第5話 土の属性、ヒールの使い。ユキナ

「…何だこの村は。人1人いない…。」「でも、煙突から煙は出てるわよ!?」

殺風景な村の景色。

もっと人々で賑わってるかと思いきや、あまりの静けさに気味が悪い。


「とりあえず、女の子を探さないと…」そう思い、村の中を歩いていると家の中から1人の老人が顔を出し、俺達にこう叫んできた。


「この悪魔めっ!!村から出ていけっ!!」「はぁ!?何言ってんだ?あのじーさん。」「今度は誰を生け贄に連れて行く気だっ!!もう、この村には若い娘はおらんっ!!他へ行けっ!!」


生け贄…若い娘?

何の事だ!?俺達は、ただ指令を…


ゴゴゴゴゴゴッ……


「ヤッツー、またよ。」「ふざけんなよ…」


先程とは違い、村全体を揺らす程の地鳴り。


「どこだっ!!どこからだっ!?」「ヤッツー!!空よっ!」

突然、あんなに穏やかに晴れていた天候が、稲妻と共に空一面がドス黒い雲で覆われる。

稲妻は標的を絞る事なく、次々と家や俺達に襲いかかろうとしてきた。


『ゴロッゴゴロロゴロロッ…』


「ヤッツー!あれが敵よ!!」「で、でけぇ…!!」

巨大な雷神が、稲妻を落とす雲に乗って登場。その大きさは4メートル…いや、これ以上だろう。


「ここは俺に任せとけ!!」剣を取り、炎の一撃を振りかざそうとした瞬間…


「うわあぁぁぁっ!!」「ヤッツー!!」剣を稲妻が伝い、俺の身体にビリビリとした電気が走る。

「ヤッツー!?大丈夫!?「身体が痺れて動けないっ…!!」

「あたしが行くわっ!!」

メルトが扇子を開き、風で台風を作り大きなハリケーンを雷神に飛ばした。

しかし、雷神は一瞬怯んだものの、『ドドドンッ』という太鼓の音でそのハリケーンを頭上高く上に跳ね返してしまった。


「だ、ダメだわ…」「くそっ…」


『ゴゴロッゴゴロゴゴッ…』


第2陣が来る。俺とメルトは体力を使いきり、反撃する気力が残っていない。しかも、火と風では、雷神には勝てない。


「ここまでかっ…!!」そう諦め掛けた時だった。


『諦めるのはまだ早いわ。』


背後から、女の声が聞こえたかと思いきや、俺達の頭上を飛び越え、着地した瞬間両手で拳を作り、『ドンッ』と地面を強く叩いた。すると、地割れが起こり小石や崩れたレンガの破片が雷神へと突き刺さった。


『ンゴゴッ…ンガゴゴゴ…!!』


「今よ!!風で飛ばして頂戴!!」「わ、わかったわ!!」メルトが扇子を再び開き大きなハリケーンを作る…。


「行けーーっ!!」メルトのハリケーンは、弱っていた雷神に直撃。稲妻雲はかき消され、雷神は雄叫びをあげながら消えて行った。


そして…暗闇に包まれていた村も、元の明るさを取り戻す事が出来た。


「ありがとうっ!」「無事で何よりです。」「あなた…もしかしてヒュリが言ってた…」


確かに。背中まである黒い髪の毛を持ち、和装の姿をしている小柄な女の子。

この子がヒュリの言っていた『指令』の子なのか!


でも、さっきと姿がどこか違う様な…


(そうだよーーん!!)


「ヒュリ!!」「ヒュリさん、仲間と合流出来ました。」


(ユキナちゃん、ありがとう!!さすがです!!)


「ユキナ…さん?」「はい。あなた達は?」「俺はヤッツー、火の使いで、こいつがメルト、風の使い。」「初めまして。私はユキナ、土とヒールの使いです。」


(ユキナちゃんは、戦闘時になると本来の姿になるの!!綺麗だったでしょ!?)


やっぱり。俺の見間違いじゃなかった。

彼女は、戦闘態勢に入ると『大人の女性』に変わる。

あどけなさが残る10代の少女から、成熟な20代半ばの見違える程の美女に……。


「これから宜しくお願いしますね。ヤッツーさん、メルトさん。」「ここここ、こちらこそ!!」「ヤッツーって分かりやすいのですね(笑)」


火、風、土、そして癒しを与えるヒールの魔法。

3人が揃った。


「ヒュリ、次は…」


ピピピピピピッ……


(ヤッツー、メルト、終わりの時間だよーん!!スイッチをオフにしてね!!)


「あ、あのユキナさんは!?」「私はずっとこの世界にいます。また、お会いしましょう。」「ヤッツー、ユキナちゃん、またねー!!」「あ、じゃぁ俺も。また……」


VRのスイッチをオフにした途端、目の前が真っ暗になり現実の世界に引き戻されたのだと実感した俺は、今までの事が夢の様に思えて仕方がなかった。


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