第15話 アラサーがマドンナにランチを誘って貰って挙動不審。
今日も午前中から外回り。何度も断られては、新規のお店に飛び込み、商談をするの繰り返し。
このご時世、使いやすい鉛筆なんて山程ある。
余程のお得意様じゃない限り、OKサインなんて貰えない。
『今日もダメかぁ…』
既に4件は周り、門前払いされてしまった。
さすがに心が折れる俺…
『あいつら、今頃何してるかな。』
時々、ふと思い出すショーシャンクの街。
そして共に闘っている仲間達。
敵と闘っているのではないか?
劣勢ではなかろうか?
…俺を求めてはいないだろうか…。
『何考えてんだ。いくら考えたって、今日は行けないんだ。』
俺は頬を両手でバシンと叩き、己に渇を入れ職場へと戻った。
「戻りましたー。」「左江内、どうだった?まぁ聞くまででも無いと思うけど(笑)」「ぎゃははは(笑)失礼だろ!?さちちゃんの彼氏だぞ!?」
さちさんと交際を始めた事で、他の社員のやっかみが悪化。関係の無い課からも火種が飛んでくる始末…。
「左江内さんっ。」「…さちさん。」「お昼、一緒に食べに行きませんか!?」「え、!?あぁ…」
周りの視線が痛い。でも、さちさんは何も悪くない。純粋に俺をランチに誘ってくれている。
「お、俺で良ければ、是非。」「本当ですか!?美味しいお店、知ってるんです!!行きましょっ!?」
俺は、冷ややかな視線に目を瞑り、さちさんと初めての「ランチデート」へと向かった。
さちさんお薦めの場所は、職場から歩いて約5分の場所にある古ぼけたラーメン屋。
「ここですっ!!」「えっ!?」「あ、嫌でした!?」「う、ううん。全然。」
…この店、俺が昼休憩の時によく来るラーメン屋。
安いし、早いし、上手いし。
ささっと済ませるには絶好の店だった。
「私、ラーメン大盛りで!!左江内さんは?」「あ、じゃぁ俺も…。」「なんか、元気無いですね。本当は他のお店が良かったですか!?」「違う違う!!さちさん、お洒落だし可愛いから、俺に合わせてこの店にしてくれたのかなって…」
今時OL女子は、もっと洒落たオープンテラスのある店で食べるものとばかり思っていた。
…まぁ、あくまでも童貞オヤジの勝手な想像に過ぎないが。
「私、お洒落なお店とか苦手なんですよね。1人で牛丼屋だって行くし、ここのラーメン屋もいつも…あっ。」「いつも?じゃぁ、会ってたかもしれませんね(笑)」「…いつも見てたんです。1人で書類見たりしながらラーメン食べてる姿。がんばり屋さんだなって思ってたんです。」
単なる冷やかしじゃなかった。さちさんは、ちゃんとありのままの俺を見ていてくれてた。
遅刻して怒鳴られてる時も、先輩のミスを俺が被る事になり、商談破棄を報告して書類を投げつけられた事も、みんながネットサーフィンをしている中、一件でも契約を取りたいと、必死でパソコン画面と戦っていた事も……。
さちさんは、心から俺を受け止めてくれているのだと初めて気がつき、それと同時に何故か自然と涙が溢れた。
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