40.始まりの街ルクシア-11|生産-5

「これで180本か。木材と蟻の牙はまだあるが、羽がまったくないな」


カッセルに言われたとおり闘鶏の羽は極力使わないようにしてロットバードの羽ばかり使っていたが、羽を使わない三人からもらった分をいれてもすでに闘鶏の羽まで使い果たしている。北の森では、奥に進むと鳥タイプのモンスターが出てこなくなるのだ。東の草原にはかなり高いところを飛んでいる鳥型のモンスターがいたらしいが、地表近くまで降りてくることはなかったらしい。雨や霧といった天候など何かしらの条件下でのみ降りてくるのかもしれない。行ってみて数が多いようであれば狙ってみてもいいだろう。


羽が尽きてしまっているので矢を作ることはできないが、矢羽根を除いた矢軸と鏃だけ作っていく。これをアイテムインベントリに入れておけば、羽が手に入ったときにすぐに使える状態にできるからだ。


「失礼、一本目できたぞ」


矢を作り続けていると、ライアが入ってきた。両手で布で包んだ刃を持っている。


「えーと、誰の分だ?」


作る物を書いた紙を見ながら尋ねる。


「これはグレンのぶんだな」


グレンか。グレンはバスタードだな。


「トーヤ、バスタードだ。よろしく」


「…ん、了解」


刀と通常の剣の柄はすべてトーヤが担当している。俺はあと斧のグリップを作らなければいけないのだが、それは刃に合わせて作るので後でいい。


トーヤがバスタードの刃をライアから受け取り、ライアは戻っていく。すぐに次の武器をうつのだろう。


「ムウ、手伝って」


「もちろんだ」


片手間で作っていた刃を置く台を設置してそこに刃を置く。


柄を作るのはそれほど難しくない。柄のもとになる木材を良い太さに削って、それを2つに割る。そしてその割った部分に刃の下側に飛び出している部分の大きさに合わせて溝を彫り、挟み込むようにして接着する。このときに接着する前に刃の下に飛び出した金属部分に空いた穴に合わせて柄の元になる木材に穴を掘る。これは柄から刃が抜けないように目釘という部品を通すためだ。今回は飛び出した部分の中ほどに穴が空いている上に、末端部に穴が合いている。バスタードであるために重量が大きいので、末端部でも固定できるようにして抜けないようにしたのだろう。


「ムウ、持ってて」


「了解」


トーヤが2つに割った柄のうち一方を飛び出している部分に合わせ、溝を掘る目印をつける。反対側も目印を付けて彫り出し、実際に飛び出している部分を挟み込み、ちゃんと隙間があるか、隙間がないかを確認する。


そのあいだ俺は横で待機していた。俺はあくまで手伝い。それはトーヤのしていること。


「穴通す」


「ああ。俺が持ってる」


形が整ったところで片側だけあてがい、俺が支えている間にトーヤが飛び出した部分にある穴から道具を通して柄にも穴をあける。今度は反対側も合わせて俺が支え、全体を貫くように穴をあける。この穴は目釘孔と言って、ここに目釘を通すことで剣が柄から抜けるのを防ぐのだ。


トーヤが目釘を作っている間じっと黙って待つ。その時間があれば矢野一本ぐらい作れるかもしれないが、おとなしく待っておくことにする。集中を切らしても悪いだろう。


足音に気づいて入口の方を見る。


「ルクか」


「おう。できたぞ俺の短槍だ。いい出来にしてくれよ」


「わかった。太さはこれぐらいでいいか?」


ルクの方に柄の元にする木材を渡す。まだただ棒状に削り出しただけだが、槍は革などを巻くわけでもないので、太さはそのままになる。


「ばっちりだな。これでいってくれ」


「わかった」




ルクから柄の元を受け取り、トーヤに俺の方も来たことをつげて自分の作業にはいる。


「トーヤ、ある程度できたら革を巻いて貰う前にグレンのところへ行って持ってもらえ」


「…うん。調整だね」


「ああ。革を巻く前の段階で合わせとかないとめんどくさいからな」


コクリとトーヤがうなずくのを確認して自分の作業にはいる。槍の柄と穂先をつなげるのは剣や刀よりは幾分難しい。刀や剣のように柄を真っ二つに割るわけには行かないからだ。しかも、その加工には特殊な道具が必要になるが、おれはまだそれを持っていないので、持っている道具で代用する必要がある。


