38.始まりの街ルクシア-10

作ってもらいたいものを書き込んでおき、“木工”スキルを持ったもうひとりと、どこで生産をするか、道具は何を持っているかを話す。


「トーヤはもう木工はしているか?」


「…少しだけ」


確かトーヤは短剣を使うプレイヤーだったはず。俺の弓矢とは違って自分で武器を作って使うことは少ないのだろう。


「そうか。じゃあ道具は一応揃っているな」


「…うん。生産場所は僕の部屋でいい?」


部屋というとプライベートエリアのことだろう。


「それでいい。どちらの部屋でするかなんて問題にならないしな」


「…ん、りょうかい」


トーヤはおそらく俺達の中で一番若い。戦闘スタイルゆえの見た目や話し方で頼りなく見えるが、甘く見ている相手に大怪我を差せるタイプなので戦闘面での心配はない。生産の方は見たことがないのでなんとも言えないが、すぐに慣れてくれるだろう。


トーヤと相談し終えたところで、レンにタリアのところで買ったアイテムを渡す。レンで扱えるものかはしらないが、レンがわからなければシンに回しておけばだいたいのものはどうにでもなるので押し付けておいて問題ない。


全員が必要なものを記入し、それぞれの生産分野で話もついたところで今度はそれぞれに持っているアイテムの情報を共有する。それぞれが個々で活動しているときは、それぞれで獲得したアイテムはそれぞれのものであり、仲間内でもアイテムや生産の取引はしっかりとゴールドやアイテムによる取引によって行っているが、今回のように全員でまとめて動く場合にはそれらを無視してアイテムを互いに利用可能にして活動をする。もちろんよほど自分でもっておきたいようなレアアイテムがあったりする場合はその限りではない。俺も今回はダイアウルフ系統の素材は自分で保存しておき、そのうち皮だけをフォルクに渡して俺の防具生産に使ってもらうように依頼した。


今回は単純に生産をするだけではなく、それぞれに生産スキルのレベル上げをしないといけないので、それぞれの持っているアイテムの情報を共有して必要なときに利用しやすくするだけでなく、ある程度はアイテムをそれぞれの生産分野の代表者に渡しておいた。俺はアイテムインベントリが満たんだったのでトーヤに持ってもらう。よく考えれば俺はまだプライベートエリアを一度も見ていない。


なぜわざわざそれぞれ持っているアイテムの情報を共有するなどと面倒な事をするかというと、アイテムを完全に混ぜてしまうと、そのアイテムが余ったさいに誰のものとして扱うのかという問題があるからだ。気にするやつはいないが、めんどくさい事にならないためにもそのあたりは徹底しておくことになっている。普段の探索中は雑に、まとめてやるときにはしっかりと。そうしておけば特に揉めることはない。


そのあたりで注文していた料理が届き始めたので、届いたやつから食べながらいろいろな話をする。それぞれがこの4日間探索したのはどのような場所だったのか、どんなアイテムが見つかったか、どんなモンスターがいたのか。俺達がダイアウルフの話をしたときが一番盛り上がった。他の方ではそれほど強いモンスターは発見できなかったらしい。


聞いてみると、東の草原の方では序盤は森でも出現したウルフや、ホーンラビットといううさぎがメインモンスターであり、それより進んだあたりでカロライガというライオンに近いモンスターや、バウントホースという馬、ダロガンという大きなトカゲに近いモンスターがいたらしい。フィールドボスが出現するらしき場所も発見したが運悪く戦う時間がなかったために戦うことなく帰還したそうだ。


西の方は植物がそれほど存在しておらず、砂利とガレ場の広がる岩場エリアになっていたらしく、街に近い部分で出現したのはランドルという鳥型のモンスターに森でもおなじみのロットバード、ロックビーストという岩をまとったモンスターで、進んだ先ではダンピアという岩を体表にまとった肉食獣と、バサルモンキーという岩を武器にする猿、マントパイソンというヘビ型のモンスターが出現するそうだ。こちらは足場が悪く探索が難しかったために草原ほど探索が進まず、ボスの出現する場所は発見できなかったようだ。


また、街で聞いた情報を聞いたところ、南の方はすこし草原が広がった先に砂浜が広がっているらしい。干潟らしきエリアも見えるらしいが、間に海を挟んでいるので今の所到達方法が確立されていない状態らしい。こちらにはそれほど大きくはない港があるらしい。大地人もほとんどいないが街から舗装された道が続いており、砂浜から少し離れたあたりに伸びた桟橋から直接海に入れるそうだ。ただ、βテストの頃と同様に水中では極端な行動制限がかかるため、そちらから攻略しているプレイヤーはいないらしい。そもそも他のエリア同様にモンスターが居るかどうかは不明だそうだ。


どのエリアにも自分で行ってみてみたい。戦闘で言えば森がホームグラウンドであるが、新しい景色を見てみたい。そしてそんな景色を絵にしてのこしたい。


「そろそろ行くか」


食べ終えたやつから生産分野ごとに集団を組んで教会に向かう。俺はまだ場所を知らないが、トーヤに案内してもらって向かった。


教会は、高い位置の窓にステンドグラスが使われて入るものの、入り口のあたりはかなり開放的な設計になっており、多くのプレイヤーが行き来している。柱の間をくぐり抜けて入ると、、教会というなとはうらはらに正面に演説台なようなあれと椅子があるわけではなく、たいてい椅子がある部分には椅子と机が置かれて食事を取れるようになっており、現在も複数のプレイヤーが食事をとっている。また両側の壁にはいくつもの扉があり、それぞれの扉をあけることで個人個人のプライベートエリアにつながっているようだ。


「…ついてきて」


トーヤに促され、彼に続いてドアをくぐる。中を見ると、高い位置にある窓から光が差し込んでいる以外は愛想の欠片もないただのへやだ。床は板張り。玄関のように靴をぬぐ場所がついていないことから、土足で入ることを想定されているのだろう。


「今みたいに自ら招けば一時的に他のプレイヤーを自分のところに入れることができる。…あとはアルトの窓で操作して許可を出せばいつでも出入り可能」


「なるほど。なら俺も後で自分のところは設定しとかないとな」


「…うん。他の人のエリアに入るにはその人を思い浮かべながら入る」


「了解」


トーヤに生産をする準備をしてもらうように頼んで、一旦プライベートエリアから出て、もう一度入り直してみる。たしかに漠然とトーヤのことを意識して開けたらつながった。どういうシステムになっているのだろうか。考えても仕方がないが。


「作るのは、刀の柄3個と鞘3個、それと60センチの柄と45センチの柄、普通の双剣の柄とバスタードの柄、短槍の柄と斧のグリップ?」


「ああ。剣本体を見ないと細かくは作れんが、外形だけは作っておこう。あとは自分の生産をしていればいいだろう」


俺は矢を作る。ストックはいくらあってもいい。戦闘後に矢を拾うのは大事だが、時間のロスが多い。拾う必要がないほど矢が多くあればそれをする必要もない。他の三人からアイアンアントの牙をもらってきたので、それを使う。代わりに薬草など俺が使えないものを渡しておいた。せっかくだから炉を用意して鉄の鏃を作ってみるべきだったが、気づかなかったものはしょうがない。他にもすべきことはあるのでそちらをすることにする。


「まずは刀の鞘から作るぞ。スキルレベルは大丈夫か?」


「柄ぐらいなら大丈夫」


「わかった」


トーヤと手順の確認をしながら木材を出していく。結局森にいたので相当な数を拾っているが、トーヤは西の岩場に行っていたのでほとんど木材を持っていないようだ。つくづく弓使いは森でしか生きれないのだと実感する。


「…始めるよ」


「ああ。大雑把でいいぞ。どうせ後から調整しなきゃならないんだからな」

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