53.西の岩場-4
レンたちに、出現するモンスターが一段階強力になるあたりまで進むということを伝える。
「それがいいだろうね。あんまり街に近いところだと戦っても面白くないし」
「そもそも弱いの相手にしているのを見ても参考にならないだろうよ」
レン、シン、カルマはそう肯定してくれた。一方ラルは少し心配な様子だ。
「我々が戦う分には問題ないが、彼女らが戦おうと思った場合にきついのではないか?」
「安全マージンを取りすぎなければそれぐらいの実力はあると思うがな」
「根拠は?」
「勘だ」
俺の答えにラルが、うぬぬ、とうなりながら考え込む。
確かに、俺達が厳しい戦いをするようなエリアでは、カナたちが安全に戦うのは厳しいかもしれない。だが、彼女らとて攻略組の上位ではあるし、危なくなれば俺たちが介入することもできる。そういう意味では、その程度の実力はある、と言ったのだ。
街を出たあたりで、先頭にいたレンがこちらに呼びかけてくる。
「ムウ、先導してくれ」
「了解」
そこで、良いことを思いついてカナたちのパーティーを振り返る。
「パーティーの索敵担当は誰がしている?」
俺がそう尋ねると、みなが同時にアヤメの方を向く。
「わ、私です」
アヤメはおずおずと手を挙げる。アヤメは、話し方からもわかってはいたが、目立つのが苦手なようだ。
「アヤメ、前に来て索敵をしてくれないか?街から近いところのモンスターは避けていきたい」
「ま、前に行くんですか?」
「ああ、索敵担当ならせっかくだし実力を磨くいい機会だと思うが」
普段は、どこにモンスターがいるか、を確認してメンバーに伝えるぐらいだろうが、モンスターを避けて進むとなると、単純にモンスターの居場所を確認する以上に、モンスターの注意がどこに向いているのか、や、モンスターに気づかれないためにはどうすればいいか、といったことを考える練習をすることができる。それはアヤメの斥候としての能力を高めることにもつながると思うのだが。
アヤメは、もじもじして何か悩んでいるようだ。
「兄さん、アヤメさんは人見知りなところがあるので、みなさんが前にいてそこに1人で先頭に立つというのは難しいと思います」
「ああ、そういうことか」
単純に前に俺たちのパーティーがいる状態で先頭に行くのは恥ずかしくて無理だったということだろう。それなら話は簡単だ。
「前後を入れ替えよう。そして街に近いあたりで戦闘になってしまった場合にはそっちで対処してくれ」
「す、すいません」
アヤメが申し訳無さそうに謝ってくる。別に人と接するのが苦手なのはおかしくないだろう。俺も人と話すのは得意そうに見えているかもしれないが、当たり障りのない話ができるだけだ。
「いや、知らない奴らと急に仲良くしろといっても難しいだろうしな。仲良くなれそうなら今日一日で少しでも話してみてくれたら良い」
「は、はい」
アヤメは再びペコリと頭を下げてくる。こう謝られると妙にやりづらい。
再び前に移動してレンたちに伝える。話していた間もあるき続けていたので、そろそろ岩場に突入しそうだ。
入れ替わってからしばらくまっすぐ西に向かってあるき続ける。しばらくは道が存在しているので方角がずれてしまうこともない。
アヤメの索敵能力はしっかりしているようで、モンスターの位置もしっかり把握できているようだ。ただ、俺のように聴覚を強化していたり、“発見”スキルのレベルが高いわけではないようで、時折他のメンバーに止まるように支持して、目視で確認しに行っている。それも索敵の手段の一つだろう。俺の索敵方法では地形の特性までは把握できないので、どちらが優れているというわけでもない。
時折、モンスターが群れていてどうするか迷ったりしていたが、他のメンバーと相談してうまくくぐり抜けていた。個人の斥候としても、パーティーの一員としても優秀なようだ。アヤメがいるのならトーヤを連れてくればよかったかもしれないと思ったが、今更な話だ。
