27.薬師の里-7

集落に戻った俺達はそれぞれの生産活動を行うことにして解散した。


今日は大量の矢を消費した。硬い蟻の甲殻で破損したものも多かったが、木の上から射ていたために回収できないままおいてきてしまったものも多い。今日新たに入手したのは蟻の素材だけだが、なにか新しく鏃に使えるものもあるかもしれない。


“鍛冶”スキルだけでなく“細工”スキルでも金属インゴットを生産したり金属物を作ることはできるので、俺が自前の炉を持っていれば今日もいくつも回収できた鉄鉱石を使って鉄インゴットを作り、鉄の鏃を作ることができただろうが、街に戻るまではお預けだ。


「っと、そうだ」


まずはレベルの確認をしておこう。そう思いアルトの窓を開く。そのタイミングでポーンと通知音のようなものがなる。いや、まさしく通知音のようだ。


「メッセージ?追加されたのか?」


アルトの窓のメニューの中に《メッセージ》という項目があった。もともとは音声通話しか連絡の手段がなかったから、新たに追加されたものだろう。


メッセージの欄が点滅しているので、早速選択して開く。届いていたメッセージは3つ。


・プライベートエリアの開放について

・メッセージ機能および掲示板機能の追加について

・冒険者ギルドの稼働開始について


まずは『プライベートエリアの開放について』。内容を要約すると、

・プレイヤー個人個人が自由に使える空間を用意した

・広さは8畳一間

・所収者が招くことで他のプレイヤーも侵入可能

・はじめから置かれているのは、大容量のアイテムボックスのみ

・街にできた神殿から入ることができる


というものだった。また、実装理由として、『戦闘に出ることができないまま、もしくは十分な稼ぎが出せないまま所持金の尽きたプレイヤーが居住に困らないように、また生産職の人間が安心して生産を行えるように』といった趣旨の内容が書かれていた。寝具などは一切おいていないが、寝る場所だけは用意してくれるということだろう。ゴールドがあるなら宿に泊まってくれてもいい、ということか。


あとは、俺達とは違ってマジック・バッグを購入できていないものや、購入できていてもそれすらいっぱいのも人がアイテムをおいておく場所を作るためだろうか。


実際俺たちは、今日蟻から取得したアイテムが重量は小さいものの異常な数があるためにアイテムポーチが一杯になってしまいアイテムを精査して破棄してきた。破棄されたアイテムは一時間がすぎると消滅してしまう。かといって、アイテムインベントリやバッグからだしたまま持ち歩くのは邪魔だ。残念だが捨ててきた。それを定期的に街に戻る必要があるとはいえ、おいておく場所を作ってくれたのだろう。



次に『メッセージ機能及び掲示板機能の追加について』。

これは要約すると、


・ログウトが不可能になったため、内部での情報交換をより有意義かつ効率的にするために文章による連絡を可能にするとともに、不特定多数による(ただし匿名ではない)掲示板の利用による情報交換を可能にする

・利用法についてはオーソドックスなものになっているが、使用しながら確かめてほしい


といった内容だ。おそらく某掲示板のように誰かが立てたスレッドに他の人が書き込んでいくシステムになっているだろう。



そして最後に『冒険者ギルドの稼働開始について』だ。要約すると、

・ルクシアの冒険者ギルドが稼働

・ギルドでは一定のクエストを受注し、達成することで報酬を得ることができる

・一部のクエストは依頼者からのみ受注できるが、ギルドでのみ受注できるクエストもある

・クラン創設の手続きを行う場所

・ギルドに登録した冒険者のみがクエストを受注できる。その他の機能は登録しなくても利用できる

・ギルドだけの階級システムがあり、依頼の達成によって昇格していく

・事件が起きた場合にはギルドから招集がかかり、強制的に受注させられることがある

・強制依頼を達成できない、もしくは行わなかった場合にはペナルティが課せられる

・ルクシアだけではなく、他地方から依頼が届くこともある

・ギルド併設の酒場では、受付で登録することでパーティーの募集ができる


といった感じだ。ようするにファンタジーにありがちなギルドという感じだ。今のところは登録する利点は特に感じないが、登録するかどうかは強制依頼の頻度を見て、といったところか。そもそも街に戻らない俺達からしたらほとんど利用しない場所になるかもしれない。


早速掲示板を覗いてみたが、すでにいくつも攻略スレがたてられており、情報交換が行われているようだ。特に今の所必要な情報はないので見ないでおく。



「さて、弓の修復と矢の生産か」


アルトの窓を閉じて早速生産にうつる。まずは弓の修復からだ。


この世界では、武器は二種類に分けられる。《レシピ》を用いて作った量産品と、一から作ったカスタマイズ品だ。《レシピ》に登録できる形状は一種類の武器に尽き一つまでなので、特殊な形状ををした武器はすべてカスタマイズ品となる。そしてこのカスタマイズ品と量産品それぞれに主流となっている手入れの方法がある。量産品の方は手入れと言うより、大量に生産ができるので入手もたやすく、耐久度が下がったら交換する人が多い。


それに対してカスタマイズ品は、その武器にあったアイテムを用いて生産者が《修復》というスキルを使用することで耐久度を回復させる。耐久度が下がると、目に見えて劣化する上に攻撃力が下がり、そのまま使用し続ければ破損して更に大量の修復用アイテムが必要になるか、全損して消滅する可能性がある。俺の弓はカスタマイズ品である、というか俺が《レシピ》を使う気がほとんどないので、基本的に修理はかかせない。これはアイテムさえあれば時間はかからないので、アイテムインベントリから木材を出して修復してしまう。


このあたりも、自分で武器を作っている利点だ。本来であれば、カスタマイズ品の修復にはかなり費用がかかる。アイテムが必要になるのと、手数料などだ。それが浮くのは非常にありがたい。


弓の修復が終わったところで、矢の制作に入るとしよう。

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