60.始まりの街ルクシア-20
「うい、久しぶり」
「久しぶりだ」
タクたちが先に着いていると連絡があったのでレストランの中に入ると、すでに席についた二人が待っていた。今日はタクとカルナだけで来たらしい。
「久しぶりね、ムウくん」
「カルナも元気そうだな」
席に付きながら二人と挨拶を交わす。二人共装備も以前より良いものになっており、順調に探索は進んでいるようだ。
それぞれ注文を終えてから会話を続ける。
「そう言えば、カナちゃんと会ったぞ。お前とパーティーの人に戦い方を教えてもらったって言ってたな」
「久しぶりに会ったときに頼まれてな。他のメンバーも乗ってくれたから一緒に探索がてら俺達の戦い方を見せたり、カナ達の戦い方を見たんだ。最後は少し揉めてしまったがな」
「兄さんに会ったらよろしく言っておいてください、って頼まれたぞ。どうせお前のことだからまともなことを言ってるのに言い方が悪かったんだろ」
苦笑しながらタクはそう言う。タクはあちらの世界での俺を知っているから、話し方のせいで揉め事を起こしやすいのも知っているのだ。
「さあな」
「ねえ、カナちゃんとムウ君って兄弟なの?」
話についてこれていないカルナが尋ねてくる。
「ああ」
俺が首肯すると納得した顔で幾度もうなずいている。
「なるほどね~。道理でムウ君の話ばっかりするわけだわ」
一体カナはどんな話をしたのだろうか。
「カルナもカナと知り合いだったんだな」
「タク君経由でね。タク君知り合い見たらすぐ話に行くから、私達も仲が良くなったのよね」
「そうか」
食事が届いたので、食べながら会話を続ける。俺はシチューとパンを頼んだ。先程露店で買った肉を食べたので軽めにしている。
「それで、今日は珍しくお前から誘ってきたけど何かあったのか?」
しばらく雑談をしたところで、タクが本題に切り込んでくる。
「ああ。しばらく街を離れようと思っていてな。その前に今持ってる情報を伝えておこうと思ったんだ」
「なるほどね。それじゃあ、伝えても良いと思っている情報を教えてくれ」
すでに知っているかも知れないが、と前置きをしてから、俺は南北のボスエリアの先について話す。
「確かにそんな情報が掲示板に上がってたな。それで、その様子だとまだ話すことがあるんだろ?」
タクに促されて俺は先を続ける。
「ボスエリアからは別のエリアに進めるんだが、それとは別にボスエリアをスルーして進んでもまだまだエリアは広がっていそうな気はしている、という推測程度の話だ」
「それなら、多分もう情報は出てるわよ」
カルマが横からそう教えてくれる。
「ボスエリアとは別の先か?」
「今日私達も初めて知ったんだけど、というか経験したんだけど、ギルドからの直接依頼で別の街に向かうように言われたのよ。モンスターが増えて困ってるからそっちでクエストを達成してきてくれって」
ギルドか。俺はまだ一度も顔を出したことがない。そもそも前線に出ずっぱりになる予定だったのでいちいちクエストを報告して報酬を受け取ったりする時間がないのだ。
「なるほど。そうすると当面はそっちの探索をする人が増えるだろうな」
「大半のプレイヤーはギルドに所属してるだろうし、そうだろうな。そもそもボスエリアを見つけたっていう話は未だに聞かないんだが、なんか特殊な場所にあるのか?」
「北の森は少し森が開けたところに魔法陣があった。南の海岸は磯の奥まったところにある砂場の上に魔法陣があったな。確かに、意識してさがさないと見つけるのは難しいのかも知れない」
俺はそういうものがあるのだろうと、まんべんなく探しながら探索をしていたので発見することができたが、ひたすら進み続けているだけだったらそう容易に見つかるものではないのかも知れない。
「だがボスモンスターは全く強くなかったし、今の段階で発見されて当然のものだと思ったがな」
「そんな感じかー。俺達も探してみるかな、とりあえず」
「良いの?ギルドの直接依頼は達成しないとペナルティーがあるんじゃなかったっけ」
「良いんじゃないか?北の探索がてら探せば、次の街を目指してるという言い訳も立つだろ」
「ああ、それなら良いかもね」
カルナとタクが今後の予定を相談している。
「俺が今持ってる情報はだいたいそれぐらいだな」
「了解。そう言えば、お前の仲間で槍使いっているか?」
唐突にタクがそう尋ねてくる。ルクのことだろうか。
「いるが、何かあったのか?」
「南の海岸エリアでやたらと強いソロの槍使いがいたらしくてな。お前の仲間かと思ったんだが」
「ああ、多分そうだな。俺は今日南のボスを倒してその先のエリアに入ったんだが、そいつは一足先に入ってたみたいだ」
「なるほどなー。12人だっけ?お前の仲間」
「そうだ」
俺が首肯すると、タクはため息をつき、カルナは驚いた顔をする。
「ムウくんと同じレベルが12人?それって一大勢力じゃない?」
