冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~
34.始まりの街ルクシア-6(ほのぼの/真面目 日常)
34.始まりの街ルクシア-6(ほのぼの/真面目 日常)
「じゃあムウはそのあたりの探索はもうしきったってことか?」
肉を飲み込んだタントがそう尋ねてくるので、俺はシチューを食べるのをやめて答える。
「その手前までは探索が済んでいるが、その先は少しばかり厄介なエリアがいくつかあってまだしきれていない。街に戻ってきたのは、明日がβの頃の仲間との集合の約束の日なのと、クエストを達成できたからだ」
「ちょっとまって、ここから北東に5キロってあんまり距離はよくわからないけど、結構先のエリアよね。そこをその装備で攻略してるっていうの?」
「確かに、お前まだ初期装備だな」
カルナとタクがそう尋ねてくる。必然的に三対一だから尋ねられることが多くなるな。
「βの頃の仲間とは三組に別れてそれぞれ探索をしてるんだが、俺のパーティーには“皮工”とか“裁縫”を持っているメンバーがいなくてな。武器は自分で作ったが。だからシンもレンも初期装備のままだ」
「生産スキルを持って攻略できてるのが驚きなんだけど。ていうか、街に戻ってないって言うのはそういうことね。自分たちで賄っちゃってるってこと?」
「まあな」
俺の説明にカルナとタントが感心の目を向けてくる。ステータス的には少しばかり不利だが、そもそも技術で補える部分が多いのだからそれほど関係ないのだ。
「多分ムウたちがいるあたりに到達している人っていないんだよな。だからムウの情報っていうのはめちゃくちゃ貴重な情報になると思う。できれば掲示板に載せてくれるとありがたいんだが」
「俺はしない。今から説明するからそれはタクに任せてもいいか?」
「別にいいけど、それだとお前が一番に到達した、とかそういう評価が手に入らなくなるぞ。割とそういう評価は役立つことがあるからな」
有名だと何かしらの優遇を受けれたり、そこまでのことはなくても知っている人が多い分協力してくれる人が多かったりするのだろう。
「そういうのはいらないから任せる」
「…わかった」
タクに書いてもらうことを約束させたので早速説明に移る。
「何を説明すればいい?モンスターだけでいいか?」
「それとさっき行ってた厄介なエリアっていうのも頼む。クエストの方は普通のアイテム集めか討伐系か?」
「いや。じゃあそれも含めて話そう」
三人にダンロンベアやソアウィーゼルの情報、蟻の領域の情報とダイアウルフ関連のクエストについて教える。途中三人からの質問にいくつも答えながら説明していく。食事をしながら話すはずだったが、三人とも食事をするのを忘れているようだ。
「だいたいこんな感じだ。正直蟻に関しては情報を広めるよりは一回はまって自分の身で体感してもらいたいけどな」
ちなみに蟻の弱点も一応伝えておいた。これは最初のうちは秘密にするように頼んだが。槍や弓を使う人が戦って初めて気づくのでもいいし、あまりに気づかないようなら広めてもいいが、あれは攻略法がいきなりわかってしまうと面白くないだろう。
「…随分と私達の倒しているモンスターとはレベルが違うように思えるんだけど」
「俺達は毎日街に戻ってたからそれほど進んでないけどな。まあそれにしてもムウたちの進み方は異常だな」
「そもそも防具を更新してないってのがすごいっていうかやばいだろ。ほとんど食らってないってことだろ?」
「だいたいはな。ただ、ここに来てないもうひとりのメンバーは盾を持ってるから、一応タンク役はそいつになってる」
タクはβテストの頃トップクラスのパーティーにいるほどの実力はあったらしいが、それでも街との往復の距離や、一日動いていないのもあって俺達よりは遅れているのだろう。
「ダイアウルフの戦闘パターンは自分で探るように上げといてくれ」
「わかった」
それを教えては面白くないので、いる場所に関しては教えているが、戦闘パターンについては教えていない。
「ところどころ情報を隠してるよね」
少し不満そうにカルナが文句を言う。話を聞いていてわかったが、彼女は別にすべての情報を共有すべきだとは思っていないそうだ。ただ、少なくともこの世界から出ることができなくなった今は情報を共有することでみんなで乗り越える必要があると考えているらしい。
「まあな。誰かが用意した、あるいは先人たちが残したパスワードじゃつまらんだろう。地図は常に自分で開拓したい、それがゲーマーというものだ。そんなセリフが俺の読んでた漫画にあってな。まさにそのとおりだと俺は思う」
「聞いたことないわ」
「まあ聞いたことがあるかどうかはどうでもいいんだが。この世界で生きることが許された以上、道は自分で開拓していきたい。俺はそのために生きていたいからな」
「別にそれをまわりにも押し付けないでもいいじゃない」
