28.薬師の里-8|生産-3
「次は矢の作成だが、アイアンアントの素材は使えるのか?」
先ほど倒した蟻は、アイテムの説明によるとアイアンアントというらしい。あの頑丈さも納得だ。入手できたのは
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アイアンアントの甲殻 品質D レア度:1
アイアンアントの強固な甲殻。鉄に近い硬度を持つ
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アイアンアントの牙 品質D レア度:1
アイアンアントの牙。高い耐久性を誇る
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アイアンアントの蟻酸袋 品質D レア度:3
アイアンアントがまれに持つ酸の詰まった袋。酸は高い腐食性を誇るが、アイアンアントの甲殻は溶かせない
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これらのアイテムだ。アイテムのレア度は、そのモンスターから入手できる確率で決まるのだろうか。ダンロンベアの皮やダオックスの角もレア度:1だった。まさかそれらのアイテムの希少性がウルフの牙や爪と同じことはないだろう。かといって、完全に初期の現段階で決めつけるのはまだ…
「いや、考察するのはあとだ」
危ない危ない。思考が完全に考え込む方向に向かっていた。まずは矢を作るのにアイアンアントの素材が使用できないか試そう。
アイアンアントの素材のうち、甲殻は明らかに使えない。というか、これは明らかに盾や鎧に使用するものだろう。となると牙が使えそうだ。
牙の大きさは、ウルフの牙よりも一回り大きく、全体的にやや偏った形状をしている。これを整形しなければ矢には使えないだろう。太さとしては矢として使うのに十分な太さなので、無理に削る必要はない。
アイテムインベントリから、生産用のアイテムやアイアンアントの牙を出して並べる。相当な数だ。アイテムの量から見て、四人で倒したアイアンアントの合計は100程度、放棄してきた分を考えても最大で120ぐらいだろう。凄まじい数を倒したものだ。うまく急所を狙える戦い方をしていたから良かったものの、普通に戦うプレイヤーだったらそれほど倒せなかっただろう。俺たちは魔法が使えないのでわからないが、魔法に対する耐性が低いなどの特徴があるかもしれない。というか、そうでなければ辛いのではないだろうか。
まずはアイアンアントの牙を削る。硬度は黒曜石よりもありそうだ。また、表面が黒曜石と違ってなめらかになっているのでピックで大まかに整形してからヤスリで細かく調整することはできない。
削り始めてすぐに一度削るのをやめる。大まかに削ってから考えようかと思っていたが、削る量を最大限に減らさないと話にならないことがわかった。
アイアンアントの牙は僅かに弧を描くような形になっている。まずは膨らんでいる側を削って、凹んでいる側と同じぐらいまで削っていく。先端に向かって内側に弧を描きながら細くする。つぎに、矢軸に固定する部分を削っていく。ここは矢軸に合わせて削ろうとすると相当削らないといけなかったので、矢軸の方を多少削ってはまりやすくした。一本作るのにかかったのは鏃を削るだけで15分。できたのがこれだ。
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鉄蟻の矢 Atk+8 素早さ低下(小)耐久力低下(中)
アイアンアントの牙を鏃に持つ矢。牙に含まれる酸によって命中した際に対象の素早さを少し減少させ、鎧や甲殻を劣化させる
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「…………」
なかなかにやばい性能の矢が出来上がった。
まずは攻撃力。一昨日作った貧弱な黒曜石の矢の攻撃力が4、昨日作った強力になったものが5である。矢が大きくなると攻撃力が上がるようだが、それはさておき。この矢は攻撃力が8である。攻撃力だけで飛び抜けた性能をしている。それに加えて、対象の素早さを少しだが減少させる。これは確実に発動する効果ではないと思うが、それでも相手の動きが遅くなることで、こちらは確実に有利になる。さらに耐久力の低下だ。これはプレイヤーの鎧などの防具に加えて、アイアンアントの甲殻やダンロンベアの頑丈な皮の耐久力をさげ、攻撃が通りやすくなるはずだ。いや、説明を見る限りアイアンアントには効かないか。『防御力低下』でないあたり、直接的に防御力を下げるのではなく、耐久力を下げるだけなので効果は限定的だろうが、これも強力だ。
「生産に時間はかかるが、ある程度作っておくべきか」
幸い、今日は昨日とは違って弓の製作を行わないので、時間は十分にある。黒曜石の矢と鉄蟻の矢を作ることにした。ウルフの牙は三人からもらった分まで使い切ってしまっているので、もう狼牙の矢は作れない。
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その後は、昨日と同じく夕食に呼ばれるまで矢の生産を続けた。
夕食はダンロンベアとダオックスの肉を焼いたものにパン。ライアはタレなどを作る手段を持っていなかったらしいが、里にあったタレを借りたそうだ。ウルフの肉に比べて非常に美味だった。ウルフの肉でこりたのか、しっかり下ごしらえをしてから焼いたらしい。ありがたいことだ。
夕食が終わると昨日と同様にカッセルから木材の特性や、それに合わせた加工の仕方を習う。木材の曲げ方というのが非常に助かった。あちらの世界では木工などしない身であったし、この世界でもまだ詳しくないので、今後複合弓を作るときなどに役立つだろう。
眠る前に、完全に忘れていたステータスの確認をする。
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv19
《スキル》残りSP9
[装備中]弓Lv26 鷹の目Lv18 発見Lv18 気配Lv9 魔力Lv11
登りLv11 木工Lv10 細工Lv13 回避Lv10 跳躍Lv12
[控え]剣Lv3
アビリティ:木を見る目・初級
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凄まじいレベルの上がり方だ。本来なら、あれほど連続で数を倒すことを想定されていないモンスターなのかもしれない。
軒並みレベルが10を超えており、ひたすら射続けた“弓”のスキルレベルは20を超えた。そういえば、あらたにアーツとして《弓体・連射の構え》《扇射ち》を獲得していた。戦闘で全く活用していなかったので完全に忘れていた。
“弓”以外のレベルの上がり方を見ると、相手から得た経験値が相当に多かったために、攻撃に使用しないスキルのレベルも補正を受けて上がっているようだ。“気配”に関しては、むしろダイアウルフの縄張りでその気配に耐えていたのがレベルアップに繋がっているかもしれない。
SPも溜まっているので、いくつか取得したいと思っていたスキルを取得しようとアルトの窓を操作する。取得したいスキルは決まっているが、他に良いものがないかの確認も含めてスキルリストを見る。武器スキルは特に興味がないので、カテゴリ選択から外しておく。補助系スキルと生産系スキルに絞ってリストを漁る。特にめぼしいものは増えてないようだ。今は取得しようと思っていたスキルを取得しておく。
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv19
《スキル》残りSP7
[装備中]弓Lv26 鷹の目Lv18 発見Lv18 気配Lv9 魔力Lv11
登りLv11 早業Lv1 踏ん張りLv1 ステップLv10 跳躍Lv12
[控え]剣Lv3 木工Lv10 細工Lv13
アビリティ:木を見る目・初級
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“早業”スキルは、矢の持ち替えを高速にするために使用する。手元の動きがかなり早くなるスキルだ。他には、暗器を持つプレイヤーがそれをすぐに抜くために使ったりする。また、レベルが上って習得できるスキルの中に《クイックチェンジ》という、アイテムインベントリに入っているアイテムと手に持っているアイテムを交換するものがある。これさえあれば、戦闘中に矢を補充するのも楽だ。
“踏ん張り”スキルは、両足を踏ん張るときに身体能力を向上させるスキルだ。普通は、両手武器を使うプレイヤーなどが一撃の威力を上げるために使ったり、タンクが完全に足を止めてモンスターの攻撃を受け止めるために使用するものだが、その性質上弓使いにも恩恵がある。逆に高速で移動するプレイヤーにはあまり恩恵のないスキルだ。俺は普通に踏ん張って立つとき以外にも、木から木へ飛び移る際や木に飛び乗って弓を構えるときにも効果がないかと期待している。ただ、これを使うぐらいなら防御を強化したりするプレイヤーばかりであまり人気のないスキルでもある。
正直な話、俺のスキルは割と現段階の構成的には完成している、と思う。というか、戦闘中に周囲の索敵を行うことも考えて、下手にスキルを削れないのだ。戦場によっては“跳躍”スキルが使い物にならなかったりするかもしれないが、森で戦う場合においては今のスキルでほとんど完成しているのだ。弓の威力を上げるためのスキルも存在するが、今のところは保留にしておこう。ボスモンスター相手なら装備したいが、そのうち取得すればいい。どうせレベル上げはできないので、おいておく。
あとは今は取得しなかったが、“布装備”スキル、もしくは“革鎧”スキルを取得するつもりだ。『○鎧』系のスキルは、それぞれのスキルに対応する防具を装備しているときに効果を発揮する、いわゆるマスタリーと呼ばれるスキルだ。効果としては、革鎧や布鎧、つまり布装備であれば身のこなしに補正がかかったりする。重鎧、中鎧、軽鎧などの主に金属鎧に効果を発揮するスキルにおいては、その装備の体感重量軽減などだ。全身鎧を着ても軽く動けるのはそのためだ。特別なアーツなどは存在しない。
スキルの取得も終わったので、寝ることにした。明日はダイアウルフに挑む。気配からして楽しめそうだ。ただ、街からの移動も考えて負けることはできない。特殊能力があるかどうかの見極めも大事になってくる。
いや、いま気にしても仕方がない。今は寝よう。
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