107.武闘大会フォルクVSミカヅキ
「あの女性のプレイヤーはどういう人かわかるか?」
タリアが掲示板で対戦表を確認する。
「ミカヅキさんでしょ?さっきのシーラさんのギルドのリーダーよ。近接攻撃職なら三本の指に入るって言われてるわ」
「なるほど」
近接攻撃職、か。くしくも、フォルクと同じ役割だ。どちらも攻撃に重きを置くプレイヤーとなると、派手な戦いになりそうだ。
ミカヅキは軽装の布鎧と革鎧をあわせたような装備をしている。うまく説明できないが、中華ファンタジーで軽装の戦士が来ているような防具だ。体にフィットしており、バタついている部分が無い。赤い長髪をポニーテールにしており、手には160センチほどの短槍を持ち、地面に立てて保持している。
一方のフォルクは、見た目は以前とほとんど変わらず黒いコートを纏って前を開けている。コート自体が革でできているようで、他に胸当てなどの革の装備はつけていない。頭装備も以前と同様にしておらず、その顔に不敵な笑みを浮かべている。
腰に吊るしているのは一本の細剣。あれもアップグレード済みだろう。巨大猪との戦いのときに見せた大剣はあの時同様に装備していない。おそらく戦闘中にまた取り出すのだろう。
やがて審判の合図で二人は互いに礼をし、それぞれの立ち位置へと離れていく。ミカヅキは自陣の中央付近、そしてフォルクは自陣と敵陣の境目、つまり一番前に立つ。
観客席には、なぜかレンとシーラの試合の時のような歓声ではなく静けさが広がっている。
審判の旗が振り下ろされると同時に、フォルクが走り出す。槍を構えたミカヅキは、ほとんど最初の立ち位置から動くこと無くフォルクを迎え撃つ。
前傾姿勢で正面から突っ込んだフォルクは、そのまま一切の小細工を弄することなく正面から斬りかかった。ミカヅキはそれを槍で受け、お返しとばかりに数発の突きを返す。
剣と槍で戦った場合、槍のほうが有利であると言われている。それは主に間合いが大きく違うからだ。せいぜい腕から1メートルもない剣に比べて、槍は短槍でさえ1メートル50センチ以上の間合いを誇る。
その差を埋めるには、何らかの方法で間合いに入り込み剣の間合いで戦う必要があるのだが。
「槍、というより、棍じゃないか?」
ミカヅキの戦い方は、純粋な槍を使った戦い方というよりは槍の突きと棍の戦い方を合わせて使っているように見える。
元々棍というのは殴打武器で刃がついていないとは言え突きだって簡単に放つことが出来る。ミカヅキの戦い方は、槍を扱う戦い方というよりは棍を扱う戦い方であり、そのうち突きを強力にするために槍の穂先をつけているだけに見える。
モンスター相手と人間相手という、勝手の違う二つの戦いに対応するために彼女が編み出した戦い方があれなのだろう。
それに対してフォルクは、あくまで変わらず前へ前へと攻め続ける。大剣は失ったのか、それとも使うまでもないと判断したのか取り出していない。
ひたすらに剣でミカヅキの攻撃を弾きながら前へと出続け、それに押されたようにミカヅキの体が後ろに退がる。フォルクの一撃一撃がミカヅキのそれより重く、細剣と槍がぶつかりあった際にミカヅキの槍が大きく弾かれているのが原因だ。
ミカヅキもアーツや槍さばきで対抗しているが、手数の近い武器、あるいはフォルクのほうが多い中での一撃の重さの差はいかんともしがたく、ジリジリと押されていく。
観客席にはどよめきが広がっているが、俺からすれば不思議でもなんでも無い。今のフォルクには、あの細剣を10本合わせても重量ではかなわないぐらいの大剣を振り回すための筋力値とスキルがあるのだ。それで細剣を振れば、細剣が壊れない限りかなりの重さが出るのは当然なのだ。
しかも以前俺と共に巨大猪を倒した時とは比べ物にならないぐらい強くなっているのだろう。だったら、一撃の重みでミカヅキが押し込まれるのも仕方がないというものだ。
更に何が厄介かというと、そんな重い攻撃を細剣という取り回しの良い武器で放ってくる事が一番厄介だ。武器が軽くなっている以上、大剣を使うほどの重さは出ないだろう。だが、細剣の攻撃でも弾くのに苦労するレベルならわざわざ重たい大剣を使う意味がないのだ。細剣で十分に押せるのである。
フォルクがそこまで考えているかわからないが、違う武器を振るためのステータスが運良く細剣と合わせって強力になっているんだろう。
壁際まで押し込まれたミカヅキは、逆転を狙うように攻勢に出る。棍による頭部と足への三連突きのあと、アーツによる6連撃。そのすべてを、フォルクは細剣で受け切る。
しかし、ミカヅキの攻撃は止まらない。どうやったのかアーツ使用後の硬直を失くし、硬直を狙って踏み込んだフォルクに先程よりも早い三連続の突きを放つ。先程の三連突きは、あえて見せてフォルクに突きの威力を勘違いさせるためだろう。
前のめりになっていたフォルクは、一撃を細剣で逸し、二撃目を脇の下、三撃目をこめかみの横をかすらせるに止める。
そして、三撃目を放ちミカヅキが腕を引き戻す前に、胴体に向かって5連撃を放ち、そのHPを削りきった。
ミカヅキの攻撃は駆け引きの混ざった素晴らしいものだった。だが、フォルクの獣じみた反射神経というか戦闘勘には及ばなかったのだ。型も何もないゴリ押しの戦い方だからこそ、存分にステータスが生かされた。そういうことだろう。
ミカヅキの体から結界が剥がれ落ちると同時に審判が旗を振り上げる。
「潔いぐらいのゴリ押しだな」
もともと型をほとんど持ってないようなフォルクの戦い方だが、相手を上回るステータスによる攻撃で一層ゴリ押し感の残る戦いとなった。
見たい試合が終わったので、俺は席を立つ。
「あれ、ムウくんもう行くの?」
「見たい試合は終わったからな。昼食をとってから街の中を回ってみる。色々と探したいものもあるしな」
俺がそう言うと、タリアも立ち上がる。
「じゃあ私もご一緒しようかな。別に夜ご飯じゃなくてお昼ごはんでも良いんでしょ?」
俺がレンとシーラの戦いの賭けで負けたことを言っているのだろう。
「別に構わないが、良いのか?」
「良いわよ。どうせムウくん、仲間の試合になったら戻ってくるんでしょ?それなら一緒に居た方がその人達の試合を見れるでしょ」
タリアが良いと言うので、次の試合のプレイヤーが入場してくる前にコロシアムの外へ向かって歩く。
「別に面白いものではないと思うがな」
「そうでもないわよ。試合が終わってから思い出したけど、あのフォルクっていう人、掲示板の武闘大会実況考察スレですごい話題になってた人よ」
「あいつが話題になってるのか?」
武闘大会に出るということは、衆目の門前で戦いを見せるということだ。そうなると、いくら普段は人目につかなくても注目を集めることになる。
「そうそう、確か対戦相手に、ミカヅキさんほどじゃないけど有名な片手剣士がいたらしくて、その人を力でも剣術でも圧倒してて、ダークホースって言われてたわ。まさかミカヅキさんに勝つほどとは思わなかったけど」
「なるほど。そんな掲示板があるなら覗いてみたいな」
俺がそう言うと、タリアが驚いた顔をする。
「やっと掲示板見る気になったの?」
「もともと面白そうな掲示板が見つからなかっただけだ。タイトルだけならたまに確認している」
別に攻略情報だったり、モフモフ同好会なんていうのを見ても仕方がないのだ。
「そ。せっかく良い情報教えてあげたんだし、ご飯ついでにムウくんの話も聞こうかな」
「何を聞くんだ?」
「さっきのフォルクさんとか、レンさんとか、他のお仲間さんの話とか」
「あいつらの戦い方をバラすつもりはないぞ」
俺がそう言うと、心外だとでも言うようにタリアが首を振る。
「別に戦い方とかじゃないよ。あんまり人と関わろうとしないムウくんが仲間って言うくらいだから、どんな人達か気になっただけだよ」
ならば聞きたいのは彼らの性格や人となりなどか。
「それぐらいなら話しても怒られないとは思うが」
「そういうこと。さ、お昼は美味しいものおごってもらうからね」
「店は任せる」
リンシアについては全くの無知なので、タリアに任せることにする。すると、彼女は俺の手を掴んだ。
「りょうかい!ついてきて!」
なぜか非常に楽しそうに俺を引っ張って走っている。大人の女性が男の手を掴んで走るのはどうかと思うが、本人が楽しそうなら良いだろう。色々と、根掘り葉掘り聞かれそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます