41.始まりの街ルクシア-12|生産-6
「おっすおつかれー」
「まだそこまで疲れてない。そっちはなにか面白そうなことあったか?」
レンのプラーベートエリアに入ると、気づいたカルマが声をかけてきた。
カルマとシンがノートをはさんで向かい合っており、レルがグレンと話しながら料理をしている。奥ではレンがフラスコをいくつも使って調合をしている。
「こっちは農業の採算とか見ている最中だな。多分そろそろ他のプレイヤーも調子取り戻して前線に来ると思うから、そうなると薬草とか月花草が取り尽くされて供給できなくなる可能性があんだよ」
「リソースの枯渇か」
ありえない話ではない。木工職人が一所に集中しすぎれば木材が取り尽くされてなくなるし、鍛冶師が人ところに集中すれば鉱石がなくなる。アイテムの復活には少し時間がかかるだろうから、全員が同じ場所に集中する現段階では、アイテムが枯渇するのも当然だ。それもあって俺達が先を急いだのもある。
「そゆこと。まあ俺とラルが農業持ちだし、現状ある薬草をシンが使えば種はできるからな」
ずっと下を向いているシンの方を見ると、たしかに薬草から種を作っている。“錬金”スキルだろう。便利なことだ。
「畑は手入れが必要なのか?」
「そもそも薬草は一日で育つから手入れ以前に連続して生産するなら毎日いかんといけねんだよな。月花草の方は詳しく知らないから様子見ってことで」
「月花草、か。有用なアイテムなのか?」
聞いたことのないアイテムだ。おそらく東の草原でとれるアイテムだろう。
「レンが今やってみてるけど、暗視効果が付きそうらしいぞ」
先程まで種を量産していたシンが変わりに答えてくれた。
「なるほど。夜の森も探索できるか」
確かに、現状の俺達は夜は探索ができない。なぜなら明かりを灯す魔法が使えないからだ。他のプレイヤーは、ロストモアはいるものの他の種族もパーティー内にいるために光魔法や火魔法によって明かりを灯すことができるだろう。“光魔法”スキルレベル5の《ライト》、もしくは“火魔法”スキルレベル5の《トーチ》を使えば、夜でも探索できるはずだ。夜になるとモンスターの行動も代わるだろうし、出現するモンスターも代わるだろうから、夜の森も探索はしてみたい。
「そうだな。お前なら音だけで探索できそうな気もするけどな」
無茶を言う。
「それは“聴覚識別”スキルのの領域だからな。俺のはあくまで耳が良くなるぐらいだから、完全に視野が塞がれた状態で来る位置を認識するのはさすがにきつい」
もちろん、それも考えて、距離感と音の大きさを対応させて把握はしている。だが、100パーセントではない。確実ではない以上、むやみにそれに頼るわけにも行かないだろう。“聴覚識別”スキルは取りたいスキルではある。今の段階ではスキルの枠が空いていないが、状況によってスキルを付け替えれば良いので、“気配”スキルがいらない場合や“跳躍”スキルが使えないような洞窟で探索する場合には、むしろあったほうがいいかもしれない。言われて意志が固まった。よし取得しよう。
「一応取得しておいた」
「いや、はええよ」
カルマが、ビシッ、と突っ込んでくる。だが、少しでも天秤が傾いたらすぐに行動したほうがいい。俺の持論だ。
「とっておいて困るスキルではない。スキル融合で枠は空くだろう」
「後でスキルポイント足りなくなっても知らねえぞ」
「どうせ増える」
スキルを1ポイントで取得すれば、レベル30まで上がる間に3ポイント手に入ってお釣りが来る。
「まあいいけどな。俺もスキルポイントは余ってるし」
カルマは純粋なタンクである。盾だ。それに関わるスキルを取ってしまえば、後は特に必要なスキルはない。むしろ、俺みたいに武器と武器の補助に加えて探索用のスキルがごちゃまぜになっていると枠が足りなくなってくるのだろう。器用貧乏まっしぐらだ。
「はいよ」
カルマとレンとトーヤと雑談をしていると、グレンが木の皿に盛った肉とシチューを届けてくれる。
「ありがとう」
「…ありがとう」
いただきます、と手を合わせてから食べ始める。グレンとレルは二人で料理をトレイに載せて出ていった。おそらく鍛冶組や裁縫組に届けに行くのだろう。
しばらく雑談をしながら食事をとって、またトーヤのプライベートエリアに戻った。レンは時々会話に参加しながらもずっと調合を続けていた。“調合”スキルは他のスキルよりも更に細かく配分などで生産できるものに差が生まれるらしいので、試さなければいけないことが多いのだろう。
「よし。作るか」
次に作るのは柄の長さが60センチの方だ。刃の長さはおそらく90センチ。柄が剣全体においてかなりの長さを占めることになる。これを使うのはトビアだ。初日にカナやマーナと遊んだときに面白い武器を使うと言っていたが、これのことか。どう使うのだろうか。
先程作った柄の元を2つに割って、刃の下に突き出した部分に合わせて内側を彫り抜く。くり抜いてしっかりはまることを確認したら、片側ずつ飛び出している部分に合わせて、目釘を通す穴をほり、ズレがないように重ねて確認する。
トーヤがバスタードを作るときは、柄を先に完成させてから刃をさし、最後に目釘をいれて固定していた。おそらく刀もその作り方でできるはずだ。だが、今回俺の作っているトビアの剣は、突き出している部分が少し中央部分が太い構造になっているので、あとから柄にさすことはできない。そこで、今回ははじめに柄を刃につなげた形で作ることにした。
柄を装着し、接着剤で固定した上で表面を削って形を作っていく。ある程度形を作ったところで目釘を通し、末端部に金属の装飾を付けてそこには金属製の目釘を通した。ただ、この構造の場合柄から刃が抜ける心配はないので、目釘はあまり意味のないものにも思える。どうなのだろうか。
保存剤を塗り終え、柄に革を巻いてもらう前に、トビアに一度振ってもらうためにライアのプライベートエリアに向かう。
入ると、ライアとルクは布を枕にして横になって寝ていた。刃をうちすぎて疲れたのだろう。
ライアの鍛冶台の上を見ると、斧の刃と、大剣の刃が置いてある。あの大剣が45センチの柄をつけるやつだろう。本当に45センチの柄で支えられるのか?あれを?
