54.西の岩場-5
「カルマがいる場合は、こんな感じだ。タンクしかこなせないからそれを中心にした戦い方になる」
一段上から観戦していたカナたちに補足説明をする。カルマを中心に据えた戦い方はそれほど見栄えが良くないし、連携も何もあったものではない。能力の高いタンクが一人いれば完成する戦い方だ。
「言い方に悪意があるよね?」
「事実だろ」
カルマはじゃれるように文句を言ってくるが、こいつは本当にタンクしか出来ないのだ。なにせ攻撃手段が盾による殴打だけである。アタッカーに回せば明らかに火力不足な上に動きも他のメンバーに比べればだいたい遅いので、プラスにはならないのである。なぜここまで防御にこだわった戦い方をするのかたずねた事があるが、『人と違うことがやってみたかった。そう思ったらこうなってたんだよ』としか教えてくれなかった。確かに、ここまで特化した例も珍しいだろう。
「よいしょ、っと。無茶苦茶ですね…」
カナたちが俺達のいる場所まで降りてくる。
「まあ、参考にならないかもしれないから次は違う戦い方にする」
カナとマーヤはおれとトビアとこの世界が始まった日に一緒に戦っているので、ある程度は実力が高いことは予想できていたようで、それほど驚いていない。一方他の四人は、話を聞いていたとは言え呆気に取られた顔をしている。
そもそも、今の戦いは戦うのがうまいのでもなんでも無く、ただただ力でねじ伏せただけだ。あれでは戦いと言えない。
「あの、数を…作戦…?」
「無茶苦茶、ね…」
「カルマさん!あとで私達と戦ってみて!」
「ちょっと、ルカちゃん…」
ルカはよほど戦うのが好きなのか、驚きよりはカルマの防御にぶつかってみたい気持ちが強いようだ。根っからの戦闘狂だろうか。フォルクあたりと話が合いそうだ。
「時間があったらな。まあここからは俺は参加しないから、他の奴らの戦い方を見てくれよ」
「え、参加しないの?」
マーヤが驚いて声を上げる。彼女とカナがパーティーのタンク役を担うということで、カルマの動きをもう少し見たかったのかもしれない。確かに今の戦いでは連携というのは一切見れなかっただろうが、カルマ単体の動きとしてはタンクを担うプレイヤーの参考として非常に良いものだっただろう。ただ、そのレベルの話になると個人レベルで話してくれればいいから、俺としては特に口をだすつもりはない。そうやって交流が深まれば互いに良い日になるだろう。
「俺が参加したら戦い方が一辺倒になるからな。他のやつの実力が見せづらいしね。個人の技量としての話なら、後で見せてあげるからさ」
「ほんと!?やったね、カナちゃん!」
「はい。あれだけの攻撃を受け切る技術、ぜひ教えてほしいです」
「ま、後でね」
そう言ったカルマがこちらに視線を送ってくる。次にいこうと言っているのだ。
「よし、個人個人で話すのは時間のあるときにするとして、とりあえず次のモンズターを探して移動するぞ」
皆で移動する。今度は先程までと違ってパーティーごとにわかれてではなく、マーヤやルカといった物怖じしない組がカルマに話しかけているので、ある程度入り混じって歩いている。この調子であれば、今はまだうちのメンバーから距離を取っているアヤメやシズクもそのうち気を許してくれるかもしれない。
俺は先頭で索敵をしながら歩いているので話に混ざるつもりはなかったが、先頭近くまでミカヅキがやってきて話しかけてきた。
「ムウ、さん」
「なんだ。別に無理してさんづけしなくていいぞ」
近づいてくる気配に気づいていたので特に驚くこと無く端的に返す。
「いや、まあカナのお兄さんだし、そこは、ね。それより、武器を使ってるみんなは勉強できるけど、私達魔法使いとかアヤメみたいに暗殺するタイプは何を学んだら良いの?」
「みんなで考えたらどうだ」
「カナがムウさんに聞いてみたらどうかって。詳しいの?」
「なるほど」
カナのことだから、俺が一人で索敵をして誰とも話していないので気にかけてくれたのだろう。せっかくなので話すとしよう。
「敵に回す立場として一応色んなタイプのパーティーについては考えている。だからある程度は話せるぞ」
「敵、って、PvPのことね?」
「まあ、そうだな」
PvPとはプレイヤー対プレイヤーで行われる戦闘のことを指す。だいたいの場合は勝利条件が決められており、HPが0になるまで戦うことはない。俺の場合は決闘のようにして行われるPvPではなく、PKに襲われることやその逆を意識しているのだが、それは言わなくて良いことだ。
「じゃあ、私達は何を学べるの?」
「そうだな、っと。皆に少し迂回すると伝えてくれ」
「わかったわ」
正面に二匹のバサルモンキーを捉えて俺は指示を出す。二匹程度であれば強敵にはならなそうだし、無視するのが得策だ。
ある程度迂回したところで話を戻す。
「それで、俺達から魔法使いや隠密方のプレイヤーが何を学べるかだったな?」
「そうよ」
「まず。それぞれの行動を大きく分けてみよう」
「大きく、って?」
「分けると言われたときに、何を思いつく?」
条件の明快でない俺の問に対して、ためらいながらミカヅキが答える。
「…遠くから撃つか、近くで斬るか、とか?」
「そうだな。まずはそれが第一だ。それじゃあ次は、ミカヅキとシズクそれぞれの魔法の使い方について考えてみろ。どういうタイプに分けられる」
「手数、と火力、かしら。私は威力の高い魔法を使っているけど、シズクはそれほど強くない威力の魔法をたくさん打ち込む戦い方をするわ。あ、あと回復は両方使うわ」
「まあ、回復は極論味方が射程内に入っていれば問題ない。それよりはやはり攻撃のほうだな。例えば、さっきの戦いを見ていて、俺とミカヅキたちの戦い方で明らかに違うところがあったのはわかるか?」
「違うって、弓と魔法じゃあ全く違うじゃない」
当たり前でしょ、と言わんばかりにミカヅキが答える。まだ頭が少しかたいようだ。
「なんのために最初に大きく分けさせたと思ってるんだ。遠くからうつという点で言えば弓も魔法も変わらない。手数とダメージの量が違う程度だ」
「ああ、たしかに。それじゃあなにかしら。威力?」
「それ、ステータスの問題であって戦い方とは全く関係無いぞ。俺達が突き詰めようとしてるのはステータスに依存せずに常に活用できる戦い方だ」
「そう、よね…」
わからないのか、もったいないことだ。それを考えてさえいれば戦闘のパターンが増す。オーソドックスなパーティーが使う前衛中衛後衛をきっちり分けた戦い方では、限界があるのだ。ある一線を越えると、それこそ秒単位の連携が必要になったり、個人の戦闘力をあげなければいけなくなる。それでは、まったく高みにたどり着けないのだ。
「正解は、攻撃をする際の立ち位置と戦闘中の移動だ」
「立ち位置と移動?」
「ああ。思い出してほしいが、俺は基本的に戦闘中にタンクのカルマの背中側にいることはなかっただろ?しかも時々立ち位置を変えていたはずだ。それに対してミカヅキたちはずっとパーティーの後方にいただろ」
「魔法使いってそんなものでしょ。ムウさんと違って足遅いんだし。どのパーティーの魔法使いもそうしていると思うわ」
「だいたいのパーティーがそうしてるだろうな。タクたちのパーティーですらそうだろう。ただ、それじゃあ効率が悪いのがわからないか?」
「そう?みんなが使ってるならそれだけ効率がいいんじゃないの?」
「違うな。例えば、お前たちの戦い方で言えばマーヤとカナが常に前線を支えることになるだろう?」
「それは、そういう役割分担だし」
断言する俺の言葉に、それでも常識を信じているミカヅキは返す。
「そのときに、お前たちがカナたちが離れているタイミングで、もしくは離れさせてから魔法を打ち込むわけだ」
「そうね」
「横から打ち込んだほうが効率は良いと思うがな。モンスターの気を散らせるから前線の支えになるし、どちらも手を緩める必要がなくなる」
「そん、なの…。ヘイトの管理が難しいじゃない。タンクの後ろから出た魔法使いにモンスターが向かってきたらひとたまりもないわ」
やはり、オーソドックスな戦い方はこう、という先入観があると新しい戦い方を身につけるのは難しいようだ。
「タンクを信じてやれよ。タンクは、別に皆を攻撃から守る盾じゃない。モンスターを自分にひきつけて、味方の攻撃を完璧な形で通すための囮だ」
守る意識、ではなく、攻める意識。受けに回っては楽しく戦えない。だからこそ、俺が考えた理論。別に何からとったわけでもないが、名前のないできあがったものにあとから理論を追いつかせて考えるのは好きなのだ。
「タンクを、信じる…」
「それに、そんなのは立ち回り次第だろ。与えるダメージの調整や、自分が逃げれる距離を考える、もしくは移動系のスキルを一つだけでも取得する。やり方はいくらだってある。それを考えないでただ連携とタイミングだけを深めてもたかが知れているだろ」
本当に、たかが知れているのだ。なぜか、俺達以外のパーティーは魔法使いを完全に全員の後ろにおいて支援をさせようとすることが多い。中衛の剣士や槍使いは側面に回り込んで攻撃することがあるのに、だ。たしかに、そうすれば危険をおかすことなく安全な戦いができるのだろう。
だが、面白くない。
モンスターのタイプによって多少の対応を変えることはあれど、大筋は一緒。非常に退屈だ。いろいろな戦い方を試してみればいいじゃないか。戦いは見て学ぶこともできるが、想像することもできる。どんな敵が存在し、それに合わせてどのように陣形を組むのか。それを想像しないし、それでいけるからそこで止まってしまうのだろう。
「そんなこと、できるのかしら…」
「さあな。それこそパーティー次第だ。どれだけ互いを信用できるか、どれだけの能力があるのか。そんなのはミカヅキたちで考えてくれよ。今日の俺達はあくまで、一つの参考例にすぎないからな。まあ後で昼休憩にでも話すタイミングはあるだろうが」
「そう、ね」
俺の話を聞いたミカヅキは深く考え込む。自分の中の常識と相談しているのだろう。その間も俺は索敵をしながら進む。このエリアは森と比べれば視界もそこそこ開けているし余計な雑音がないので聞き取りやすい。
自らが突き詰めたものを伝えるというのは、なかなかに難しいものだ。俺が経験と想像でたどり着いた道を辿らせなければ、俺と同じ納得はたどり着かない。今日はせいぜい、彼女たちが一歩でも進めるように頑張るとしよう。
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