冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~
29.ダイアウルフの縄張り-3|vs巨紫狼-1
29.ダイアウルフの縄張り-3|vs巨紫狼-1
「おいっす」
「おはよう」
探索の準備を整えて外に出ると、すでに三人とも揃っていた。
「今日はふたりとも早いな」
「毎日朝から金属いじってるわけじゃねえよ」
「俺も今日は」ちゃんと準備しておいたよ。それに今日はダイアウルフと戦うわけだし、それほど探索はしないと思うから、あんまり地図も書かないと思うけど」
そう会話をかわしながら、ライアが包を放ってくる。開けてみると昨日同様にサンドイッチだった。今日は肉とともに野菜も多めだ。
「ここの畑の野菜をちょっとだけ分けてもらったんだよ。野菜もあったほうがうまいだろ?」
「ああ、うまい」
レタスと肉の組み合わせがうまい。やはり肉だけでなく新鮮な野菜があってこそのうまい飯だろう。肉ならば米と食いたいところだが、街で回った店には売っていなかった。おそらく攻略が進んだところで発見できるのだろう。
「よし、それじゃあ行こうか」
「おう」
門を出て森に降りる。今日はまっすぐ昨日発見したダイアウルフの縄張りを目指す。
作戦は臨機応変に変更するが、一応の打ち合わせはすんでいる。ただ、ダイアウルフを名前から大型の狼程度に思っているが、もしかすると狼ですらないかもしれない。それが確認できていない以上そのばその場で判断しなければいけないだろう。
なるべく戦闘を避けながら森を進んでダイアウルフの縄張りにたどり着く。
やはり、昨日ほどの圧力は感じない。力の差が大きかったからこそのあの圧力だろう。今は心地よい程度の緊張感を感じる。
そのまま進んで昨日発見した開けた空間にたどり着いた。
「行くぞ」
「うし」
「んー、楽しみだな」
ひしひしと圧を感じながら、木のアーチをくぐって広場に入る。そこで、体の動きが止まった。
周りを見渡しながら、俺達の体がゆっくりと広場の中央に向かって進んでいく。中央についたあたりで、
「オオオオオォォォン!!」
狼の巨大な遠吠えが聞こえた。
森の中から巨大な物体の駆け回る音がする。そして、木の枝の集まりを突き破るように高い位置から白にところどころ紫が混じったか塊が落ちてくる。
級のように丸まっていたその塊は、着地の寸前に足を開いて地面に足を踏ん張ると、大きな叫びを上げた。
「オオオォォォン!」
「先行する!」
「1、2…」
狼、ダイアウルフが叫び声を上げたところで体が動くようになった。すぐにライアが剣を抜いて突っ込んでいく。
シンとレンは側面に回り込むように走っていく。俺達のパーティーにはタンクとなるプレイヤーがいるわけではないので、一応はライアがヘイトを主に稼ぐが、他の二人も近距離で同様にヘイトを稼ぐことで、狙いを定めさせないように戦闘をしている。
「『タウントォ!』」
ライアがタウント+大声でヘイトを大きく稼いだところで、俺も攻撃を始める。前衛の三人とは違って、俺がヘイトになってターゲットをとってしまうと、前に出ている三人を置いたままこちらにダイアウルフが突っ込んできてしまって、俺がやられるので、初撃は俺以外の誰かがうつことになっている。
三人の中でいえば唯一鎧を装備していているライアがヘイトを稼ぐのが一番安全ではある。
「8、9、10…」
ライアは盾での防御を行うが、この世界では盾ではない剣でもガードをすることができる。ただ、技術力が足りなかったり真っ向から受け止めてしまうと完全にダメージを無効化することはできず、ある程度のダメージをが通る。その際にはプレイヤー本体の防御力が加味されるので、メインでモンスターのヘイトを集めるのは同じ腕をしたプレイヤー同士であれば防具をつけたプレイヤーの方が良いのだ。
(《クイックショット》)(《パワーショット》)
「《弓体・連射の構え》」
使えるアーツの中で火力の出せるアーツを連続で放つ。MPの消費は考えない。
ライアのバックラーによるアッパーで戦闘が始まる。ライアに対してダイアウルフは足による叩きつけに続けて噛みつき攻撃をしているが、ライアはうまく躱している。その間に左右から二人による攻撃だ。
それに対してダイアウルフは鬱陶しそうに体を振り回して振り払う。レンとシンは攻撃を急ぐ場面でもないので、すぐに距離をとった。
「『お前さんの相手は俺だろぉ!』」
ライアが再び大声を上げて自分の方に視線を向けさせる。俺の矢はダイアウルフの顔付近に突き刺さった。細かく狙っていないのでそんなものだろう。
「『ワオオオン!』」
そこでダイアウルフが咆哮を上げる。それに対する三人の反応がおかしい。硬直しているのか?
動きの止まったライアに対して、一瞬飛んで下がったダイアウルフが突進攻撃をかける。
「ふっ」
(《クイックショット》)
「ギャヒ!?」
俺が連続ではなった矢は、ダイアウルフの目に連続で突き立つ。上下に動きがないのと、突進という偏差の楽な攻撃であったので、当てることができた。矢の速度がまだ遅い。
「すまん、ムウ!『《シールドバッシュ》!』」
やはり硬直していたのだろう。咆哮によって硬直もしくは麻痺を引き起こすのか。今は攻撃に時間のかかる突進だったためにライアに当たる前に止めることができたが、あれが噛みつきだった場合にはおそらく間に合っていない。
「レン、シン!今の攻撃が来たら一旦離れてライアをカバーしろ!」
二人が了解したのを空気で感じ取り、続けざまに矢を放つ。俺が硬直を受けなかったということは、距離を取れば避けることができる。明確な距離は定かではないが、そこの判断は二人任せだ。
「42、43、44…」
最初の咆哮は30できた。次が何秒後に来るか明確に定まっているとすれば、カウントを続けることで予測できる。
三人にも聞こえるようにカウントを重ねながら、合間に矢を放つ。今度は顔ではなく左の前脚をしつこく狙う。使っているのは新品の鉄蟻の矢だ。先程顔を狙うときは黒曜石の矢を使っていたが、今はこれを使って機動力を下げようと試みている。
ライアは、ダイアウルフの攻撃をうまく躱したりそらしたりしながら、着実に反撃している。右へ左へと動き回るダイアウルフを常に正面に捉えて離さない。
レンとシンは、動き回るダイアウルフから攻撃できる程度の一定の距離を保って動いている。完全に張り付くと不測の事態に対応できないからだ。
「硬いな」
戦闘がはじまって暫く経つが、俺の矢を含めて、全員の攻撃がダイアウルフの体表の紫色の塊に弾かれている。造形からしておそらく何らかの鉱石だ。ときおり光ったり消えたりしているのは、そういう特性か。
「崩す」
鉱石ならば、鉄蟻の矢がよく効くはずだ。左脚から狙いを変えて、三人の攻撃する位置にある紫の塊を狙い射つ。目よりも遥かに大きな的だ。外すものか。
「ムウ!アーツの発動は抑えて!様子を見よう!」
一旦ダイアウルフから距離をとってレンが呼びかけてくる。たしかに、かなり攻撃を加えているがあまり応えた様子がない。すぐさまHPを削りきらなければいけないほど危険な攻撃はしてきていないしそれもありだろう。
「了解!」
いまのところは大きな脅威はさっきの咆哮以外ないが、かなり時間がかかりそうだ。
予想通り鉄蟻の矢はダイアウルフの体表の鉱石を腐食させているようで、かなり打ち込んだ結果、ヒビが入ったり、ところどころ剥がれ落ちたりしている。三人の攻撃も通りやすそうだ。
この程度なら退屈だ。そんな退屈をたたきこわすようにダイアウルフが一層激しい咆哮を上げる。
「『ガアオオオウ!!』」
三人が揃って吹き飛ばされる。ダイアウルフの体表からは紫電が飛び出し、紫の塊に集っていた。
「ここからか!
「あがるじゃねえかおい!」
第二ラウンドの始まりだ。ありがたい。退屈しなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます