52.始まりの街ルクシア-17
翌朝、早めに起きて中央広場に向かう。時刻は午前7:00前。カナたちとの集合時間は8:00、レン達と合流するのはその前だ。先に食事を済ませておこうと思い早めに宿を出た。俺の入った宿では夕飯しか出してくれないようだったので、外に出てきたのだ。
とはいえ、この時間ではレストランや食堂は大体が閉まっている。食事を変えるのは早くから活動している一部の露店ぐらいだ。他の露店が閉まっている中で、朝はやくから活動するプレイヤーに対して食事を提供しようという店は割とあって、買う場所には困らなかった。
買ったのはサンドイッチと焼き鳥である。昼食には一応サンドイッチを購入しておいた。今日来てくれるメンバーの中には料理をできるメンバーがいないので、作ってきてくれることはないだろう。
「ムウ、おはよう」
「おはよう」
広場中央の噴水の前でサンドイッチと焼き鳥を頬張っていると、レン達がやってきた。全員準備は出来ているようだ。
「今日は畑の管理は良いのか?」
農業関係をするために街の残っていたという話を聞いていたので、そちらは良いのかと尋ねる。
「今は夜に収穫に行っても問題ないのかを確認しようとしてるから、一日ぐらい離れても問題ねえよ」
「枯れていたらまあショックではあるがな」
ガハハ、といつもどおりラルが笑う。今日は先日と違ってガッシリとした金属鎧を装備している。カルマも部分的に金属パーツのある鎧を着ている。今はしまっているが街を出たら盾を出すのだろう。
やはり、しっかりとした装備を着たプレイヤーというのは、なかなかに壮観だ。まさに冒険者である、というのが伝わってくる。
「なるほど。それなら良かった」
「それよりムウ、お前って妹なんかいたんだな。紹介してくれりゃあ良いのに」
シンの言う紹介してくれりゃあ良いのに、というのは1人のプレイヤーとして、という意味だろう。せっかく仲の良いプレイヤーが仲間の他にいるのだから、仲間のことを紹介してくれても良いだろうに、ということだ。
「基本的に俺が何をしているかの話はしてなかったからな。一応昨日話しはしたが、戦い方とかは今日見せるだろうし言ってない」
「そっか。戦い方に関しては言ってもらっても別に困らなかったけどな」
せっかく見せるなら驚いてもらったほうが良いだろうに。
とりあえず雑談をしながら、食事を終える。他の四人は宿で朝食が出たらしく、もうすんでいるようだ。昼食もそれぞれに買ってアイテムインベントリに入れているらしいので大丈夫らしい。
8:00前になったのでカナに連絡する。
「おはよう」
『おはようございます』
「こっちはもう準備できてるが、そっちはどうだ?」
『こちらも今宿を出たところです。どこに集合にしましょうか?』
「中央の噴水前ででどうだ?今そこにいるんだが」
『わかりました。すぐに行きます』
「了解」
カナとの連絡を切って4人を振り返る。
「もう来るそうだ」
「了解」
「今日はどういう感じで戦い方を見せるんだ?」
シンがそう尋ねてくる。戦い方の見せ方と言われても、俺たちが戦っているところを見せるぐらいしか無いと思うが。
それを説明すると、シンとレンに呆れたようにため息をつかれた。
「ムウ、それって文字通り見せるだけじゃないか」
「そうだが?俺はそのつもりで話をしていたが」
「確かに戦っているところを見せるって言うならそれでも良いと思うけど、わざわざ集まっているんだからそれぞれで話を聞いたりもしたいと思うよ。じゃないと楽しくないでしょ」
「まあそうだろうが、それだとお前たちに迷惑だろう?」
俺だけならどのような動きや立ち回り方をするか教えるのは構わないが、自分たちの戦闘の練習をしたい彼らにとっては、出会ったばかりのプレイヤーに細かく話を聞かれるというのは迷惑な話ではないだろうか。そう思って、文字通り「見せる」だけのつもりの話をしていたのだが。
「それぐらい迷惑じゃないよ。それに迷惑云々で言うなら、そもそも来てないしね」
確かに、それもそうである。迷惑云々で言うなら、他のプレイヤーに戦い方を見せるために集まる時点で余計な手間をかけているのだ。
はじめに彼らに確認すべきであった。せっかく集まってもらって複数のパーティーで一緒に狩りに行くのだし、交流を深めたほうが楽しいだろう。
あまり知らない人と冒険をしたことがないので、どうなるのだろうか、と考えていると、カナたちがやってきた。
「兄さん、おはようございます」
「おはよう、みんなもおはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」
互いに挨拶をする。他のメンバーは互いに初対面なので普段は適当な人でも敬語が出ている。初対面という緊張を解すためにも自己紹介をしておいたほうが良いだろう。
「カナ、それぞれ自己紹介をしないか?せっかく一緒に冒険するんだし、名前ぐらい知っておいたほうが話しやすいだろう」
「そう、ですね。それではこちらから」
そう言って、カナから順に自己紹介をしている。マーヤやルカは元気よく自己紹介をしているが、アヤメやシズクはおっかなびっくりと言った感じだ。
「次はこっちだな」
レンから順に自己紹介をしていく。こちらはみんな割と堂々としている。それほど緊張していないのだろう。
「どちらの方向に行こうか。何か要望とかあるか?」
今日の行き先は集合してから話すと決めていたので、ルカたちにそう尋ねる。今日は彼女たちに戦い方を見せるということだったので、戦う相手は彼女たちが決めた方がいいだろう。
「うーん、どこが良いんだろ。私達は西にしか行ってないから他が良くわからないよ」
「ボクは西が良いな。探索も進んで二石一鳥だし」
「一石二鳥ですね。でも、それが良いかもしれませんね。西のモンスターだったら私達も強さがわかりやすいですし」
軽く6人で相談した後、カナがこちらを振り返る。
「ということで、西の岩場に行きたいんですけど、良いですか?」
「ああ、問題ない」
他の4人は、今日の戦い方を見せることについて乗り気になってくれているようだったので、どこに行くことになっても問題ないだろう。
行き先を伝えると、案の定納得してくれた。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
レンがそう声をかけて歩き出し、他のメンバーもそれについて歩いていく。午前8:00を過ぎたためか、他のプレイヤーもそこそこ行動を始めているようだ。露店にも活気が出てきた。
それぞれのパーティーで固まって進む。まだ打ち解けることは難しいだろう。個人的には打ち解けたほうが楽しいとは思うが、打ち解けなければそれはそれで問題ない。
「カナ、戦う場所は俺たちが選んでもいいか?」
「別に構いませんけど、西の岩場に行くんじゃないですか?」
俺の質問に、カナが不思議そうに尋ね返してくる。言い方が悪かったようだ。
「いや、西の岩場のどのあたりまで進むかという話だ」
「ああ、それならおまかせします」
となると、進むのは昨日たどり着いた位置よりも先のほうが良いだろう。なかなかに、楽しい一日になりそうだ。
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