まずは穂先の下に飛び出している部分、つまり柄の中に隠れる部分を柄の先端に当てて印をつける。槍の場合は、この部分だけを削り出して、溝を作り、穂先をはめ込んで後から蓋をする形になる。


のこぎりで少し内側目に切込みを入れて、のみで削り出していく。一度削り出した木材で蓋をするのは無理なので、蓋にする木材は別で用意する。


穂先の根本の形状は正方形に近く、先に行くに従って細くなっている。それに合わせて溝を彫っていく。なんども穂先をはめて確認し、蓋の方もそこそこの厚みが取れるようにする。あまりに薄くなると耐久性に心配があるのだ。ある程度の形ができたところで、研磨し、穂先をはめ込む。別で作った蓋を加工して、隙間がないようにし、接着剤を塗ってからはめ込む。穂先が抜けないように接着剤で固定した上で、表面に保存料を塗ってかためる。


さらに、それでは足りないので、ここに銅で作った輪を通して固定するつもりだ。末端部も同様に金属の部品を取り付けて見栄えを多少は良くするつもりだ。


「炉を入れるから熱いぞ」


「…ん、わかった」


保存料を塗るところまで終わったところで、トーヤにそう告げてから炉に火を入れる。銅鉱石をインベントリから取り出して放り込み、燃料として木材を入れる。溶けるまで待って取り出し、数回打ってインゴットに変える。すでにレベルは高くなっているので、銅鉱石をインゴットにするくらいなら訳はない。


銅インゴット一つで十分に槍一本分には足りる。一部をもう一度溶かし直して、別の棒状の木材に巻くようにして形を整え、表面を加工する。木材は一番熱に強かったウォルナットを使用している。この木材なら、金属が膨張する程度に熱しても、燃え上がることはない。銅の輪を巻いている木材は槍の柄よりも少し太くしているので、そこで膨張させた輪を槍の柄に通して冷やせば、収縮して締め付けてくれるはずだ。


槍の末端部につける金属部品も作り上げ、銅の輪も含めて全て装着する。末端部の金属部品は、剣に目釘を使うのと同じように、柄の末端部にかぶせて柄とその部品を貫通するように釘を通し、今度は端を潰して抜けないようにした。これで完成だ。穂先は少し長めの直槍。飾り気はないが頼もしさを感じる。


「できた?」


完成した槍をじっと見つめていると、トーヤにそう声をかけられる。トーヤもすでにバスタードを完成させたようだ。


「ああ。だいぶかかったがな」


かなり時間がかかった。すでに時間は午後6:00を過ぎている。かなり長い間槍を作り続けていた。


「追加は来なかったか?」


「来てたけど…、ムウが集中してるの見て、置いていったよ」


そう言いながらトーヤが指差す先を見ると、確かに木製の台座の上に置かれた通常より少しだけ太い剣が見える。


「本当か?」


「…うん。一回だけ声かけてたけど、ムウが返事しなかったから」


ふむ。全く声かけられた覚えがない。相当集中していたみたいだ。結構細かい作業だったし仕方ないかもしれない。


「気づかなかったな。トーヤもできたのか?」


「うん…。グレンのバスタードと、シンの刀二本分。刀は今ラルが柄に糸を巻いてくれてる」


「ああ、刀は剣よりも時間かかるからな」


剣が革を巻いて固定してしまえば終わりなのに対し、刀は通常は革を巻いた上に糸を巻く必要があるのだ。さらに、剣よりも複雑に鍔、はばきといった部品を作らなければならない。柄にも柄頭という金属の部品を使う場所がある。


「金属部分は俺が作ろうか?」


「…ライアが作って持ってきてくれたから、大丈夫」


「ならいい」


柄は、基本的には柄だけで完成させて、最後に目釘を通して刃とつなぐのだが、その完成は俺達がすることになっている。組み立てるだけなので“鍛冶”スキルも必要ない。最後に組み立ててしまえばいいだけだ。むしろ柄でその調整をしなければいけないから俺達がしないといけないことである。


ルクはまだ武器を打っているだろうから、出来上がった槍を届けるのは後にする。


「あ、グレンがレンの部屋に来たらご飯作っておくって、言ってたよ」


「了解。丁度いいし行ってくる」


「僕も行く。いま暇だから」


「わかった」


食事をするために作業を置いておいて、トーヤと連れ立ってプライベートエリアから出てレンのプライベートエリアに向かう。すべて完成するにはまだまだ時間がかかりそうだ。


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