31.薬師の里-9
ダイアウルフが地に伏し、その体が溶けるように消える。
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クエスト:商いを阻むモンスターを討伐せよ ダイアウルフ1/1
進捗:依頼人に報告せよ
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クエストログが更新される。
『《巨紫狼の爪》×3を入手しました』
『《巨紫狼の皮》×2を入手しました』
『《巨紫狼の牙》×3を入手しました』
『《紫電結晶の欠片》×4を入手しました』
通常のモンスターとは違って複数のアイテムを同時に獲得できた。ダイアウルフは区分としてはボスモンスターに近かったのかもしれない。
「おつかれ」
「ああ」
レンが上げた拳に自分の拳を打ち付ける。
「いやー、楽しかった」
「お前ばっか楽しんでさ。俺にも代われよな」
シンとライアが話しながら集まってくる。無事にダイアウルフを倒すことができたのだ。強さで言えば、相当のものだったと思う。特に動きが早いために、魔法が使えなかった俺達は苦労したのだろう。
ただ、身にまとっていた紫電を考えると、魔法攻撃は何らかの妨害を受けて正規のダメージを与えられないかもしれない。そこは今後挑む人たちに考えてもらおう。
「また戦えんのかね、こいつと」
ダイアウルフが消えたあたりにまだわずかに残っている光を見ながら、ライアが言う。
「どうだろうね。イベントモンスターっぽいからもう戦えない気もするけど」
少し今の戦いを思い出す。最初は、大型のモンスターと言っても鈍重なだけの面白くない相手かと思った。
だが違った。
こちらを脅威だと判断すると、レベルの違う本気を出してきた。そして、とても楽しい戦いにしてくれた。いい相手だった。
「もう帰ろうぜ。一旦あのの集落に戻るんだろ?」
軽く感傷にひたっているとシンがそう声をかけてくる。こいつはあまり感傷など感じていないのかもしれない。もしくは後から一人で感傷にひたるのか。
だが、今はシンの言う通り薬師の集落に行ってから街に戻ろう。
「帰る…」
『帰るぞ』。その言葉を俺は途中までしか言うことができなかった。再びこのエリアに突入したときのように体が動かなくなる。
つい先程までライアが見つめていた、ダイアウルフが消えた後に残っていた光が形を変え、次第に人の形を取る。
やがて光が晴れた後には一人に女性が立っていた。
『救っていただきありがとうございます、冒険者の方々。私は聖樹の森に住む精霊の一人です』
そう言いながらその女性は腰を折った。
『聖樹の森は魔の者の軍勢に襲われ、全ては失われました』
『私も魔の者に敗れてしまい、あの獣の胎内に封じられていたのです』
『今、美しかった聖樹の森は魔の蔓延る場所となっています』
『冒険者の方々よ、お願いです。はるか北に広がる聖樹の森におもむき、森を魔の者の手から開放してください』
続いて、精霊と名乗った女性は何かを抱えるように両手を目線の高さに上げる。
『あなた達には微力ながら私からの加護を授けます』
女性の手から光が放たれると、四人に向かってそれぞれ飛んでいく。そして、俺達の体にぶつかるようにして消えた。
『幸運を』
そう言うと女性は消え、先程までの残っていた光も消えた。
「…今のもイベントか」
「今後の攻略のヒントだろうな」
「ああ。とりあえず集落に向かいながら考えよう」
その場で話を続けそうな三人を促して集落に向かう。とはいっても現在ある情報があの女性の言葉だけなのでそこまで長々と話すこともなかった。イベントについて話し終わった後は明後日が再集合の日なので、その後どうするかなどを話しながら集落へと向かった。
集落に着くとすぐに村長のもとへ報告に向かい、ダイアウルフを討伐したことと、お世話になった礼を言った。街の状況も見たいしなにか良いアイテムが手に入るかもしれないので今日中には街に戻り、街で一泊してから明日の集合に向かうつもりだ。
その後、それぞれ世話になった家へと礼を言いに向かう。
「よく戻ったの」
「ああ。世話になった」
