51.始まりの街ルクシア-16
何か気づかないうちに精神的に傷ついていたようだ。
「何かあったのか?俺でいいなら話を聞くが」
俺がカナから離れて活動していたこの数日の間に何かあったのだろう。
「え、いや、久しぶりに兄さんに会えて嬉しいんですけど、なんかホッとしたら急に…」
精神的に張り詰めていたようだ。カナが泣き止まないので、小さい頃にしていたように頭をなでる。中学生あたりからしてなかったが、俺にとってカナはいつまで立っても可愛い妹である。
「…ありがとうございます」
しばらくそうしてなでていると、やがて泣き止む。
「落ち着いたか?」
「はい。もう大丈夫です」
泣いたせいで少し目元が赤いが、一応は落ち着いているようだ。
「カナはどうしたんだ?」
なんで急に泣き出したんだ、とは聞けない。カナの話を聞きながら考えよう。
そこからカナは先程までの俺のように今日まで何をしてきたか話してくれた。最初はこの世界から出られなくなったことが信じられなかったこと。その後ようやく動き始める気力が出来て今のメンバーと合流したこと。そして探索をしていて俺とあったことを話してくれた。
「カナも最初はショックだったのか」
「当たり前じゃないですか!しかも兄さんはそこで置いていきますし!…あ、ありがとうございます」
そこで料理が届いたので、一旦話を中断して受け取る。
「兄さん、なんであそこで私を置いていったんですか?」
「置いていったというつもりはなかったんだが、他のやつと合流するためだな」
「そういうことじゃないですよ…」
「まあでも、実際仲間と合流するためだからな」
そう言うとカナは軽くこちらを睨んでくる。
「こんな状態になったんですよ?なんで兄さんは平気なんですか?」
なるほど。俺はあの状況でカナから離れることに特に何も感じなかったが、カナはそうではなかったようだ。
「不安だったのか?」
「不安に決まってるじゃないですか!ゲームから出れないんですよ!?帰れないんですよ!?」
「わかった。わかったから大きな声を出すな。そうじゃなかったら外で話したほうが良い」
今いるのはレストランの中だ。他に客もいる。壁際にいるのでそれほど注目を集めていないが、さすがに大きな声を上げると周りから何をしているのかと訝しまれる。
「す、すいません」
大声を出す場所ではないと気づいてくれたようだ。
「そうか…。俺はこの世界で冒険ができるぐらいにしか考えてなかったからな。そこまで不安に思っているとは思わなかった。ごめんな」
「…はあ。兄さんはそうですよね」
少し呆れられてしまったようだ。普通なら不安でたまらないのだろうか。おそらくそうなのだろう。カナが泣いてしまったぐらいだ。俺にはそれがわからなかった。だからカナを置いて進んでしまった。
「置いていってしまってごめんな」
「もう、いいですよ。話してたら怒っていたのも忘れちゃいました。それより、覚める前に食べましょう」
「そうだな」
カナの様子がおかしかった理由もわかったところで、二人で食事をとる。
「そう言えば、今日は何か用事があったんじゃないのか?」
ふと、わざわざ呼ばれていたことを思い出して尋ねる。
「用事というか、昼間はみんながいたのでいつもみたいに話せませんでしたから。久しぶりに会って話したり、置いていかれたことに文句を言いたかったんですよ」
からかうようにそう言われるので、一応謝っておく。
「それは本当に悪かったと思ってる」
からかわれているのはわかっているが、じゃれ合うようなものだ。
「良いですよ。こうして話せましたから。明日は一緒に冒険ができますしね」
「ああ、後で明日行けるメンバーも探しとかないといけないな」
「お願いしますよ?兄さんにはあんな感じで突っかかってましたけど、結局みんな楽しみにしてましたから」
「なんとか集めてみる」
おそらく街にいるメンバーは少しはいるはずだ。俺ほど夜の外での過ごし方や、食料調達について考えているやつはいなかったはず、と思いたい。“料理”スキル持ちの奴らは食料調達はできるが、テントの入手までは出来ていないはず。
「ありがとうございます」
何かしらあいつらに要求される気もするが、うまいこと言ってついてきてもらおう。ルクも俺と合流するために一日かかると考えれば来てくれる気がする。
それから、カナといろいろな話をした。この世界のこと、仲間のこと。俺の仲間に関しては戦い方まで明かしていいかはわからなかったので、ある程度曖昧に言っておいた。明日担ってからのお楽しみだと言えば納得してくれた。俺が北の森の先のエリアの話をすると驚いていた。
カナからは、カナの仲間の面白かった行動や、他のプレイヤーの動向の話を聞いた。多くのプレイヤーが動き出して掲示板などでの交流も活発になり、中には実力やβテストからの評判で有名になっているパーティーもあるようだ。タクたちのパーティーもその一つであり、ミカヅキは憧れているらしい。他にも何かしら特徴のあるプレイヤーが評判になったり、一部のプレイヤーが中心になってまとめたりしているようだ。ギルドのようにプレイヤーが組織を作れるシステムは見つかってないようだが、見つかったらいくつも集団が生まれるだろう。
久しぶりに長々と話し込んで、かなり時間が立ったのでそろそろ解散ということになり店を出る。
「美味しかったですね」
「ああ。やっぱり飯はうまいほうが良い」
俺が当然のように答えるとカナは楽しそうに笑う。
「今日はわざわざ来てもらってありがとうございました。おかげで元気が出ました」
「ああ」
カナにそう言われて、返す言葉を考える。結局、俺が言えるのは俺がいつも思っていることだった。
「楽しめよ。この世界を。せっかくゲームがしたくてここに来たんだ。こんなワクワクする世界楽しまないと損だろ」
俺の言葉に、カナは苦笑しながら答える。
「兄さんらしいですね。でも、私も楽しんでみます。兄さんも、呼んだら付き合ってくださいよ」
「よほど忙しくなければ…まあ」
カナが不安になるとわからず泣かせてしまった以上強くは答えれない。カナもそれをわかっているのだろう。ニヤニヤしている。
「約束ですよ?」
「街から離れてたらすぐには戻ってこれないからな?」
「そんな頻繁には呼びませんよ」
「そうだな」
ありがとう、とは言いづらい。ただ、やはり新しい場所新しい景色へと冒険をしたい俺にとっては、そう頻繁に声をかけられても行けないのも事実だ。
「じゃあ、兄さん、また明日」
「ああ。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
カナと別れて今日の宿に行く。明日はどちらの方向に行くか合流してから相談することになっていたので、近場の宿に泊まった。
カナと久しぶりに話していい気分なのでそのまま寝てしまいたいが、明日ついてきてくれるメンバーを探さないといけない。
まずはレンに連絡する。彼が街にいるならシンも街にいるはずだ。
『もしもし、ムウ?』
「夜遅くにすまない。今大丈夫か?」
『大丈夫だよ』
レンに明日カナたちに戦闘を見せることを説明する。
「付き合ってくれるやつを探してるんだが、来てくれないか?」
『んー、俺は良いよ。シンとラルとカルマにも聞いてみようか?』
「一緒にいるのか?」
『うん。農業体制がある程度固まるまで相談してるんだよね』
それは好都合だ。
「聞いてみれくれるか?」
『ちょっと待ってね』
フレンドコールはつないだままなので、レンが三人に説明している声が聞こえる。
『もしもしムウ?聞こえてたと思うけど、全員良いらしいよ』
「助かる。明日の朝は7:30に中央広場集合でいいか?」
『了解。じゃあ、また明日ね。おやすみ』
「ああ、おやすみ」
これで明日のメンツは揃った。一応ルクには明日は街を離れるということを伝えておく。彼は俺に何かしらの絵を書くことを依頼しようとしていたので、明日は無理だと言っておく。
『どうした?』
「明日は街を離れるから絵を書けないことを伝えておこうと思ってな」
『ああ。わかった。俺の方はまだしばらく見つからなそうだな。海で美しい景色を探してるんだが、どうやらエリア制限があるみたいだ。だからまだしばらく絵を書いてもらうものは見つからなそうだ』
「わかった。楽しみに待ってるぞ」
『ボスエリアを見つけたから明日からその先を狙ってみる。もうしばらく待ってくれよ』
「了解」
ルクとの連絡を切ったあとで、彼も誘えばよかったかと思ったが、もう一度連絡するのもどうかと思いやめておいた。
矢の生産も行って予備を大量に作っておきたいが、今日はもう寝よう。
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv22
《スキル》残りSP6
[装備中]弓Lv29 鷹の目Lv22 発見Lv21 聴覚識別Lv3 魔力Lv15
踏ん張りLv4 ステップLv12 気配Lv10 早業Lv5 魔力操作Lv6
[控え] 登りLv11 木工Lv15 細工Lv17 魔物素材加工Lv6 跳躍Lv13 絵画Lv1 剣Lv4
アビリティ:木を見る目・初級
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