冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~
33.始まりの街ルクシア-5(ほのぼの日常)
33.始まりの街ルクシア-5(ほのぼの日常)
「それにしても本当に久しぶりだな」
「あっちだと毎日会ってたからな。せいぜい4日だ。それほど久しぶりでもないだろう」
交通が発達しておらずそれぞれが街を離れて冒険するような世界ではこれが当然なのではないだろうか。
「まあそうか」
そう言ったタクがしばらく何かを考えるようにコップを手にしたまま黙り込む。何も考えていないようで常に何かを考えているこいつのことだ。何を話そうか考えているのだろう。
「ムウくん、って言ったよね?私はカルナ。よろしくね」
「俺はタントだ。よろしく」
「ああ。よろしく」
タクが黙っている間に二人が自己紹介してくれたので俺も返す。
「ムウは、今どこを攻略中だ?」
考えていたタクがコップから目を上げてそう尋ねてくる。そんなに考えないで適当な話で構わないのに。
「俺たちは北の森の方だな。そっちは?」
「俺達は東の草原だ。良かったら情報交換しないか?掲示板に多少の情報は上がってるかもしれないがまだ体制が整ってないし、互いに有益な情報があるかもしれない」
「わかった」
あの森程度であれば、俺達がたどり着いていたような場所に後々到達するプレイヤーも多くいるだろうし、情報はそのうち出回る。だが、少なくとも攻略が始まって間もない現段階では、そんな場所の情報も重要なものとなるし、だからこそ適当に扱うわけには行かないという配慮だろう。
「まあ、こっちの情報は大体掲示板に上げてるんだけどな。なにが知りたい?」
ふむ。掲示板はすでにその程度は動き始めているのか。一応後で確認しておこう。
「攻略の情報よりも街の情報の方がありがたい。プレイヤーの動向とか、雰囲気とか。ああ、あとデスペナルティーについても聞きたい」
そうだな、とタクがうまくまとめて説明してくれる。
「初日の夜と二日目はひどい有様だったな。だいたいみんなログアウトできなくなるとか想像もしてなかったし。俺も二日目は宿で茫然自失って感じだったな」
「私もそうね。ムウくんも気づいたと思うけど、この街の宿の数ってすごいギリギリだったのよ。だから宿に入れなくて広場のすみで寝たりする人もいたわね。プライベートエリアが追加されてからはそんなことはなくなったけど、それまでは割とみんな現状に対応するのに必死だったわ」
「なるほど」
そもそも街にいなかったので全く気づいていなかったが。それは後で説明しよう。俺
が考えていたよりもひどい状況だったらしい。これだけ広い街で宿の数が足りていないのか。TOWの発売本数は1万本だから、少なく見積もっても初日のあの段階でのイン率を8割と考えても8,000人、多かったら1万のプレイヤーがこの街にいる。確かに宿は足りないかもしれない。
「じゃあ部屋の奪い合いとかが起きたりはしたのか」
「ああ。基本的に宿は一日単位でしか泊まることができなくてな。そういう仕様なのか今のところなのか知らないが、それのせいで早いもの勝ちみたいになってたな」
「まあ三日目ぐらいになると最初は閉じていた宿が稼働しだしたから全員入るような状態にはなったんだけどな。それに気づけなかった人はまだ外にいた」
ふむ、なんだろうか。この違和感は。宿が次第に開いていく。プレイベートエリアが後から追加される。完成していたのではなかったのか?なんの意図でわざわざあとから付ける必要があるようにしたのか。
「そういうムウは、初日からどうしてたんだ?」
「ん、ああ」
少しばかり気になったことを考えていると、俺の方の話を尋ねられる。タクになら別に薬師の里のことをはなしても構わないだろう。今隠してもどうせそのうち広まるのだし。
「初日はとりあえずβテストの頃の仲間と集まって、その後の方針を確認した。その後は宿に向かって生産を軽くしてから寝た。二日目からは、北の森方面のクエストを受けたこともあってそっちの探索だ」
「やっぱりお前は動じないよな」
半ば呆れ気味にタクが言う。ログアウトできなくなったことを言っているのだろうか。むしろ望みがかなった形だ。
「割と望んでいたことでもあるからな。それでだな。ここからは一応掲示板とかにはあげないでほしいんだが、いいか?」
「まだなにかあるのか?」
「ああ。そのうち情報は出るだろうが、広まると楽しくないしな」
俺が秘密にしてほしい理由を説明すると、タクはうなずいてくれた。だが、カルナとタントはなにか言いたいことがあるようだ。
「それだけ?」
カルナが真剣な顔で尋ねてくる。
「それだけ、とは?」
「自分がメリットを独占したいからとか、じゃなくて、ってことだよ」
タントが、俺も同意見だ、と言わんばかりにカルナの真意を説明してくれた。カルナの様子を見るにそれであっているようだ。
普通に考えれば情報を明らかにしないのはそう捉えられても仕方ないか。タクはまだしも、初対面のカルナとタントにならそう思われても仕方ない。それを初対面ではっきり相手に指摘できるかどうかは別として。
だから、俺は自分の考えを説明する。
「自分で発見するのが一番楽しいと思うが?少なくとも俺は、誰彼の情報を拾って行って新しいものを見つけても嬉しさや楽しさは半減すると思うがな。タクはあくまで友人として教えておこうと思ったのと、俺はそのあたりの判断ができないから必要だとタクが判断したなら自由に扱ってほしいと思ったからだ。独占しようと思ってるならそもそもタクにも教えない」
俺が自分の考えを説明すると、タクがフォローしてくれる。
「ムウは基本的にこういうやつだから。多分メリットうんぬんは考えてないぞ。それにこんな状況になったからこそ協力して、なんてことも気にしないやつだから。そこを言っても仕方ない。そこはあくまで考え方の違いだからな」
フォローしてくれたのはありがたいが、今度は発言の中に気になる部分があった。
「街はわりとそういう感じか?」
「お前は嫌だろうが、そういう感じだ」
「別に嫌というわけではないがな」
そんな感じ。つまり、助け合いとか協力とか、そんな雰囲気が漂っている感じ。それ自体は何も問題ない。何かを作るときや強いモンスターを倒したり、厄介なエリアを探索するときにいくつものパーティーが協力し合うのは当然だ。
だが、何につけても、たとえ何があってもとにかく助け合うという風潮は好きではない。あくまで自主的な助け合いをするのであって、そういう雰囲気に押し流されて助けあうというのは違う。
「まあ別にそうしないと吊るし上げられるとかいうわけじゃないし。気にしなくても問題ないぞ。それより、その情報について教えてくれ」
タクに促されて先を続ける。
「わかった。まず俺達の二日目から今日までの行動なんだが、実は街に一回も戻ってきてない」
「それはNPCショップで売ってたテントとかそういう道具の利用ってことか?」
そこはちゃんと確認していたらしい。通りからでも目視できる位置にはあったが、それほど混乱していたなら気づかなくてもおかしくはないと思ったが。
「いや、二日目にはテントを買ってない。高かったからな。だからその日は一旦街に戻ってテントを買ってから出直そうとしたんだが、途中で集落があってな。そこに止めてもらって、今日までそこを拠点にして活動してたんだ」
俺の説明に食いつくようにタクが質問を返してくる。カルナとタントも驚いており興味津々のようだ。
「集落か?人がいるのか?セーフティーエリアか?」
「説明するから落ち着け」
身を乗り出してくるタクをなだめて順を追って説明する。
「場所はここから北北東5キロぐらいの位置だ。岩に囲まれた中に集落があった。大地人の村で宿泊施設はない。だが、何かしらの条件で泊めてくれる、んだと思う。少なくとも俺達は泊めてもらった。だが小さい集落だから、そんなに大挙して押しかけてもしょうがないし、それもあって情報の公開はしないほうがいいかと思った」
そう説明すると、タントとカルナも納得してくれたようだ。おれはそもそも誰かのためにすることを強制されるのは嫌いだし、情報の共有なんてしたい奴らがしておけばいいと思う。もちろん冒険の中できれいな景色の情報だったりを知りたくて掲示板を見ることはあるだろうが、だから俺にも公開しろというのは違う。それなら情報を公開しないか、公開しない人は見るなという説明を書いておけばいい。そう書いてあれば俺も見ようとはしない。
「なるほどな」
そこで料理が届いたので、続きは食べながら話すことにした。俺はパンとシチューだ。たしかに軽めでいい。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
こんな世界であっても、やはり俺たちはいただきます言うのだなと、少し面白く感じた。
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