カッセルの家に向かうとカッセルは表に座って待っていた。
「もう行くのかの」
「他にも見たい景色がある」
カッセルは楽しそうに笑う。
「お前さんは本当の冒険者じゃな」
「そう言ってもらえるとありがたい」
その後、カッセルから少しだけ木工や木材について、そして弓について教わった。
「そろそろ失礼する」
「うむ。達者でな」
カッセルに別れを告げて里の広場に向かう。他の三人はすでに来ていたが、ライアはまだ数人の女性と話していた。昨日一緒に料理していた女性たちだ。
「じゃあ、もっと腕を磨いて教わりに来るわ。待ってろよ」
「あんたがそこまで腕を上げれたら褒めてやるよ!」
ガッハッハ、と豪快な笑い方をしている女性は昨日俺の背中を叩いた女性だ。何かしらのレシピを学ぶことができるが、ライアのレベル、もしくは技術が不足しているということか。
「わりい、またせたな」
「いや、問題ない。街に戻ろう」
四人で揃って里を後にする。岩の外に降りる門の前でラタナンテが待っていた。
「お兄ちゃんたち、もう行っちゃうの?」
少し寂しそうに彼女はそういう。そういえば、まだ彼女と遊んでいない。
「ああ。ここでの用は済んだからな」
またそういう言い方をする、とレンが背中をつついてくる。仕方がないだろう。柔らかく接するというのは苦手なのだ。
「そっか…」
「だが、また遊びに来る。今度はラタナンテと遊びに。その時まで待っててくれ」
そのときには彼女に街を見せてやるのもいい。外に出たことがないといっていた。
「ほんと!?」
「ああ。少し時間はかかるが、また遊びに来る」
俺がそう約束すると、ラタナンテは嬉しそうにニッコリ笑った。
「じゃあ私待ってる!」
そう言って集落の方へと駆けていった。
それを見送った俺は三人の視線を感じてそちらを向く。
「なんだ」
「いやー、やり手だなと思ってな」
「俺よりすごいぜ、お前」
「すごいね、ムウは」
人に会話を押し付けておいて何を言っているんだコイツラは。お前らが話さないから俺が話したというのに。このメンツだと他の人と話す際には俺がメインになってしまうというのも困りものだ。人との関わりは苦手ではないが、三人に聞かれている前で一人で話しているというのは何か気恥ずかしい。
「うるさい。行くぞ」
まだニヤニヤしている三人にさっさと門から下へ降りさせる。最後に一度集落を振り返ってから俺も門を閉じて外に出た。
街へと向かう間も戦闘をしながら向かう。まだ昼頃だから夕方には街につくだろう。
何度目かの戦闘で種族レベルが上がり、アナウンスが響く。
『ロストモアの種族レベルが20に達しました。取得可能なスキルに“魔力操作”が追加されます』
三人も同時にレベルが上ったようで、顔を見合わせる。
「細かい話は後にして街に向かうか」
「俺はもう取得した」
「早いね…。まあ街に戻ろうか」
スキルの説明を軽く呼び飛ばしてすぐに取得した。現状でできるのは、魔力、つまりMPを消費してそれを動かすことで体の自由な部位を強化したり硬化したりできるようだ。だが、まだレベルが低いためか魔力の移動に時間がかかる上に身体覚醒よりも多くの魔力を消費しながら少ない効果しかない。しかし、レベルが上っていけばもっと素早く強化でき、MPの消費量も抑えられる、はずだ。レベルアップによる成長はそれ以外には思いつかない。
早速それを装備して街に向かっている間も使用する。MPの消費は激しくなるが、アーツの発動を押さえれば大丈夫だ。
そういえば先程精霊からもらった加護だが、無効化されていた。ロストモアの特徴なのか、レベル不足なのか、特殊なスキルが必要なのかはわからないが現段階では使えないということだ。正直そこまで期待していなかったので割とどうでもいい。“魔力操作”のほうが魅力的だ。ファンタジーが好きな俺からすれば様々な作品で非常のよく見知った内容なのだから。
夕方近くになってようやく街の門が見えてきた。なにげに、夜の街に戻ってくるのは初めてか。
明かりが灯ったことで昼間とは違う様相を示す門をくぐり、街に入った。
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