37.始まりの街ルクシア-9

「さて、テント買いに行くか」


タリアやマーシャと交渉しているうちに集合の時間である正午が迫っていた。露店を回っている時間もないのでテントなどを売っている店に行ってそれらを購入してから集合場所に行くことにした。


広場から北にある店を目指す。その店に売っていたのはテントや小型の鍋、後は魔道具らしきカンテラに似たなにかだったと記憶している。初日にちらっと見かけただけでテントと鍋以外は細かく見ていないのでその店に行くのが楽しみだ。


その店につくと、表に向かって開かれており、店の中に展開したテントや鍋が置かれている。あちらの店のようにきれいに整理されているわけではなく、雑多に置かれているが、それがなんとも言えない心地よさを感じさせる。


「テントを作れるスキルもあるんだろうか」


確かスキルレベルの合計が200を超えたあたりで取得可能になるスキルに“生産設備生産”スキルというのがあった気がする。確かこれを使えば、窯だったり“調合”スキルに必要な設備だったりを作ることができるようになるスキルだったはずだ。それと似た感じでテントを作れるスキルがあるかもしれない。


店内を見てみたが、テントと小型の鍋類の他に、MPを消費して灯せるランタンのようなものがあるだけだった。ランタンの方は500ゴールドと安価だったので一応購入しておいたが、暗視能力を自分で得たいと思っているのでそれほど使う機会はなさそうだ。というか、目に魔力操作で魔力を集めれば暗闇でも視力が通ったりしないだろうか。そもそも聴覚を強化しているのでそちら系統のスキルを取って性格な位置を把握できるように慣れば暗視能力すらいらないかもしれない。まあのりだ。寝るときにランタンを吊るしてともしておくというのはなにかワクワクするものがある。


これで俺の残金は3500ゴールド。とても裕福とは言えないが、そこそこ金はあるだろう。それに金がなくなればまたアイテムを売ればいいだけではある。マーシャやタリアの金が枯渇する可能性はあるが。


時間が近づいているので集合場所に指定されているレストランに向かう。昼頃になってかなりの数のプレイヤーが街に戻ってきたようで、露店広場は賑わっており、特に食事を出す露店が賑わっている。中には、自分でとってきた食材を渡して調理してもらっているプレイヤーもいる。心が落ち着くような、なごむようなとても心地よい光景だ。


「ムウ」


レストランに向かって歩いている途中で後ろから声をかけられて振り返る。初日会って以来か。


「久しぶりだ」


「おひさー。どうだった?」


トビアが小走りで後ろから近づいてきた。その後ろには


「ぼちぼちだ。なかなか歯ごたえのあるモンスターは一体見つけたが」


「へえ、俺にも教えてくれよ」


トビアの後ろからフォルクがゆっくり歩いてくる。この二人はわりといつも一緒にいるのだ。俺が出会ったときにはすでに二人でいた。


ふたりとも、防具は更新されていないままだ。フォルクが“裁縫”スキルも“皮工”スキルも持っていたはずだが。


「ん、まあ後で話そう。防具は作らなかったのか?」


「忙しかったからな」


フォルクが即答でそう答えると、トビアがくすくす笑っている。つまり嘘だな。


「忙しかったのか。夜に多少の時間はあったと思うが?」


俺がそう聞くとフォルクは悪びれることなく、言い切る。


「夜は感覚戻すために一人で訓練してたんだよ。生産やってる時間はねえ」


本当にフォルクらしい。俺のようにあらゆることを経験して楽しみたいわけではなく、ただただ、血湧き肉踊る戦いがしたいと望む根っからの戦闘狂。だから探索や戦闘のできない夜も一人で武器を振るうことで更に強くなろうとする。レベルの問題ではない。技術を磨こうというのだ。本当にこいつらしい。フォルクに防具を作ってもらうのは不安だが、やる時はやってくれるだろう。多分。