しばらくモンスターを無視して進み、1時間ほどで昨日俺とカナたちが話したところへ来た。足場が石や岩で構成されているとは言え、北の森よりはだいぶ進むのが楽そうだ。あちらも俺1人で進むならどんどん進めるが、他のメンバーはそうは行かない。
体感の話ではあるが、出現するモンスターが変わるのはまだ進んだところだろう。俺の脳内地図が正しければ、北の森のボスエリアは街から6キロ程度のところにあったはず。それに対してこの場所は1.5キロ程度なので、まだ半分も行っていないことになる。しばらくは大丈夫のはずだ。
そこからさらに西に向かって進み続ける。途中で何度か戦闘を避けることが出来ずに戦っていたが、安定して倒していた。確かに、レベル上げを安全に行うなら、カナたちにとってはこのあたりのレベルがちょうど良さそうだが、まだ先の相手でも問題はないだろう。
そこからさらに一時間ほど進んだあたりで、カナがこちらに相談に来る。
「兄さん、新しいモンスターが見つかったんですが、どうしますか?」
「わかった。このあたりでいいだろう」
後ろで聞いていたカルマたちにも伝える。
「このあたりでいいか?」
「物足りないが、まああっちのレベル考えるとしょうがないだろ」
カルマは最初の5日間で西を探索しているので、このあたりのモンスターの強さはわかっているのだろう。
「4体以上いると嬉しいけどね」
北の森だとモンスターが変わってすぐは群れはそれほど出現しなかったがどうだろうか。あちらのはダンロンベアもダオックスも大型で強力だったから単体で出現していたとも考えられる。前衛の全員が一人一体相手にするには4体モンスターが出現する必要があるが、どうだろうか。まあこのメンツなら一人1体相手というのもないだろうが。
カナたちに戦うことを告げて索敵する。数は3体、バサルモンキーという岩を武器にする猿が二体にダンピアという巨体の猛獣が一体だ。ダンピアは北の森で言えばダンロンベアかそれ以上の存在だろう。運が良いのか悪いのか、なかなかに危険なモンスターの群れにぶつかったようだ。
「よし、あれを狩るぞ」
「え、あの群れを倒すんですか?」
俺がカナたちに告げるようにそう言うと、シズクが驚いたようにそう言う。
「ああ」
「明らかに今までのモンスターとはレベルが違うと思うんですけど」
「βテストの頃もあれぐらいならいただろ」
「それは…」
他の5人も、大丈夫だろうかと言いたげな目で見ている。昨日話したことを効いていれば大丈夫だとわかりそうなものだが、まだ今ひとつ信じがたいのだろうか。単純にダンピアの大きさをみて驚いているのかもしれない。
「さて、どうしたい?」
「俺が突っ込んで引き受けるから、後は攻撃加えてくんね?」
「1体ぐらいよこせよ」
カルマの提案にシンが文句を言う。今回はカルマの案で行こう。どうせ数回戦うだろうし、いろんなパターンを見せたほうが良い。まずはタンクの能力を示す。ラルもタンクではあるが、カルマがいる以上アタッカーに回らざるを得ない。カルマはタンクしか出来ないからだ。
「カルマの案で行く。シンはこの後の戦闘で暴れてくれ」
「了解」
「はあ、しょうがないか。わかったよ」
「うむ、俺はアタッカーであるな」
「ああ。ラルは今日はアタッカーメインで頼む」
「承知した」
カルマがアイテムインベントリから巨大な盾を取り出す。後ろでカナたちがビクッとした気配がしたが、今は前に集中だ。
モンスターは俺達の立っているところから大きな岩を挟んだ、少し俺達より低い位置にいる。カルマは盾を構えると、大きな声を上げながら岩の裏側へと突っ込んでいった。
「ガオンッ!!」
岩の裏側からダンピアのものらしき咆哮が聞こえるころには、残りの三人は岩の向こう側へと回り込んでいた。
カナたちが慌てて見える位置に動いてるのを確認して俺も参戦する。
