冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~
30.ダイアウルフの縄張り-4|vs巨紫狼-2
30.ダイアウルフの縄張り-4|vs巨紫狼-2
「ライア、一旦回復だ!」
「おう!レン、スイッチ!」
「了解!」
ライアが回復するために距離を取るのにあわせて、レンがダイアウルフの顔に飛びつき、剣を深々と差し込む。
「グゥルルル…ワフッ!」
ダイアウルフが先程とは比較にならない激しさでレンを振払う。ターゲットがレンに移ったようだ。
「俺にも譲れよな!」
常にダイアウルフの横を維持していたシンが、連続で斬りかかる。ヘイトの奪い合いか。それもいい。安定からはほど遠いが、はまれば強力だし、何より楽しい。だから俺は指示を出す。
「ヘイト管理を無視!それぞれに攻撃は任せる!」
「…ありがてえ!」
「おう!」
回復の済んだライアが突っ込んでいき、レンをターゲットにしたダイアウルフがライアの近くに着地した瞬間に合わせて、《シールドバッシュ》から《スラスト》を連続して放つ。あれだけあちこち飛び回っているダイアウルフによく合わせたものだ。
「っ、ライア!」
「『俺を狙ってこいよ、デカブツ!』」
ライアの大声で再びターゲットがライアに移る。やはり“挑発”スキルと“大声”スキルを持っているライアのほうがターゲットを取るのに向いているのだろう。与えているダメージでは連続で攻撃をしているレンのほうが上の可能性もあるが、ライアはヘイトを攻撃以外で多く稼いでいる上に、一撃一撃が重たいためにヘイトを大量に稼いでいるのだろう。
「はっ!」
ライアから距離を取ろうと飛び下がったダイアウルフに今度はシンが斬りかかる。それを受けたダイアウルフが三人の真ん中に飛び出すと、大きく息を吸う。
「回避!」
「『ガアアアァァァッ!』」
「『ハアアアアッ!』」
レンとシンが咆哮の衝撃波で吹き飛ばされる。ダイアウルフの体からは一層激しく紫電が飛び出し、各部の塊に溜まって帯電している。
「二発目までの時間差1000!」
「なげえな!」
そこからダイアウルフは一層高速で動き出した。レンとシンも攻撃を加えているが、ダイアウルフが速いためにうまく捉えることができないでいる状況だ。
「『ワオオオォォォン!』」
「『オラアアァァァ!』」
しばらく攻防が続いた後に再び咆哮である。今度はため動作なしのノータイム。レンとシンがその咆哮を受けて硬直している。ライアは先程からダイアウルフの大声に対して自らの大声を合わせることで影響は小さくして立ち向かっている。おかげで多少咆哮のパターンが読めてきた。
「硬直ありはため動作無し!衝撃波ありはため動作あり!」
さらに言えば、特に影響を受けない後方から聞いていると、硬直させてくる咆哮は雄叫びと言うよりは響き渡るような遠吠えに似た声であり、衝撃波を伴う咆哮は腹の底に響くような巨大な音だ。
「速すぎるぜこれは」
「動きを止めないとまずいな」
ライアがターゲットを取ってはいるものの、攻撃をしては交代したり横に回り込もうとするダイアウルフが速すぎて、三人は自分の攻撃範囲に入ったタイミングで攻撃をするしかなくなっている。一旦距離を詰めて懐に入りさえすれば、全力で逃げられない限りはついていくこともできるとは思うが。
「動きを止める!」
(《クイックショット》)(《パワーショット》)
連続でダイアウルフの目を狙って怯みを狙う。一瞬動きを止めれれば三人が接近して射程に捉えることができる。
「〰〰〰〰〰〰〰!?」
放った矢の内数発がダイアウルフの目に刺さる。やはり目は最大の弱点か。ダイアウルフの動きが止まった。
その僅かな怯みがあれば三人が接近するには十分だ。
「ちょこまかと動きやがってよ!」
お前がそれを言うのかと言いたくなるような叫びをライアが上げる。俺はそれを聞きながら、紫の鉱石に向かって幾度も矢を放ち弱体化させていく。機動力低下、耐久力減少。デバフの重ねがけだ。
「はっ!」
レンの一撃でダイアウルフの体表の紫の鉱石が剥がれ落ちる。続いて俺が矢を当て続けていた背中の鉱石が、更にシンの攻撃によって脚の鉱石が剥がれ落ちていく。
「もっと激しく行こうぜ!なあ!」
若干テンションのおかしいライアが、最後に残ったダイアウルフの頭部を覆う形の鉱石にシールドバッシュを叩き込む。
ダイアウルフの頭部の鉱石が砕け散った。
バチバチッ バチッ
ダイアウルフの体表から先程まで鉱石に集中していたときとは比べ物にならないほど激しく紫電がほとばしり、それを回避するために三人が跳んで下がった。
いや、下がろうとした。
ダイアウルフの姿がかき消えると、一瞬でライアのそばに移動しており、まだ空中にいるライアを叩き落とそうとする。ライアはバックラーをその脚にかち当てると同時に剣の腹で脚をいなそうとするが、空中という不安定な環境もあって大きく吹き飛ばされる。衝撃をいなすことはできていたようですぐに起き上がってくるが、8割近くあったHPはすでに4割を切っている。
「カバー!」
「はっ!」
ライアが吹き飛ばされている間に着地したレンがすぐに踏み込むと、空中で納刀していた剣を使って居合斬りをダイアウルフに放つ。
先程まで距離をとったり移動する事によって攻撃を避けていたダイアウルフは、しかし避けない。どころか、レンにターゲットを切り替えて激しく噛みつきや叩きつけ、ときに突進を仕掛けていく。レンは足さばきでそれらを躱しながら再び納刀。ダイアウルフのたたきつけに合わせて抜剣。上からの叩きつけに対して下から少し斜めに刃を入れることでその脚をそらす。
足元に潜り込んで攻撃していたシンが、叩きつけをそらされて僅かに体勢の崩れたダイアウルフを見逃すはずがなく、体重を支えている方の脚に連撃を入れて更に体勢を崩そうとしている。
俺がレンやシンと同じ脚を狙うと邪魔になる可能性があるので、二人の狙っているのとは反対の脚を狙って連続で矢を放つ。矢が再び切れたのでアイテムインベントリから出して補充だ。残りの矢は40本ぐらいか。
「転けとけや、デカブツ」
レンとシンの攻撃でも更に体勢を崩すには至らず、立て直そうとしているダイアウルフの横っ面に、回復して戻ってきたライアの右ストレートが突き刺さる。バックラー付きで。全身の体重を載せたほぼ体当たりに近い攻撃に、たまらずダイアウルフが倒れ込む。
「はあああああっ!」
完全にダイアウルフの足が止まって反撃のできない好機に、シンが双剣による連撃を、ライアがバックラーと剣のコンボを、レンが居合から流れるように連続攻撃を入れる。俺もそれに合わせてすべての矢を打ち切るつもりで連続で矢を放つ。先程までは加減して要所要所にだけ連続してはなっていたが、今は攻め時。
だが、ぼろぼろになりながらもダイアウルフは立ち上がる。
「アオオオオォォォン!」
大きく四肢を踏ん張ったダイアウルフが天に向かって今までで最大の咆哮を上げる。その体がまばゆく光、激しく放電する。
「『きかねえなあ!』」
その中を、ライアが突っ込んでいった。放電の影響を受けない俺はライアを援護するためにライアの周囲に矢を放つ。ライアの周囲を通り抜けるようにとんだ矢は、ライアに近づいていた紫電を引きつけると、ダイアウルフに向かって真っすぐ飛んでいく。俺の矢が燃え尽きていないことを考えると、紫電の一発一発はそれほど強力ではないのかもしれない。
「楽しかったぜ」
跳び上がったライアはダイアウルフの喉を突き刺すように真下から突き上げる。それを思い切り引き抜いたところでダイアウルフは力尽き、光になって溶けるように消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます