92.イベント告知

外に出て、ログハウスづくりで残った木材を鉈で小さく割る。ある程度出来たところで、薪倉庫の勝手口から家の中に入る。


薪倉庫は他の二部屋と違って棚を一切作らず、床にモンスターの皮をしいている。薪は相当量を置くことになるので棚のような整理するためのものはむしろ余計であり、床に山積みにすればいいからだ。


部屋の端から順に薪を積み上げておく。一度目の薪を運び終わった後、先に部屋を温めておくために薪ストーブに火を入れておくことにする。


薪をストーブの中に並べている途中でピポンと通知音がなったが、今は後回しだ。なにげに、自分で作ったログハウスで自分で作った薪ストーブというのはワクワクするのだ。


薪を並べ終わった後は、いつも使っている魔道具で着火する。少しして薪にも火が移り、ストーブの口からあかあかとした明かりと熱が漏れ出してくる。


暗い部屋の中に灯る火は、いつも温まっている焚き火と変わらず、なんとも言えない暖かさを与えてくれる。


部屋の中に明かりが出来たのでずっと装備していた“梟の目”スキルを外す。暗視ゴーグルのように見えていた部屋の様子が消え、火の暖かい光に照らされたものだけが見えるようになる。


やはり、“梟の目”スキルは便利なのだが、探索ではなくのんびりしているときには風情が無いので使いたくない。


ついでに、ストーブからの光だけでは弱すぎるので、持っている魔道具のカンテラを壁際に吊るす。


今俺が持っているカンテラは二つ。一つは、ゲームが始まって最初の頃に買った性能が一番低いもの。


そしてもう一つは、明るさの調整機能がついたそこそこ高価なもの。


後者はタリアたちの護衛のときに買っていたのだが、焚き火があったので使う機会がなかったのだ。


より明るい新しい方に魔力を通して明かりをつける。部屋の中心にはストーブがあるので、少し話して倉庫側にぶら下げておいた。元々持っていた方は少し明かりの足りてない玄関のすぐ横に。これで一階部分の明るさは十分である。


二階は一応スペースがあるので作ったものの、今すぐ使うことは無いだろう。なんなら二回は生産部屋にしてしまうのも良いかもしれない。


携帯炉は多少下が熱くなるもの木を燃やすほどのものではないし、皮をしけば全く問題にならない。明かりを一々持って上がらないといけないのが面倒くさいが、しっかりとした生産は上でするようにしておけば道具もまとめておきやすい。


そうと決まれば、早速携帯炉を二階に置いてこよう。細工と木工は細かい作業が多いので、ストーブの側でも簡単にできるため、道具は携行するようにしておこう。


明かりが灯ったログハウスの中を改めて見る。


入り口には木のドアと靴を脱いでおくための皮が置いてある。ドアは一応板で作っているものの厚さはまちまちなので、味がある感じになっている。


部屋の中央には薪ストーブ。赤々とした光が玄関の方を向いている。


壁際の棚にはインベントリから出した皿や匙が並んでいる。その下には鍋が置いてある。


ストーブの向こう側には三つの入口がこちらを向いている。倉庫の奥には明かりが入らないこともあって暗闇になっている。目を向けるたびにどきりとするので、やはり暖簾のようなものをつけるべきだろう。


床には座るためのジンフィアとコフトの皮。ふわふわな皮を選んでいるので、座り心地は良いはずだ。


(良いな。暖かいし本当に落ち着く)


ストーブから放たれる熱で部屋の中も少しずつ暖かくなっている。もう少ししたら防寒装備は外しても大丈夫になるだろう。


部屋の中が温まっている間に、外に出てテントを回収してくる。


俺がログハウスが出来たことに興奮している間にだいぶ暗くなっていた。薪の調達と食料の調達は明日以降にしよう。食料は特にしばらく入手してないのでほとんどなくなっているため、明日にはしっかりと入手してこないといけない。


探索目的だったので先日は戦っていないが、山にが山羊のようなモンスターが数匹いたので、そいつと鳥型モンスターから肉が取れるだろう。後は森の方で茸や野菜などを探せばいい。


本当はジャガイモや小麦なんかがあったら料理の幅が広がって楽しいのだが、街に戻っても見つかっているかはわからない。特に小麦は大地人の店でも入手できないようだったので、発見待ちといったところだろう。


後は大根を買ってきて出汁があればおでんなんかも出来る。出汁だったり練り物だったりと加工がいるものは街のプレイヤーたちの努力次第だが、そろそろ誰か発明しているのではないだろうか。


テントをインベントリにしまってログハウスに戻る。ひとまず今日の料理は干し肉とオニオのスープにしよう。具材を多めにするのでスープというよりは煮物のようになっているが。


家に近づくと、人の気配を感じた。以前も感じたことのある気配だ。


玄関の扉を開けると、暖かい空気が溢れ出してくる。


「おかえりなさいませ、ムウさま」


「ウネさんか。何のようだ?俺は今の所イセペスみたいな奴らとは関わっていないが」


部屋の中で待っていたのは以前イセペス、ダンジョンボスと話したときに現れた人物、ウネだった。


以前と変わらずメイド服を着ている。整った顔立ちをしていて可愛いのだろうが、得体のしれなさが勝ってそんな感情は全く湧いてこない。


「はい。本日は別の要件があって参りました。先程送信されたメールは確認されましたか?」


メールと言うとさっき通知音が鳴ったあれだろうか。そう言えばそんな事もあった。ログハウスにテンションが上って完全に忘れていた。


「いや。まだ見てないな」


「では、この場でご確認ください。読み終わりましたら話させていただきたいと思います」


「わかった」


ひとまず靴を脱いで部屋に上がる。ウネにも座ることを勧めて俺も座ろうと思ったが、「私はこのままで大丈夫です。お気遣いありがとうございます」と言われてしまった。


一人座るのは気分が良くないので俺も立ったままメールを確認する。


届いていたメールは二通。


一通は『大闘技大会開催のお知らせ』で、もう一通は『浮遊大陸イベント開催』のお知らせだった。


イベントの告知だ。


それぞれに概要を読むと、大闘技大会の方は、11月1日から新しくこのゲームに参戦してくる新規プレイヤーにこのゲームの魅力を伝えるため、わかりやすい戦闘を見せるための手段として、初期からプレイしているプレイヤー同士の闘技大会を行うという趣旨だ。


注意事項で重要なのはソロ参加であるということと、インベントリの使用は自由だが回復はギルドの用意したアイテムのみというところだろうか。インベントリの使用が自由なのはかなり面白い。


また闘技大会は運営が冒険者ギルドということで、上位入賞者には賞品が用意されているらしい。


次に『浮遊大陸イベント』。こちらは、新規参戦プレイヤーにこの世界での冒険になれてもらうために、弱いモンスターからダンジョン、強いモンスターまでそろった特殊フィールドにおいて行われるイベントのようだ。


セーフティーエリアがあるかどうかといった情報は無いが、初心者救済のイベントである以上酷なことはしないだろう。


また初心者プレイヤーはアイテムやモンスタードロップの武器を入手しやすくなっており、性能も初期のものと比べると高いのでその後の進行の手助けになるそうだ。


こちらもどういう順位付けをするかはわからないが、新規プレイヤー、初期からのプレイヤーそれぞれの上位入賞者には賞品が配られるらしい。


こちらの注意事項で気になるのは、初心者救済イベントのくせに、一度死んだら離脱してルクシアに戻されるということと、持ち込めるアイテムはインベントリに20キロまでというところだ。


20キロのアイテムなんて、相当に少ない。攻略組、生産職、エンジョイ勢に新規プレイヤー、誰でも楽しめるイベントと書いているが、生産職は生産道具は重荷になるのではないだろうか。それほど重たくないとはいえ、食料との兼ね合いもある。


とりあえず概要は把握したので、ウネに読み終わったことを伝える。


「ありがとうございます。ムウ様にご用事があってまいったのは、特に後者のイベントの方です。当イベントはユニークなアイテムの入手機会があるため、全プレイヤーに同様の参加の機会が与えられる必要があります。殆どのプレイヤーは街にいるか、街から数日の場所にいるので問題ありませんが、ムウ様だけは今から街に戻ったとしても間に合いませんので、特別な方法で街にお連れするために参りました」


ユニークなアイテムということは、特殊な性能を持った装備や道具が入手できるのだろう。


「そのイベントの参加は強制か?」


俺がそう尋ねると、ウネは首を横に振りながら答える。


「いえ、強制ではありません。多くのプレイヤーの方が参加するでしょうが、イベントの間もこちらの世界の時間は流れるので残られる方もいると思います」


「わかった。後はもう一つ。そのイベントに参加する場合は今すぐ街に連れて行かれるのか?」


「いえ、そうではありません。数日の猶予はあります。ですが、ムウ様だけを優遇することは出来ませんので、いずれのイベントに参加される場合でも、闘技大会開催の6日前、つまり10月29日には街にお連れします。これは、ムウ様を除いた他のプレイヤーのうち街から最も遠い位置にいるプレイヤーが街に戻る日数に一日足した日数です。街についてからは好きに過ごして頂いて構いません。また、この場所までイベントの後に戻る場合はご自分で戻っていただきます」


なるほど。イベントに参加する機会を与える必要はあるが、俺だけを他のプレイヤの何倍ものスピードで移動させて、ぎりぎりまで探索をしてからイベントに参加するということがないようにしているのだろう。


なら、答えは決まっている。


「わかった。参加させてもらう。よろしく頼む」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る