カルマの防御はやはり安定しており、右手の巨大な盾と左手のバックラーですべての攻撃をうまくさばいている。さらに巨大な盾を片手で保持する腕力は尋常なものではないので、巨大なダンピアの叩きつけでも一撃で防御が崩れることも叩き潰されることもない。
そしてカルマがタウントを使っていることでモンスターのターゲットは完全にカルマに向いており、レン、シン、ラルは殴りたい放題だ。
ラルは片手にメイス、片手に斧を持って交互にそれを振るうことでダメージを与えている。双剣のように両手で舞うように斬りつけるのではなく、一撃一撃交互に振りかぶって重みをこめた攻撃だ。二つの武器を扱う技術というよりは単純に両手に武器を持って暴れている。バサルモンキーはその攻撃で体勢を幾度も崩されており、カルマからラルにターゲットが向きそうである。
他方レンはもう1体のバサルモンキーを攻撃しており、こちらはヘイトを稼ぎすぎないように適度な攻撃にとどめている。シン同様に両手で武器を持っているが、ラルが力を感じさせるのに対してシンの攻撃は右の刀が切り裂くと、その勢いを止めるのではなく回して左の刀の攻撃につなげているような形だ。連続して攻撃するときにはその場に踏ん張って、膝から上の動きだけで攻撃を放っている。どうやっているのだろうか。
レンはダンピアを攻撃しているが、側面から後ろから好き勝手に斬りまくっている。あれでダンピアがシンの方に行かないのだから、カルマは本当に優秀だ。
俺もダンピアに狙いをつけて射始める。それに気づいたカルマはニヤリと笑った。
「聞かんなあ、それぐらいでは!もっと強く殴ってみろ!」
巨大な盾を、腕を振りかぶったダンピアの顔に叩きつける。大きなダメージはなかったようだが、熊とライオンを合わせたようなその顔が怒りに歪む。行動の阻害と頭部への攻撃というヘイトを大きく稼ぐ二つの攻撃をしたので、ダンピアはより一層カルマへの攻撃を激しくした。
俺はそれを確認して心置きなく矢を打ち込む。鉄蟻の矢はもったいないので使うのは鉄の矢だ。
頭部を狙うにはカルマの体が邪魔をするので、胴体に向かってどんどん居続ける。他の場合は振り上げた脚を狙ったりしてタンクを手伝ったりするが、カルマの場合には全く心配がいらない。
「ふんっ!」
ラルが、ラルの方を向いたバサルモンキーの振り回した岩をメイスで受け止めて斧でその胴体を全力で薙ぐ。それですでに瀕死だったバサルモンキーは力尽き、光の粒となった。
ラルはそこで少し後ろに下がって戦闘を見守ることにしたようだ。残りはシンとレンの取り分である。
レンはラルほどダメージを一気に稼がず、丁寧に攻撃していたので、最後までバサルモンキーに狙われることなく倒しきった。
俺とシンはかなり全力でダンピアを攻撃したが、やはりバサルモンキーに比べて相当硬い。
ただ、カルマが攻撃を引き受け続けているので、安定して殴り続けれるため、それほど時間はかからなかった。盾で防御しているとはいえ、強力な攻撃を受けていると防御を抜けたダメージが蓄積されていくので、俺は後ろからポーションをカルマにかけたが、かけなくても先にダンピアが倒れただろう。
「つまらん!カルマタゲ取りすぎだ!」
「俺の仕事だからな。しょうがないだろ」
「次は俺がやるからな」
「わかってるって」
シンは自分の方を向かない相手を攻撃していても退屈だったようだ。たしかにそうだろう。カルマが本気になるとあれほどモンスターが動かないのだなと俺も驚いていた。
単純にターゲットとなり続けるだけでなく、ダンピアが移動攻撃をしそうになると頭部に攻撃を当ててそれを阻害していた。タンクとして完成している。
「楽だったな」
「横から殴っているだけであったからな。少し気が引けたわ」
「全力で殴ってただろ?」
「気がひけるのと全力を出すのは別の話であるぞ」
互いにねぎらいの言葉をかけながらカナたちのところへ戻る。さて彼女らはどう感じただろうか。
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