39.始まりの街ルクシア-10|生産-4

トーヤも“木工”スキルのレベルは鞘や柄を作るには十分なぐらいには上がっているらしいので、それぞれにどれを作るか役割分担する。俺の方がスキルレベルが上がっているので、短槍の柄や、長めの柄の製作は俺がすると申し出る。おそらくそれらは単純に握り手として用いられるだけでなく打ち合いに使われるのでよりスキルレベルの高い俺が作ってより頑丈にしたほうがいいからだ。


「ムウ、レベル上げしていい?」


「ん、適当に木材使っていいぞ」


ありったけ集めた木材の上に更に他のメンバーからもらったぶんもあるので、プライベートエリアの中には相当数の木材が置かれている。大きさや種類ごとにある程度分けてある様子はなかなか壮観である。


「まずは60センチの柄か」


これは注意書きで片手で持てるぐらいの太さと書いてある。これだけ長い柄で支えられる大きなものを片手で振り回すというのもおかしな話だが、片手で扱うならば両手で持つよりも少し細くすることで握り込みやすくしておく。


末端部には金属の金具をつけるとして、刃と接合する部分は今は手を加えないでおく。どんな形で刃が仕上がるかわからないので、下手に最初に加工してしまうと後で一から作り直す羽目になるからだ。設計図などない生産であるためにそのばその場で変更していかなければならないので、その余地をもたせて下準備をする程度に留めておく。


そもそも、柄というのはその武器を握るプレイヤーの手に最もなじまなければいけないので、生産のときにはその使い手を呼んで調整をしなければいけない。こまかい目立たない部分だが、武器を使う上で刃と同じぐらい重要になるのだろうと俺は考えている。だからこそ手は抜けない。


よく考えると、柄を作るならば付属の金属部品も俺が作ったほうが都合がいい。


「トーヤ、一旦出て炉を買ってくる」


「…金属部分?」


「柄の末端とかは俺が作ったほうが合わせやすいからな」


「わかった。いってらっしゃい」


「すぐ戻る」


プライベートエリアから出て街の大地人の店へ向かう。マップを見ながら鍛冶店へ向かって下級の携帯炉を買ってきた。そこまで火力は出ないが、鉄程度までなら十分に溶かせるし、問題はない。


炉を持って教会に戻るとすぐにトーヤのプライベートエリアには向かわず、ライアのプライベートエリアに向かう。


ちゃんと進入許可を設定してくれていたようで、入ることができた。扉を開けると、すごい熱気が押し寄せてくる。


ライア、トビア、ルクの三人がそれぞれに炉を使って金槌を振るっている。熱いのは当然だ。炉から上がる煙がどこへ行くものかと思っていたが、換気機能があるようで煙は窓と天井に吸い込まれるようにして消えていき、室内に充満することはない。


「ライア、今いいか?」


三人の中で、唯一刃をうつのではなくインゴットを作っていたライアに声をかける。


「ん、ムウじゃねえか、どした?」


ライアは汗をかいていないにもかかわらず、額を拭いながら応える。


「柄のことで確認したいんだが、装飾や金属部品はこっちで作っていいよな?」


「そうしてくれるとありがてえな。正直細かいデザインまで考えてらんねえは。打たなきゃなんねえの多いからな」


「わかった。刃ができたら持ってきてくれ」


「おうよ」


確認が済んだところで鍛冶師たちの部屋から退出して今度はラルのプライベートエリアに向かう。確かそこでラルとフォルクが生産をしていたはずだ。ちなみに、あとは現状特に以来を受けていないグレンとレン、シン、レル、カルマは、一つの部屋に集まってそれぞれの生産をしたり相談をしたりしている。


