第10話 アラサー男の勇ましき姿。
(ヤッツー、メルト!帰る時間だよーん!!)
「あぁ、わかった。」「…あたしは、ここに残るわ。」「メルトっ!?」「だって、前の世界に心残りなんてないもの。」「でもっ…!!」
その時だった。
『グジュエェェェ…グジュュュッ…』
「敵だ!メルト、ユキナ、行くぞ!!」
家の外から、白い光と共に今まで見た事のない程多数の敵が黒い羽を小刻みに羽ばたかせ、街を襲おうとしていた。
「ヒュリ!1時間だけ時間をくれっ!」
(それは契約違反だよー!!約束を守らないとどうなるか知ってるよね!?)
ばーさんに言われた約束…。
その1、『使用するのは1日1回、5時間以内。』
その2、『異世界での相手に恋愛は禁止。』
その3、『必ず現実の世界に戻って来る事。』
でも……。
「ヤッツーさん、元の世界に戻って下さい。この敵は私達3人で倒します!」「ヤッツー!また明日ね。さて!闘うわよぉ!!」
「早く戻れ!!ヤッツー!!」
(ヤッツー!!急いでっ!!)
「みんな…ごめんっ…。」
俺は電源をオフにし、目の前が徐々に暗くなって行く罪悪感にさいなまれながら、現実の世界に世界へと戻ってきた。
「俺は、仲間を見捨てたのかっ…」
ユキナさんは、恋人の帰りを待つ為に異世界に残る事を決めた。
メルトは現実の世界に嫌気がさし、異世界に留まる決意をした。
リュークだって…。
「何やってんだ!俺はっ!!」
悔しくて何度も床を叩く。戻ろうと思えば今すぐにで戻れるのに、あと一歩の勇気が、VRを頭に被せるに対して抵抗している。
「そうだ!あのばーさんに会いにいこう。」
会いに行って、時間を延長してもらうなり、1日の回数制限を増やしてもらうなり…なにかしら手立てを施してもらおう。
俺は家を飛び出し、街中を駆け巡った。
ありとあらゆる場所の路地裏、街の片隅…でも、ばーさんの姿はどこにも見当たらない。
今、異世界ではどうなってる!?ユキナ、メルト、リュークは無事なのか!?あんなにも無数の敵相手に、闘えているのか!?
「ばーさん、頼む!!姿を見せてくれっ!!」
真夜中の街中で膝をつき、叫ぶ俺。
すると…
「なんだい。騒がしいねぇ…」「ばーさんっ!!」
俺の目の前に、ばーさんが現れた。
「ばーさん!!頼みがある。」「無理だよ。あんたの頼みは叶えられない。」「まだ何も言ってねーだろ!?」「分かるさ。今まで何人も同じ頼みをして来た奴等がいるからね。」
今まで、『何人も』…?
もしかして、その中にユキナさんの恋人もいるのか!?
そして出来ないメルトやユキナさんも…。
「今、異世界では闘っているんだ!!俺も参戦したい!」「それならルールを破って転移すればいい。」「それだと現実には戻って来れなくなる!!」「…どいつもこいつも、おろかな人間よ。」
『自分の欲ばかりに目が行き、いつも『頼めばどうにかなる』と足掻くおろかな人間ばかりじゃ。』
ばーさんは溜め息をついた後、俺にこう言った。
「特別に今日だけもう一回異世界に行けるチャンスをやろう。」「ありがとう!ばーさん、それじゃ…」「待て!続きがある!!今日『2回』異世界に飛んだ分、明日は丸1日使ってはならぬ。必ず使ってはならぬぞ!!」
「必ず守る!!」
そう言い残し、俺は家へと戻り急いでVRを装着し、ボタンをオンにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます