第22話 俺がいない間に起こっていた事。悲しいゾンビとの闘い。

「あぁっ!!ユキナーーっ!!」

俺はタケルさんからVRを外し、工具箱から取り出した金槌でタケルさんのVRを叩き割った。


「なんてことをするんだっ!!」「タケルさん、約束しましたよね!?あなたには奥さんがいるんです!!現実を見て下さい!」「俺のVRがっ……!!」


タケルさんは泣き崩れ、粉々になったVRを抱き締めた。

「ユキナっ…!」「タケルさん、奥さんが待ってます。」「どうすればいい!?……そうか!!あのばーさんにまた貰えばいいのかっ!!」「タケルさんっ!!」


タケルさんはばーさんを探す為に勢い良く家を飛び出して行った。俺はタケルさんの事も心配だったが、ユキナさんや街の現状も心配だった為、VRを再起動。オンにした。


光の奥に見えて来た先程の光景…

俺の存在にいち早く気付いたメルトが、デカい巨体でハグしてきた。


「うわっ!!」「ヤッツー!戻って来てくれて良かった!!」何だか久しぶりだね!ヤッツー!」「アリティも元気そうだな!」「あたしはいつも元気なのだ!」「ユキナさん、大丈夫ですか?」「ヤッツーさん、会わせてくれてありがとうございました。2度と会えないと思っていたので、顔が見れただけでも幸せでした。」「タケルは大丈夫そうか?」

リュークが心配そうに俺に声をかけてきた。

「分からない…。それより、リュークは元気だったか?」「俺は元気だ。ただ、じーちゃんが…」「ムジロじーさんがどうしたんだ!?」


その時だった。


「また地鳴りだっ!!」「またって事は、さっきもあったのか!?」「あぁ、ここ最近は多すぎる!さっきはタケルが闘ってくれたんだ!!」


炎の剣の使い手。タケルさんは俺よりも相当強かったはず。

タケルさんの後に俺がこの剣を手にして使うのか…

なんだか申し訳ない。

でも、今はそんな事を考えてる場合ではない。


「何処からだっ!?」「…墓の方からだ!!」「墓っ!?」

少し遠くに見える十字架が多数置かれている場所。

そこから、今回は魔物ではない、『死体』が『ゾンビ』と化した無数の敵が雄叫びを挙げながらこちらに歩いて来るのが見えた。


「死体を殺めるのか!?」「もやは死体ではない。化け物になっている。しかし、凄い数だ!!」「闘うよーっ!みんな大丈夫!?」「アリティ、あたし達なら大丈夫!ユキナちゃん、準備はいいっ!?」「はいっ!!大丈夫です!」


今から闘う人間はきっと昔、俺達と同じ現実の世界で生活をしていた人達なのだろう。

そして、この異世界へと転生して、ようやく穏やかな暮らしを手に入れて…。

それを今からこの剣で切り裂いていく。

切なくて無惨な話……。


「行くぞ、ヤッツー!!」「リューク、皆を凍らせてくれ!!」

「アリティは雨を降らせて土を柔らかくして!!ユキナちゃん、土に穴を開けれるっ!?あたしが風でその穴にあいつらを封じ込めるわっ!!」「了解っ!!」「分かりました!!」


連携プレー炸裂。

リュークが敵を凍らせ、それを俺が剣で砕く。

ユキナさんが地面を叩き、大きな穴を開け、そこでメルトがトルネードの風で敵を地面下に閉じ込める。それを何度も何度も繰り返す作業。


あっという間の出来事…のはずだった。


「待て!!もう1人いるっ!!」「……じーちゃん。」「ムジロじーさんっ!?」


人間ではない。

俺が知っているムジロじーさんの姿ではない。


「どうして…?」


あれは…間違いなく『ゾンビ』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る