「フォルク…忙しそうだな」


プライベートエリアに入ってすぐ近くにいたフォルクに声をかけるが、相当集中しているようで返事がない。


「おう、よく来たな」


少し離れたところで皮を加工していたラルが、フォルクの邪魔をしないようにこちらに近寄ってきた。


「柄の生産で相談したいことがあってな。直剣の柄に何かしらの革を巻きたいのと、刀の方は紐をやってほしいんだが、頼めるか?」


俺がそう尋ねると、ラルはニヤリと笑う。


「もちろんだ。日本刀の紐の編み方もきっちり練習してきたわ。任せておけ」


そう言うとガッハッハと豪快に笑う。


「ありがとう。ではできたら持ってくる」


「おう。楽しみに待ってるぞ」


ラルに礼を言ってそこを出て、トーヤのもとへと戻る。


「…手に入った?」


「ああ。大地人の店で売ってるものだからな」


「そう」


とはいえ、まだ刃が出来上がっていないのですぐに金属部品を作るわけには行かない。刀であれば、はばきや目貫、鍔といった金属部品があるのだが、いずれも刃とそれに合わせた柄とに合わせて作らなければいけないので、刃が出来上がるまでは作り始めることはできないのだ。


「ひとまず柄づくりだな。次は45センチの柄か」


こちらは特に注意書きはない。フォルクのことなので武器さえあれば振れるという感じだろうか。作る身としてはそれほど適当にするわけにも行かないので、自分の手で幾度も握ってみながら感覚を確かめる。この上につけるならばやはり大剣になるのだろうか。そんな事を考えて、重たくても支えられるように先程の柄よりは少しだけ太く作った。


「とりあえずはこんなものか」


これも刃が来るまでは作り上げることはできない。ある程度の概形を作ったら置いておく。


次に作るのは、短槍の柄である。長さは170と書いてあるので、刃の長さを考えて150センチぐらいの大きさに長い木材をカットして、均一な太さになるように削って磨き上げる。これは刀や剣の柄と違って革を巻いたりする必要はないが、その分手に馴染むようにとくに注意して作らなければいけない。仕上げる際にはルクを呼んで実際に振るってもらうことにしよう。


「うし、今できるところはこれぐらいか」


とりあえず担当する分の下準備はできた。あとは刃が届くまでは自分のための生産をすることができる。


弓は作ってしまっており、しばらく変えるつもりはないので矢をとにかく大量に生産する。今弓を作れば、おそらく今持っているものよりも性能のいい弓はできるだろうが、レベルが上がるたびに新しい弓を作っていては時間が足りないし、気分的に武器を使い捨てているようで何かいやだ。だからしばらくはこの武器を使っていくつもりなのである。


矢の大量生産だが、今回も《レシピ》を使って一度に生産してしまうことはしない。理由はMPに消費が激しいのと、これまた気分の問題だ。実際のところ、《レシピ》で矢を大量に生産して使ったところで、それほど性能は変わらないだろう。なにせそれはあくまで矢という消耗品であって、剣のようにずっと使い続けるものではないからだ。


それでも、一度に自分の手で作ってしまおうという気にはならない。一本一本自分の手で作りたい。そう思ってしまう。効率的には愚策だろうし、今後冒険を続けていく上で必要にかられればすぐに《レシピ》を使うだろう。だからこそ、余裕のある今は自分の手で一本一本時間をかけて。そんなふうに考えてしまう俺はもしかすると生産が向いているのかもしれない。


“魔物素材加工”スキルはまだ取得して日が浅いので、今回はダイアウルフの牙や爪、ダンロンベアやソアウィーゼルの素材など大きなアイテムは加工しない。“細工”スキルでできるような気もするが、おそらくあのレベルの大きさになってくると、小さなものを加工するという限定的な条件を持つ“細工”スキルの手には余る気もする。とりあえずそれらの加工は、蟻の牙を使って加工をして“魔物素材加工”スキルのレベルが上がるのを待ってからにする。専用の生産道具も買わないと、いつまでも黒曜石や金属をけずっていた道具と兼用は無理だろう。


木材から大量に細い角材を削り出し、それぞれを丸棒に加工していく。そこでふと思い出す。


「そういえばあれ試してないな」


あれ。飛距離を試すためと行って少しだけ矢軸の太さを変えたあれ。蟻に打ち込んでそのままになっている気がする。もう一度しっかりと作り直して飛距離を確かめよう。


まずは通常の矢軸を大量に生産。そしてアイアンアントの牙を削っていく。一度に作る本数は50本にして、蟻の牙を削る作業を繰り返す。スキルレベルが上ったおかげかそれとも種族レベルも上がってステータスが向上したおかげか、以前よりは早く作業が進む。単純な作業だが、心が落ち着くのを感じる。


ゆっくりと時間をかけながら、刃が届くまでの間矢を作り続けた。

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