三人でレストランへと向かいなら会話を続ける。


「こんなこと言って防具作ってくれなかったんだよね」


「これからはやるって言ったろ。感覚が戻んねえんだよ。新しい武器も使おうってのに元の武器が使えなけりゃあ世話ねえだろ」


新しい武器か。フォルクは前は細剣を使っていたと思うが、何を使う気だろうか。


「新しい武器は何を使う気だ?」


俺がそう尋ねるとフォルクはニヤリと笑う。


「まあ見てのお楽しみだ」


なるほど。見たら驚くような武器ということか。それは楽しみだ。おそらく“鍛冶”スキル持ちの誰かに作ってもらうだろうし、楽しみにしておこう。


話しながら歩くこと10分。集合を予定していたレストランへついた。トビアの言っていたとおり二階建てだ。二階の部分が12人が集まるのに丁度いい広さをしているらしい。


ドアを上げて中に入る。プレイヤーはほとんど来ていないようだ。広場の露店が相当賑わっていたことから、そちらで食事をとるプレイヤーが多いのかもしれない。


下で何が作れるか尋ねて注文し。二階に上がる。二階があった場合食事を届けるのが大変だと思うが、なぜ二階建てにしたのだろうか。考えても仕方ないかもしれないが、そんなことが気になる。


二階に上がるとすでに全員揃っていた。


「おう」


「…」


「久しぶりだな」


「遅えぞ」


それぞれに好き勝手に席について話したり、アイテムを見せ合ったり、図面を見せ合ったりしている。


「全員揃ってるみたいだから、一応今後の予定だけ確認しておくよ」


トビアがそう席につきながら言ったことでみんあ一旦話を止めて注目する。


「一応初日に確認したとおり、明日から集めてきたアイテムで全員分の装備を揃えたいと思う。それで、生産の場所なんだけど、プライベートエリアを使ったらどうかなって思うんだよね」


プライベートエリアは自分しか入れないはずだが、それぞれに作るものを分担して生産をしようということだろうか。


「俺はてっきり手順を分担してやるもんかと思っていたんだが、プライベートエリアだとそれができんだろ。どうするんだ?一人ずつ作るんか?」


「いや、それはプライベートエリアでもできるよ。今日確認してきたけど、プライベートエリアは許可したプレイヤーなら入ることが可能みたいでね。だから予め登録しておけば、互いのプライベートエリアに出入りできるから、むしろドア一枚挟んですぐ近くで生産ができるってことになる。その方が便利だろうと思ってね」


「へえ」


「ふーん、それなら全員でできんじゃん」


プライベートエリアにそんな仕組みがあったか。なるほど。運営からの報告に書いていることを鵜呑みにしてそれしかないものかと思っていた。やはり自分でしっかり確認しないとだめだな。


「全員それでよかったら、それぞれ作って欲しいものを生産分野ごとに書いた後に、それぞれ分かれて相談しようか」


「おう」


「それでいいと思うよ。他にする場所を考えるのも大変だしね」


最初の予定であれば、街中の工房を金を払って借りてするか、街のすぐ外のセーフティーエリアを使ってするかしかないのだが、そのどちらにしろ、ひと目にはつくしそれほど便利なわけでもない。それならば、生産分野ごとに部屋を分けて決めておいて、そこに出入りしながら生産をすれば確かにやりやすい。


例えば、俺の部屋は木工で木を扱う部屋、ライアの部屋は鍛冶をする部屋、フォルクの部屋は革や布を扱って防具を作る部屋というふうにしておけば、アイテムが混ざって混乱することもないしスムーズに作業が進められるだろう。時間がかかるようなら、ライアに料理を作ってもらってもいい。


「それぞれ作って欲しいものはこのノートに書いておいてくれよ!」


シンが、いつも持っていたノートを示す。そこに生産分野別に書いておけば装備品を作ってくれるというわけだ。


「レベル上げからすんのは時間かかんなー」


フォルクが隣でぼやいている。お前がどこまでも戦闘馬鹿だからだ。一応生産を嫌っているわけではないようだったので、特に声をかけることはしない。


実際のところ、俺ほど生産スキルのレベルが上っているやつもそれほどいないだろう。俺は他のフォルクらとは違って、自分で作ったものは毎日自分で消費してしまうので、生産しなければならないし、生産する量も多いからだ。


紙の『裁縫・皮革』のところに腕甲と脛当て、胸甲、布鎧(フード付き)と書いておき、動きやすいように、と付け加えておく。俺は弓で遠距離から戦うので、あまり重い鎧は必要ない。局所を守る鎧があれば十分だ。


必要なものはそれぐらいだ。鍛冶師に頼むことはない、はずだ。俺が忘れていなければ。鎧のモデルは任せているので、金属を使うかどうかは気にしないでおくことにした。





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