…。


「リューク、わしは1人で寂しい。寒い。心が凍てついてる様じゃ。また一緒に暮らそう。」「じーちゃんはそんな事言わないっ!!いつも俺を応援してくれた。お前はじーちゃんじゃない!」「リューク、わしはもう歳じゃ。寒い…。側にいて欲しい…。」「そ、そんな事言ったってっ…」


(リューク!!ムジロじーさんはリューク達が土に埋めた時、何て言ったか思い出してっ!!)


『頑張るんじゃぞ…』


「そうだ。じーちゃんは弱音なんか吐かない。」「リューク、歳を取れば心も弱音を吐きたくなる時もある。」「命を削って作ってくれたこの装備が、それを物語ってるんだよっ!!」


『お前は単なる幻影にしか過ぎない!!さっさと消えろ!!』


ピキピキと音を立て、凍り付いたムジロじーさんはパリンッと砕け散った。リュークはよく頑張った。

辛かっただろう。幻影のままでもいい…そう、俺なら思ってしまうかもしれない。

リュークは1人で生きていく『強い意思』を手に入れた。

















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