「やあムウ、おつかれ」
「ああ。そっちのほうが疲れてるみたいだがな」
片付けをしていたトビアがこちらに気づき、簡易携帯炉をアイテムインベントリにしまいながら声をかけてくる。トビアの鍛冶台の上にも刀が一本見えるので、おそらく鍛冶組の生産は終わったのだろう。
「まあね。トーヤに頼まれた短剣の数打ちとカルマの盾が堪えたみたい」
カルマの盾か。確かに大物だろう。彼は特に大型の盾を使っていたのだ。
「トーヤの短剣か。今から届けに行くのか?」
「うん、頼まれたからね。レンの太刀と一緒に、ね」
俺が部屋を出る前にはトーヤは双剣の柄を作っていたから、それと今トーヤが持っているレンの太刀を仕上げれば、後は自分の短剣を作るだけだろう。というか、数打ちか。投げるつもりだな。
「なにか用があったんじゃないかい?」
トビアにそう声をかけられて、そういえば彼に武器を振ってもらいに来たのを思い出す。
「ああ、革を巻いて貰う前に最後の確認をしにな」
そう言って、持ってきた剣をトビアに渡す。トビアはそれを持ってしばらく目の前に構え、しばらくしてうなずく。
「うん、大丈夫だね。さすがムウ。頼りにしてるよ」
「わかった。後は革を巻いてもらうだけだがな」
トビアのいつもどおりのおふざけを軽く流して、剣を再び受け取る。
「俺は一回ラルのプライベートエリアによってから行く」
「じゃあ、俺は先に行ってるよ」
「ああ」
部屋に眠ったライアとルクを置いたまま俺達は部屋を出る。俺はそのままラルのプライベートエリアに向かう。
「ラル、次の武器を頼む」
部屋に入ると、ラルとフォルクはまだ生産を続けていた。二人の間には、出来上がった防具が並べられている。
「お、ムウか。なるほど、面白い武器であるな」
「トビアのだ、よろしく頼む」
「おう、任せておけ」
ラルに剣を渡す。フォルクは全くこっちを気にしない。かなり集中しているようだ。今は革をつなぎ合わせて鎧を作っている。
フォルクには声をかけないまま部屋を出る。あとは部屋に戻って大剣と片手斧を作らなければいけない。時間はすでに午後11:00だ。そもそも大剣に木の柄がつけれるのだろうか。
トーヤのプライベートエリアに戻ると、トーヤとトビアが話しながら作業をしていた。
「おつかれ、ムウ。頼めたかい?」
「ああ。まだ起きていた」
トーヤは話しながらも、手元で短剣の柄を大量に作っている。他のメンバーの武器の生産は終わったのだろう。そこで、ふと気になっていたことを聞く。
「そういえばトビア、武器はできたが金属鎧は作らないのか?」
鎧と言っても“皮工”や“裁縫”で作れる革鎧だけでなく、全体が金属でできた鎧や、革と局所的に腕や胴体だけ金属をあしらった鎧がある。俺達で言えば、ライアやレル、グレン、カルマが革鎧と金属を合わせた鎧を装備し、ラルが全身金属の鎧を装備する。それらの生産は鍛冶師でないとできないはずだ。
「ああ、それは明日だね。さすがにきついからさ。あと蟻の甲殻を使ってみたいから、それも含めて明日だね。俺達鍛冶師はもうひと頑張りするよ」
「そうか」
確かに、今から生産を更にするのも無理というものか。明日は鎧ができるまで街を探索でもして待っておこう。
「少し集中する」
「了解。静かにおしゃべりしとくよ」
「…邪魔しちゃだめ」
「わかってるって」
トビアとトーヤにそうつげておいて、残った2つの武器の仕上げに入る。
まずは大剣から。これは先程までと同じ手順で行う。柄の形を整えて目釘孔を空けて。表面を丁寧に整えたら、表面に先程の剣と同様に保存剤を塗る。この保存剤は、この世界においては木材の劣化を妨げると言うよりは、強度を高める傾向にある。強度を高めることによって劣化するのを遅くするというわけだ。トビアの剣の柄はそれほどの強度はいらなかったので、感覚が変わらないように薄くしか塗っていないが、この大剣の場合は柄に掛かる負荷は半端なものではないので、しっかりと塗り込む。柄に刃を入れて目釘を入れ、金属部品を末端につける。これで後は柄に革を巻くだけだ。片刃の無骨で巨大な剣。俺では両手で構えるのもきつそうな大剣。どうやって使うつもりだろうか。あいつは細剣を使っていたと思うが、なんの心境の変化でこんな大きな得物を持つ気になったのか。興味が湧くことだ。
「次は手斧だな」
今回作る手斧は、片側だけに刃がついたものだ。使用者は確か、両側を刃にしても一度に片側でしか斬れないから意味はない、と言っていた気がする。そんなものだろうか。俺は斧を木工以外で使わないからわからない。
斧の刃の大きさに合わせて柄の原型を切り出す。長さを整えたら、今度は斧の刃部分に空いた穴に通る大きさに削っていく。このとき、一度に削っていかず、ギリギリで通る大きさにすることが大事だ。一度に削って削りすぎた場合、刃が遊んでしまい、安定しないからだ。刃がぎりぎりまではいる太さにしたところで、今度はグリップ部分の太さを調整する。ただ、今回は穴の大きさがちょうどよかったようで、グリップは全体が同じ太さになるように作れた。全体が同じ太さであるほうが手の中で滑らせやすいので都合がいいのだ。斧は剣と違って手で持つ部分に目釘は来ないので、目釘が飛び出すことを気にする必要はない。そこで、頑丈性を高めるために木製の目釘を連続して通した上で、目釘の飛び出させた部分に金属の部品を付けて絶対に抜け内容にした。少しばかり斧の背中側に楔がついたような形になったが、これはこれで見た目がいい。
「ふう」
一気に2つ分生産し終わって一息つく。およそ1時間30分。今の俺の腕ではこの速度が限界か。これ以上早くしようとすると雑になってしまう。
「できたかい?」
「ああ。ラルに頼んでくる」
「うん、いってらっしゃい」
「…いってらっしゃい」
トーヤはうつらうつらしていたようだが、俺の言葉で目を覚ましたようだ。起こしてしまったな。気をつけよう。
再びトーヤのプライベートエリアから出て、ラルのプライベートエリアに入り直す。午後8:00頃に出たときはプレイヤーがまだたくさん行き来したり中央の机で食事をとったりしており、武器を持って出てきた俺に奇異の目を向けたりしていたが、今はもう人影はない。すでに深夜だ。皆明日のために寝ているのだろう。
「ラル、最後に2つだ。よろしく頼む」
ラルのプライベートエリアでは、まだ二人起きており、一心不乱に作業をしていた。ほぼ全員分の鎧を二人で作るのは非常に大変だろう。
「おう。今日はこれで最後にしようぞ。流石に俺も疲れてきたわ」
「ご苦労さま」
「お、そいつは俺の新しい得物じゃねえか」
ラルに柄に革を巻くのを頼んで、作業を始めるのを見ながら話していると、先程までは集中していて俺に反応しなかったフォルクが反応してきた。
「ああ。フォルクもお疲れ様」
「おう、まあ楽しかったから満足だ」
「それは良かった」
話しながらもフォルクの目は大剣から離れない。相当楽しみな様子だ。
「どうやってあれを振るつもりだ?お前は細剣じゃなかったか?」
「ん、別に細剣しか使えねえってわけじゃねえよ。今回は“装備重量軽減”とか“武器重量軽減”とか、“筋力上昇”とか、あれ振るためにスキルは揃えてるからな。まあおもしれえ戦い方があるんだ」
「…楽しみにしておく。生産が終わったら見せてもらいたいな」
今聞くのは野暮というものだろう。
「構わんぜ。楽しみにしてろ」
「ああ」
ラルが革を巻き終えるのを待って、斧とトビアの剣を受け取ってトーヤのプライベートエリアに戻る。大剣はフォルクに渡してきた。
プライベートエリアに戻ると、トビアとトーヤが仲良く並んで寝ていた。エリアの主が眠ったからか、明かりが弱くなって室内は薄暗くなっている。俺も今日は限界だ。片付けは明日に回して寝るとしよう。
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv19
《スキル》残りSP4
[装備中]弓Lv26 鷹の目Lv18 発見Lv18 気配Lv9 魔力Lv12
木工Lv15 細工Lv17 魔物素材加工Lv6 ステップLv10 跳躍Lv12
[控え]剣Lv3 登りLv11 早業Lv1 踏ん張りLv1 聴覚識別Lv1 魔力操作Lv3
アビリティ:木を見る目・初級
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