「同じというか俺は探索に向けたスキル構成だから、純粋な戦闘力なら他のメンバーの方が上だろうな。連携を交えたらどうなるかわからんが」
「未だに信じられないけどな。いやお前が嘘をつかないのは知ってるけど、お前が強いってのも、そんな仲間がいるってのもさ」
「まあ、やり方が普通じゃないからな」
普通ならある程度の安全をとって休憩をはさみながらモンスターを倒すのだろうが、俺達はあの程度のモンスターに負けることはないとほとんど休憩を挟むことなくステータス的には格上のモンスターでも容赦なく狩っているので、ステータスも戦闘技術も上がっていくのだ。
「ごちそうさまでした」
情報交換が終わった後軽く雑談をしながら食事を終え、手を合わせる。
「もう行くか?」
「ああ。明日には出るからな。今日は最後に確認しないといけないんだ」
「そっか。まあ、頑張れよ」
「タクもな。それにカルナも」
カルナに目を向けると、笑いながらうなずいてくれる。
「私達は私達のペースで、ね。またいつか会えるのを楽しみにしてるわ」
「街に戻ってきて気が向いたら連絡する」
「ええ。じゃあね」
「じゃあな」
席を立ち、食事代を払って一足先にレストランを出る。ときにはこうして知り合いと話すのも悪くない。
レストランを出た後はそのままプライベートエリアに向かう。今日の夜は何処にも止まらずプライベートエリアで寝るつもりだ。今後探索をする中では、テントを張ることすらできず毛皮にくるまって夜を越すこともあるだろう。そのための訓練だと思っている。
プライベートエリアについたらまずは武器の修復、そしてアイテムの確認だ。戦闘スタイルもあって防具は今の所一切ダメージを受けていない。防具も武器同様ダメージを受けたままにしていると性能が下がり修復を必要とするが、くらわなければどうということはない。
「鏃の素材と木材矢羽、当面の食料に料理道具、キャンプ道具一式、採集道具と生産道具と。全部揃ってるな」
明日からの探索においては、新しいエリアを開拓することに加えてある程度アイテムを集めていきたいと思っている。マジック・バッグはすぐいっぱいになるだろうから、どこかアイテムを保存するための倉庫でも作れたら良い。そのための木材は現地調達が可能だろうから、木材を少し減らして代わりに砂や粘土など固形ではないアイテムを入れるための試験管のようなものを用意した。
食料も十分、水を組むための桶と鍋もインベントリに入っている。後は、行き当たりばったりで進むだけだ。準備はしっかりするが、見切り発車でなんとかなるだろうというのも大事だ。
「スキルレベルもだいぶ上がったな」
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv27
《スキル》残りSP10
[装備中]長弓Lv5 鷹の目Lv28 発見Lv29 聴覚識別Lv7 魔力Lv20
踏ん張りLv10 ステップLv17 気配Lv14 早業Lv12 跳躍Lv17
[控え] 弓Lv30 登りLv11 木工Lv23 細工Lv21 魔物素材加工Lv9 剣Lv4 絵画Lv5 料理Lv1
アビリティ:木を見る目・初級
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スキルのレベルは使用度によって上がり方にかなり差が出ているが、探索時に利用するスキルに関してはそこそこ上がっている。メインの武器スキルと索敵系のスキルがレベル30付近まで上がっているのだいい例だ。移動系のスキルは使用がそれほど頻繁ではないこともあって武器スキルほどは上がっていない。
特に“弓”スキルがレベル30に到達したことで、派生スキルの“長弓”スキルを取得できた。
スキルの成長には二種類あって、一つは“長弓”スキルのように元のスキルとは別で取得が可能なスキル。もう一つは、新しく成長先のスキルを獲得した場合進化元のスキルを失うスキルだ。二度同じスキルを取得できないこの世界では、特に進化元のスキルを失うスキルの取得は一つの決断を意味している。
一方武器スキルのようにいろいろな種類の派生が存在するスキルは、元のスキルが残ったまま新しいより特化したスキルが獲得できるのだ。
種族レベルも少しあがったが、レベル25を超えたあたりから一気に上がりにくくなった。アイアンアントを乱獲しすぎて何かしらの制限がかかっているのかも知れないが、南で戦っても全くと言っていいほど上がっていないので、レベル25を超えると上がりにくくなるようになっているのだろう。
それは“長弓”スキルも同じだ。やはり上位のスキルは一段回目のスキルと比べてレベルが上がりにくいらしい。
とはいえ、必要なスキルは揃っている。探索に支障は出ないはずだ。
アイテムを全てしまって毛皮にくるまり眠りにつく。明日からの探索が楽しみだ。
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