第23話 涙の闘い。そして、それぞれの過去。
「どういう事っ!?」「元々身体が弱かったんだ。でも、俺達の為に装備を完成させてくれて…」「昨日、突然倒れたのよ。そして、そのまま…」
俺がいない間に。たかだか1日来なかっただけなのに。
ムジロじーさんの死に際に立ち会う事が出来なかった。
しかも、リュークは自分の祖父が亡くなって間もないのに、こうして闘いに挑んでいる。
心はきっと悲しみで覆われているに違いない。
「俺はムジロじーさんを倒す事なんて出来ないっ!」「なら、俺が倒す。」「リュークっ!!」「誰かっ、リュークを止めてくれ!!」「ヤッツー、ムジロさんはもう人間じゃないのよ。」「私達の手で、ちゃんと葬ってあげましょう。」
何でなんだ…。
この世界でも、こんなに悲しい出来事が起こるなんてあんまりだ。
俺には出来ない…。
「ユキナ、深い穴を掘ってくれ。アリティはじーちゃんを大きな水の塊で囲んでくれないか。」「はい。」「分かったよ。」
アリティの作った大きなシャボン玉の様な水の中に、ムジロじーさんが閉じ込められ、ユキナさんは地面を大きく叩き、深い穴を掘った。「俺が今から完全に凍らせる。メルト、ゆっくりじーちゃんを穴の奥底に沈めてくれ。」「分かったわ。」
リュークが泣いている。同然の事だろう。どんな経緯があってこの世界に転生したのかは分からない。でも、最愛の身内を泣くし、自分の手で葬る…あまりにも残酷過ぎる。
「じゃぁな、じーちゃん。」
(頑張るんじゃぞ…)
頭の中にみんなが響いた言葉。
ムジロじーさんの最期のメッセージ…。
「ユキナ、蓋をしろ!」「はいっ!」
ユキナさんの力で蓋を閉じられた穴は静かに平坦の道を作る。
そして、リュークがそこに一輪の花を添えた。
「ありがとう、じーちゃん。俺、頑張って長生きするよ。」
ショーシャンクの街。
ここは転生をしたら一生「死」とは無縁の世界だと思っていた。
たかだかゲームの世界だと侮っていた。
でも、この街だけは違った。
現実逃避をし、異世界に転生したとしても、やがて「死」は訪れる。そして、きっとまた現実の世界で生まれ変わり1人の「人間」として生活して行かねばならないのだろう。
ここは、決して「楽しい」だけの街ではない。
そう、思わされた瞬間だった。
「リューク、大丈夫か?」「…いじめられっ子だったんだ。」「え?」「両親も早くに死んで、俺はじーちゃんと2人暮らしだった。」
『そんな時に出会ったんだ。謎のばーさんに。』
「あたしもだよ!?」「アリティ!」「あたしは親から虐待されててさ。家出の途中で変なばーさんに声掛けられたんだぁ。」
次々と解き明かされていく、それぞれの現実世界での心の闇。
「あたしは見ての通り、偏見よね。気持ち悪いって石投げられて…その後はみんなと同じ。出会ったの。」「…ユキナさんは!?」「あたしは…」
『このゲームの発案者なんです。』
「えっ!?」「そうなのかっ!?ユキナ!」「今まで黙っていてごめんなさい。」
現実の世界で、ゲーム会社に勤めていたユキナさんは、このソフトを作り上げた。試しに使っている所でタケルと出逢い、恋に落ち…異世界に転生したという。
「戻りたくはないのか?」「自分で決めた事ですから…。ただ、リュークさんと同じで私はおばあちゃんと二人暮らしだったので、おばあちゃんが心配で…。」
その時だった。
(ヤッツー!!時間だよー!!今日もお疲れ様ーっ!!)
「あぁ、分かった。ユキナさん。俺、ユキナさんの代わりにおばあさんの様子を見て来ます。良かったら住所教えて貰えますか?」「いいんですかっ!?住所は確か…」
ユキナさんに教えて貰った住所を暗記し、俺は『また明日』とみんなに別れを告げ、オフボタンを押した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます