44:始まりの街ルクシア-14
昼過ぎになって、全員分の生産が終わったので、それぞれに武器や防具を渡して、最終調整をすることになった。ただ、寸法はしっかりとって作ったし、この世界において防具は装備した人の体格に合わせて自然と調整されるようになっているので、どちらかというとお披露目の要素が強い。
作業したときもそうだったが、一人のプライベートエリアに全員が集まると流石に狭いので、生産作業に使わなかったフォルクとトビアのプライベートエリアで、それぞれ武器と防具を渡すことになった。俺はトビアやラル、ルクの武器を持っているので、トーヤと一緒にフォルクのプライベートエリアに行く。
「…楽しみ?」
「ん?なぜだ?」
一足はやくフォルクのプライベートエリアで待っていると、隣りに座ったトーヤがそう声をかけてきた。
「…なんか、楽しそう」
「そうか?」
別にいつもどおりだと思うが。まあ楽しいといえば楽しいのか。新しい武器を誰かに渡してどう反応するかは確かに楽しみではある。そもそも俺は自分でも思うが裏方気質なのだ。何かしらのイベントがあったら、表で騒ぎたい奴らが騒いでいる間に後ろで騒げるように用意したり手伝ったり。それが無性に楽しくて仕方ない。
「確かに楽しみではあるな。新しい武器を人に渡したときに喜ぶのを見たら嬉しいだろう?」
フォルクのように楽しそうに作った武器を見てくれると、こちらも嬉しくなるのだ。刃をうったトビアたちであれば、この感覚はなおのことではないだろうか。
「…そうかな?武器は武器だから」
トーヤは理解できないというように首を傾げている。言葉足らずで少し分かりづらいが、武器は武器であるので新しいものに変えることは当然であり、それを作って渡したところで別に嬉しいとは思わない、といったところか。生産職のプレイヤーたちであれば俺と同じように人に使ってもらえれば多かれ少なかれ嬉しくかんじる人が多いとは思うのだが、裏方思考の珍しい考えかもしれない。
「まあ人それぞれだ」
少しトーヤは考え込むと、気を使うように言う。
「確かにご飯を食べるのは嬉しい」
「それは作ってもらうほうからしてだろ。まあ料理する方も嬉しいだろうが」
気を使って言ってくれたのだろうが、気を使っているのはバレたら意味がないとは思う。ただ、その心遣いはありがたく受け取っておく。どこに嬉しさ楽しさを見出すかすら人それぞれだからこそ、様々なプレイヤーがいるのだし、様々な生き方があるのだ。
「やあムウ、俺の武器はいい感じにできたかい?」
早速トビアがやってきたので、柄の長い片手剣を渡す。これがトビアの武器だ。後ろからはラルが入ってきた。武器を受け取りに来たのもあるだろうが、ラルはカルマの盾を作るのを手伝っていたはずである。あれは相当にでかくて邪魔なのでそれを渡すために来たのだろう。
「ラル、お前の斧だ」
俺が声をかけると、ラルが嬉しげに近づいてくる。
「ほう。なかなかの出来であるな。銘は何という?」
銘、か。考えていないな。自分の武器は思い入れがあったために名前をつけたが、個人個人の武器は俺がつけるというようりは、それぞれがつけたければつければいいと思う。俺が使うわけではないからな。それとともに生きるのはあくまで使い手たちだ。
「銘はラルが自分でつければいい。彫ったほうがよければ彫るぞ」
俺は自分が誰かのために作った武器の名前の部分は設定していないので、受け取った人たちが自由に設定できるようになっている。トビアは早速名前をつけたようだ。俺がトビアに渡したことで所有権が移っているので、アルトの窓を使って性能を覗き見ることはできないが、武器が完成したことはわかる。
「俺が、であるか?名前を考えるのは苦手であるな」
うーむ、とラルが深く考え込む。その間にルクがやってきたので、短槍を渡す。
「うん、いい出来だな。ありがとう」
「正直一番手はかかったがな。満足してもらえたなら何よりだ」
ルクは周囲に気をつけながら槍を軽く振っており、非常に満足そうだ。
「この礼はいつかしよう。楽しみに待っていてくれ」
「別に礼を求めてやったわけじゃない。今後もこのメンバーでやっていくだろうから当然のことだ」
俺がそう返すと、ルクはニヤリと笑う。
「まあ俺も頼みたいものがあるのだ。探してくるからしばらく待ってくれ。絵の腕は磨いておいてくれよ?」
そこまで言うなら楽しみにさせてもらおう。
「わかった」
「じゃあ、俺は防具を受け取ってくるからな」
「ああ」
ルクが出ていくのとすれ違うように、レンとシン、カルマが入ってくる。3人共すでに初期装備の布服ではなく、新しくラルとフォルクが作った防具を身に着けている。レンとシンは和服に雰囲気の似た防具。カルマはタンクであるにも関わらず金属と革を組み合わせた防具だ。
「…はい」
「ありがとうトーヤ」
「おう、サンキュ。…うん、振りやすいな」
トーヤが二人に武器を手渡すと、早速抜いて感覚を試している。グレンは武器ではなくラルが持っている盾を受け取りに来たのだろうが、ラルはまだ斧につける名前について思案中だ。
「あ、そうだラル。フォルクが早く来いって言ってたよ」
「おお、そうであった。しかし名前が決まらん。どうしたら良いと思う?」
「何が?」
事情のわかっていないカルマに、ラルが説明する。
「なるほど。ラルはどんな名前がいいんだ?それ次第で決まると思うが」
「シンプルな名前が良いのだがなあ。しっくり来るのが思いつかないのである」
「伐採の斧、とかはどうだ?シンプルで良いだろ」
いや、いくらなんでもそれはセンスがなさすぎると思う。武器だと言うのに伐採の斧。そのままじゃないか。まあ俺は構わないが。一般的に考えれば、武器に『始原の』なんてつけるのは普通ではないのかもしれないし、その感覚が俺にはわからないのだから口をだすべきではない。
「おお、それはシンプルでわかりやすいな。それでいこう」
ラルも納得したようだ。まあ、俺が考えろと言われてもそれこそ『始原の斧』ぐらいしか思いつかないからな。初期にできる武器に大層な名前をつけるのもどうかと思うし。簡単な方が良いだろう。
「わかった。それじゃあ掘るぞ?」
ラルがうなずくのを確認して、銘を掘る。
「完成だ」
「ありがとう。これで思う存分戦えるのである」
「ラル、俺にも早く盾をくれよ。重さを実感したい」
「おお、そうであるな」
ラルは俺から受け取った斧を、腰につったメイスの下につると、アイテムインベントリを操作して、巨大な盾を取り出す。なんとか方向次第ではインベントリに入るぐらいの大きさがる。俺が裏に隠れればほとんど体が見えないだろう。
「うん、いい出来だな、ありがとな」
「礼ならライアに言ってやってくれ。殆どの部分を作ったのはあいつだからな」
ガハハ、と満足そうにラルは笑う。口ではそう言いながらも、作ったものを褒められて嬉しいのだろう。
「さて、それでは俺は向こうに行くのである。フォルクが待っておるからな」
ラルが部屋を出ていく。カルマは特にすることがないためか、出ていかずにレンとシンと話している。
******
しばらくトーヤと木工の話をしながら待っていると、ラルとフォルク、ルクが入ってきた。防具を配るのは終わったのだろう。
「終わったか」
「うむ。こちらは全員分配り終わったのである。後は二人の分だけであるな」
そう言うとフォルクが俺とトーヤに防具を手渡してくれる。俺は局所的に革を使い、ほとんどの部分は布でできた装備だ。基本的に攻撃を受けるような戦いかたをしないので、ソロで戦うときの護身程度に急所と腕や足の一部を守るための革の部分があるだけである。
一方トーヤも同じように腕や足の一部分に革を用いただけで殆どの部分が布でできた装備を受け取っている。彼も俺同様に攻撃を受ける戦闘スタイルではないので、最低限の装備だろう。
この世界では、職業と行ったものがなく、剣士が魔法を使ったり魔法使いがご信用に剣を使ったりと、武器の使用制限もスキルを取得している限りはない。それと同様に防具の装備制限もないのだが、防具はそれぞれに対応するスキルを取得していると、スキルを取得していない場合に比べて防御力が高くなり、さらに全身金属鎧などの重い鎧に関しては、対応した防具スキルや“装備重量軽減”スキルなどの重量軽減スキルが無ければ重たすぎて動きに制限がかかるので、防具系統のスキルは最低でも取得したほうがメリットが大きくなっている。もちろん他のスキルのステータス補正が筋力、つまりAtkによっていて重たい防具を装備しても問題ないというプレイヤーは防具系統のスキルを取得する必要はないだろうが、そういうプレイヤーなら前線で戦うだろうからどちらにしろ取得したほうがメリットが大きいだろう。
「どうであるか?」
俺が早速腕を通して着心地を試していると、ラルが気がかりそうにそう尋ねてきた。
「良い出来だ。体の動きを阻害する部分が一切ない。ありがとう」
「…ん、動きやすい」
俺達がそう応えると、少し安心したように息をつく。
わすれられ
「完全な鎧よりも二人のように布と革のハイブリッドの方がバランスが難しいであるからな。そう言ってもらえて嬉しいである」
「俺が手伝ってんだからいい出来に決まってんだろううが」
フォルクが後ろからそう口を挟んできた。彼も少しは生産の楽しさがわかっただろうか。
「そうだな」
脱いだ初期の布装備をアイテムインベントリに入れる。インナーも含めて作ってもらったが、使う可能性もあるしそれほどスペースを取るものでも無いのでそのまま持っておくつもりだ。
「ムウ、俺の槍は本当にいい出来だな。見てて惚れ惚れするぞ」
「全力で作ってはいるが、まだ槍づくりのノウハウがあるわけでもないから改良の余地があるとは思うがな」
「まあそうではあると思うけどな。でも、あれは良いものだ。ありがとな」
「ああ。また新しいのを作るときは呼んでくれ」
「ぜひそうさせてもらおう」
礼を言われて嫌な気はしない。
「一旦レンのプライベートエリアに集合だそうだぜ。今後の予定を決めとくんだとよ」
トビアからの連絡を受けたフォルクが室内にいたメンバーにそう声をかける。全員で連れ立ってレンのプライベートエリアに向かう。さあ、冒険の続きだ。ワクワクするじゃあないか。
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