俺の言葉に納得しながらも、カルナはなおも食い下がる。別に出しても俺達には実害はないんだが、これはそういう問題じゃない。
「そもそも、俺はみんなの言う攻略とか乗り越えるとかそういう発想が好きじゃない。せっかくこの世界だけで生きていくことが許されたんだ。全部が冒険じゃないか。楽しまないと嘘だろう。効率だけを求めてそこに何かあったのか?少なくとも俺はそんな生き方がしたいし、だから周りに情報を全部流したりはしない」
俺の言葉にカルナはあっけにとられている。
「ムウ、お前がそういう考え方をしてるって俺は知ってたけど、二人は初対面だぞ。言っても納得はできないだろ」
「…俺はそうでもないぞ」
ずっと黙って話に聞き入っていたタントが異を唱える。
「この世界云々の話はわからないけど、せっかくのゲームなんだし、自分で攻略してかないと面白くないって言うのは納得できる」
「…そうね。私も考えてみるわ。でもこれだけは言っておくわ。少なくとも今は、みんなが冷静になれるまでは、それにここの生活に慣れるまでは共有すべきだと思う」
「そこはカルナたちが探索して情報を回してくれ。情報の在り処を教えれば共有したも同然だろ」
「わかったわよ、もう」
機嫌を損ねてしまったようだ。情報の共有に利点はあるのだろうか。今のところ、あえてゲームと言うならば、このゲームをクリアすればあちらの世界に戻れるとも限らないし、そもそも明確なクリアなんてものが存在するのかもわからない。
良くない雰囲気が漂うなか、タクが仲裁に入ってくれる。
「ムウもカルナも落ち着いてくれ。カルナ、ムウはこういう考え方を持ってる。俺達みたいなゲーマーとも、普通の奴らとも考え方が違うんだ。それを否定してもしょうがない。情報の内容はある程度あげた上で俺達が精度を上げれるように行動しよう」
「…そうね」
カルナと話した後、今度はこちらに話しかけてくる。
「ムウも、全部情報を流せとは言わないが、今後もこの程度の情報を流してくれると嬉しい。俺達が確定させやすいからな」
「この程度の情報だからむしろ制限してるんだ。よほど進行に影響を及ぼすようなエリアのギミックだったり共有すべきだと思う情報はなるべくお前に伝える」
「そうしてくれると助かる」
その後は食べるのを忘れていた食事を続けながら、戦闘の話などを少しずつする。カルナはまだ機嫌が悪いようだ。あとで謝っておくことにしよう。俺の考えを誰かに話して理解してもらえたことほとんどないし、仕方ないだろう。
隣のテーブルではすでに食事を終えて楽しく談笑しているようだ。俺もあの二人、特にレンぐらい器用に生きられれば楽だったかもしれないがな。
「さて、そろそろ行くか」
タクがそう言い、レストランを出る。それほど高くなくて助かった。アイテムを売ってないから金は少ないのだ。
レストランから出たところで別れの挨拶をする。それぞれ互いにフレンド登録をしている中で、俺はカルナに話しかける。
「カルナ、さっきはすまない」
「…いいわ。あなたの考え方にだって正当性はあるし」
「なにかあったら連絡してくれ。仲間で活動していなければ手助けする」
「助け合いは嫌いじゃなかったの?」
そういえば、先程説明にそういったのを思い出す。
「情報を拡散して見ず知らずの奴らと手助けし合うのは嫌いだ。それは助け合いじゃない。だが、生身で友人同士が手を貸しあうというなら、俺はむしろリアルな生活だと思う。カルナじゃなくてもいい。カルナの友人で本当に困っている人がいたら呼んでくれ。俺の手を貸せることなら手を貸す」
そこは俺自身にも明確に定義できないところだ。友人が困っているなら手を貸そうとは思う。だが、ただこの世界を攻略するのを早くするために何かをする、というのは嫌だ。そんな説明でいいのだろうか。それは俺がよく考えないといけないところだろう。
「まあ、いいわ。困ったことがあったら呼んであげる。攻略の手を貸せって言っても断らないでよね」
「俺自身を呼んでくれるなら楽しく遊びにいく」
「助かるわ」
カルナともフレンド登録をし、話していないふたりとも軽く挨拶をしてフレンド登録をしておく。タンクの方はリスト、魔法使いの方はサラというらしい。5人か。パーティーの最大人数は6人だから、俺が呼ばれるのも割と近いかもしれない。
「ムウ」
別れ際になって、タクが珍しく拳を上げるのではなく、握手の形の手を出している。それを握ると、タクが話しかけてきた。
「あいかわらず不器用だな」
「仕方がない。何かあれば呼んでくれ。お前には無用かもしれないが」
「そうでもないさ。弓使いに用事があることもあるだろ」
「そうか。頑張れよ」
「お前もな」
互いに手を振って歩き出す。友人と久しぶりに出会って話すというのもまた楽しい。
宿に行こう。ライアが待っている。ガロンとラナにも報告をしなければ。
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