50.始まりの街ルクシア-15
俺たちのパーティが強いというのと、参考になるというのはまた別の話である。カナたちのパーティーではミカヅキとシズクは装備の見た目から魔法を使っているのがわかる。さらにミカヅキとシズクの種族はふたりともおそらくハーフアルヴかエルフであり、どちらも魔法に秀でた種族だ。
「俺たちは参考にならないと思うぞ。そもそも魔法職が一人もいないからパーティとしての立ち回りもぜんぜん違う」
「パーティーに魔法をメインにする人がいないの?」
「いや、魔法を使うやつが一人もいない。全員ロストモアだからな」
「…それで戦えるんですか?」
魔法職であるミカヅキとシズクがそう尋ねてくる。二人は魔法に有用性を見出しているために、魔法を一切使わないというのは不思議に感じたのだろう。他の4人も疑問に思っているようだ。
「魔法職がいないならいないで戦い方がある。もちろんいたほうが汎用性は高くなるし有利なのは当然だがな」
そう答えておいて、改めて俺たちの戦闘を見たところで有益なことはそれほどないと伝える。
「だから、このパーティーで俺たちの戦闘を見てもそれほど参考になることはないと思うぞ。もちろん、それでも見たいと言うなら集まるだけ集めてみるが」
俺は今はそれほど街から離れれるわけではないので、一日戦闘を見せるぐらいは特に手間ではない。トビアやフォルクは戻ってきていないだろうが、他にもメンツを探せば4人ぐらいは揃うだろう。
「そう、ですね。私はそれでも見せてもらいたいです。というか、それのほうが興味がわきました。みなさんはどうですか?」
カナは魔法を使わない戦闘でも見たいようだ。他のメンバーにも聞いてるが、だいたい皆興味があるようだ。
「私も、タクさんたちより強いと言うならどれぐらい強いか見たいわ」
「ボクもみたいよ。久しぶりにトビアに会いたいしね」
「私も!武器を使ってるなら私はそっちのほうが参考になるし!」
「私も良ければ見たいですね」
アヤメはコクリと俺の方を見てうなずいている。全員興味があるようだ。
「わかった。手すきのメンバーを集めてみるが、まあ俺含めて4人ぐらいだと思う」
「固定じゃないんですか?」
そうか、普通は固定でパーティーを組んでいるからそれも説明しなくてはいけないのか。
「俺たちは12人のメンバーの中で互いに適当にパーティーを組んでいるだけだからな。固定のメンバーはいない。全員腕は確かだから心配するな。ああ、それとマーヤ、トビアは来ないぞ」
分かる程度に説明しておいて、言い忘れていたことを言っておく。トビアとフォルクは北の森の先に行っているから声をかけても戻ってくることはないだろう。俺も早く先に進みたい限りだ。
「え、そうなの!?せっかく久しぶりに会えると思ったのに。ボクがいるって言っても来てくれないかな」
「北の森の先にいるからな。そっちの探索をしてたら戻ってくることはないだろう」
「そっかあ」
少し残念そうではあるが、俺達は基本的にそれぞれが楽しいことを好き勝手にやっているので、そこは仕方ないとしか言えない。街にいる連中だって、呼んでも来てくれない可能性は大いにあるのだ。
「それじゃあ、俺はもう少し探索してきていいか?」
昼食も終えたし、少し長く話しすぎた。絵を書き終えて食事をしたらもっと奥まで、できることなら遠くに見えたボスエリアへつながる魔方陣があるだろう岩山までとりあえず行ってみるつもりだったのだ。モンスターがダンロンベアやダオックスと同等の攻撃力を持っていたとすると俺一人では骨が折れるだろうが、避けて進めばどんどん奥へと行くことはできる。このエリア側から蟻の巣へたどり着くことができるかも少し興味があったので、時間があればそれも探索するつもりでいた。多少夜に入ったところで“聴覚識別”スキルが有れば問題はないのだ。
「え、まだ探索をするんですか?そろそろ街の方に戻り始めたほうが良いと思いますよ?」
「帰りは戦闘は極力避けてまっすぐ帰るからもう少しはねばれる。カナたちもある程度レベルがあるなら強力なモンスターのいるところで粘って、弱いモンスターは無視したほうがレベル的にも効率がいいぞ」
初期の方は帰り際に見つけたモンスターでもそこそこレベルアップが期待できるが、強力なモンスターを相手したほうが効率がいいのは確かである。
「明日からはそうしようと思ってたんですよ。今日は街で用事があるのでもう戻ります」
「そうか。じゃあまた明日」
「…はい、また明日。時間は夜に連絡していいですか?」
「ああ」
カナの返事が少し気になったが、すぐにパーティメンバーと一緒にセーフティーエリアを出ていったので気のせいだろう。
俺も少しだけこの周辺を探索してから街に戻る。時間から鑑みて奥の岩山まで行くのは無理だったので、バサルモンキーと初めて戦闘をしたあたりから街へと戻り始めた。
明日付き合ってもらうメンバーへの連絡は街に戻ってからにしよう。
街の近くで出現するモンスターは無視して街に向かう。そろそろ街につくかといったあたりでフレンドコールがかかってきた。
「もしもし、マナか。どうした?」
『兄さん、明日の相談も含めて食事に行きませんか?』
「二人でか?」
『はい』
「わかった。もう少しで街に戻るから待っていてくれ」
『じゃあ、西の門で待ってますよ』
「りょうかい」
すでにあたりは暗くなっている。時刻は夜8:00を回ったあたりだろうか。街の四方の門からはある程度街から離れた所まで街道のようなものが伸びているが、底を歩いていても俺の他にプレイヤーは見受けられなかった。この時間帯に街の外にいるプレイヤーはすでに活動をやめて野宿に入っているだろうし、街に戻るプレイヤーはすでに戻っているのだろう。
街につくと、門のあたりに人影は一つしか無い。
「待ったか?」
「それほど待ってないです。みんなと話していましたから」
「そうか。とりあえずどこかのレストランに行かないか?」
夕食を一緒に取ろうという話ではあったが、それだけでなく何か話があるのだろう。
「そうですね、私が良いお店を知っているので着いてきてください」
やはり、何か普段と様子が違う。
カナから何も言ってこないので、俺からも特に話しかけることはせず大人しくついていく。何かあるのは理解できたが、それが具体的に何であるかわからないのでなんとも言い出せないのだ。
「ここです。安くて美味しいんですよ」
「そうか。探しておいてくれてありがとう」
「せっかく兄さんと食事をするんですから、良いところで食事をしたいですしね」
店内はそこそこプレイヤーがいるが、空席もそこそこあり、7割方客が入っているようだ。
俺たちは壁際の席について食事を注文する。何が良いかわからないのでカナに任せると、生姜焼き定食を注文してくれた。生姜、がそのまま通じることに少しびっくりする。そう言えばまだ野菜を売っている店に行ったことがないので、“料理”スキルを取ったら行ってみよう。
「兄さん、明日は是非よろしくおねがいします」
「ん、ああ、まあ俺たちはいつもどおり戦うだけだから、細かく指導をするかはわかからないがな」
カナから感じていた違和感はこれを伝えようとして生じていたものだったのだろうか。それほど緊張することだと思えないが。
「兄さんはこれまでどうしてたんですか?」
「そうだな…」
この世界から出ることができなくなった日からの話を、ひとつひとつ思い出しながらカナに語る。カナは時々笑ったり相槌をうったりしながら聞いてくれた。
様子が変わったのは、ダイアウルフを倒して街に戻ってきたあたりだ。にこやかに話を聞いていたはずが、いつのまにか涙を堪えるような表情になった。いや、こらえきれずに涙が一滴頬を伝う。
「カナ、なんで泣いてるんだ?」
「え?」
自分でも涙を流したことに気づいていなかったようだ。慌てて頬を拭う。それだと言うのに、涙はとまることなくむしろ溢れ出す。
「あれ?なんで泣いてるんだろ?」
何がカナにあったのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます