第25話 左江内矢筒、34歳。これが本来の姿。
「さちさんのアパートっ…!!」途中タクシーを使い、俺は急いでさちさんのアパートに到着。玄関の目の前に着いた俺はインターホンを押した。すると…
『…どちら様ですか?』
見知らぬ女の人が、俺を怪し気な目付きで見ながらドアを開けた。
「え?」「何か御用ですか?」「いや…あの、この部屋ってさちさんの部屋じゃ…?」「は?さち?何言ってんの?何かの間違いじゃないですか!?」「いや、でもここで…」「これ以上しつこいなら、警察呼びますよっ!?」
バタンッ!!とドアを閉められ、俺の頭はどんどん現実へと引き戻される。
「どうすればいいんだっ!?」ドアの前で立ち尽くしていると、会社から一本の電話が入った。
「はい、左江内です。」「左江内!!どういう事だっ!!」課長が物凄い剣幕で怒鳴って来た。「な、何がですか!?」「何がじゃねーよっ!!お前が契約取って来た一万本の鉛筆の小切手!!よく見たらオモチャの小切手じゃねーかっ!!」「そ、そんなはずはっ…!!」
『鉛筆の商談も、今となってはただのままごとにしか過ぎん。』
そうか。そういう事なのか…。
俺は全て『夢』を見させて貰っていたんだ。
愚か過ぎた俺に、哀れな生活を送っている俺に
儚くて、切ない楽しい夢を…。
「どうしてくれるんだっ!!一万本発注してるんだぞ!!このままじゃ大赤字だっ!!」「…すみません。」「はぁっ!?謝って済む問題じゃっ…」
プツッ……
俺は電話を切り、そしてそのまま電源を落とした。
「ばーさんの言う通りだ。」
楽しかった一時。俺にとってはあれが異世界だったのかもしれない。それが、今ではどうだ!?ぐちゃぐちゃの世界に入り込んでしまっている。
最初から何もなかった。存在なんてしなかった。
俺の居場所なんて、もうない…。
明日が来るのが怖い。
「もう、夕方か。」俺は家に戻り、VRに手を伸ばす。
ばーさんの言う事が正しければ、今夜俺達はボスと闘う。
必ずしも勝てるとは限らない。そして、一歩間違えれば犠牲者が出るかもしれない…。
「行こう。求められている限り、俺の世界へ。」
もう、この世界には戻って来れないかもしれない。
それも運命。ショーシャンクの街を救う為、そして。
『ユキナさんをこの世界に戻す為』…。
左江内矢筒。34歳。
リストラ寸前のアラサー童貞。
彼女無し、得意な事も何もない。
趣味…『VR』。
スイッチをオン。
俺は今までに無い光に包まれ、異世界へと転移した。
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