19.薬師の里-5
家の奥へと消えていったカッセルは、木材と木工道具を持って戻ってきた。
「さてと。お主は何を作っとるんかいの。良かったら見せてくれんか」
特に隠すことでもないので、先程作ったばかりの弓と矢を一本をインベントリから取り出してカッセルへと手渡す。
「ふむ」
それを手にとったカッセルは、しばらくあちこちから眺めたあと、ひいてみたり力を加えて曲げてみたりしながら弓と矢を確かめている。
「まあまあの出来じゃな」
そう言いながらカッセルは俺に弓矢を返す。
「お前さん、その弓は木材の特徴を捉えながら作ったんか?」
「いや、木材の部分ごとの特徴はあまり良くわかっていない。ただ、他の木材よりも癖が強くなさそうな部分を選んで作って予想よりできが良かったからそれを完成品にした。なにかおかしな部分があるか?」
「おかしな部分があるというわけではない。むしろ弓としての出来はかなりいい。じゃが、それが意図したものなのか偶然の産物なのかというのは今後も弓を作っていくということを考えれば重要な問題じゃ。矢の方は結局真っ直ぐ飛ぶものであれば、極度に重心に偏りがあったり脆すぎたり硬すぎたりしないかぎり大丈夫じゃが、弓の方は木材の性質の影響をもろに受けるからの。今日はそれを教えてやるわい」
こっちへ来い、とカッセルが手招きをするので近寄る。カッセルは、持ってきた数本の木材の中から二本を選んで俺によく見るように言う。
「この二本のちがいがわかるか?」
「わからない」
「即答せんでよく考えてみんか」
大きな木目がないような木では違いがわからないのだ。俺の目でも見分けられるような違いがあるだろうか。
「こちらのほうが僅かに木の模様の隙間が多い。少し隙間が大きいほうが脆いのか?」
「そうじゃな。おおよそあたりじゃ。まずこっちを見てみい」……
******
気がつくと、アルトの窓の時計は午前1:00を過ぎている。
「そろそろ今日はおしまいじゃ。自分で木を見るときも今日教えたことを気にしながら木材に触れるんじゃ。基本的な見分け方は教えたからの」
『アビリティ《木を見る目・初級》を取得しました』
『ヘルプメニューに『称号』の項目が追加されました』
『取得した称号は自動で有効化されます』
何やら獲得したようだ。後で眠る前に確認しておこう。
「ありがとう」
「なに、わしもこの技術を伝えることができる相手がおってうれしいわい。この村にはもう森とともに生きようというやつがおらんからの」
「森とともに生きる、か。俺には最も必要なことだな」
俺がそう答えると、カッセルは優しく微笑んで返事をする。
「お世辞でも嬉しいわい。さ、今日はもうねるぞい。お前さんは底の毛布を使ってここで寝てくれ」
お世辞ではないんだがな。弓という武器をつかい、気配を殺しながら戦う以上、俺が生きるのは洞窟でも平原でもなく森林だ。もちろん攻略のためにはそれらの土地にでも赴くが、真価が発揮できるのは森林だ。
指示された布団をひいてもぐりこむ。宿の毛布よりは質が良くないようだ。布団もそのうち生産プレイヤーが作らなければいけなくなるのだろうか。
寝る前に先程届いた称号に関する説明を読む。
要約するとこんなかんじだ。
・アビリティは、大地人やその他の存在から学ぶことで稀に獲得することができる
・特定のアビリティが揃うと、称号を獲得することができる
・アビリティはそれぞれに特殊な効果を持つ
・一度に装備できるアビリティは3つまでである
スキルとは別枠のプレイヤーの能力を高めるもののようだ。ただ、名前からしてバゼルの言っていた『鋼の』というのはアビリティでなくむしろ称号の方に当てはまりそうだ。称号が二つ名の様になることもあるのだろう。取得したアビリティの説明を確認する。
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能力:木を見る目・初級
コモン
木材の癖を見抜きやすくなる
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俺の取得したアビリティは文字通り木材の癖を見抜きやすくなる程度のもののようだ。コモン、という表記があることから、アビリティの中にもレア度が存在し、珍しい能力ほど所持者が少なくなるのだろう。おそらく、生産系の能力だけでなく『〇〇特攻』といった感じで、特定のモンスターにだけ攻撃力の上がる能力もあるはずだ。
今日は新たに矢を40本ほどしか作ることが出来ていないので、明日の朝に起きて残りを完成させることにして目を閉じる。この世界での冒険が楽しくてたまらない。明日は何があるのだだろうか。
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv8
《スキル》残りSP
[装備中]弓Lv14 鷹の目Lv12 発見Lv10 気配Lv3 剣Lv1
登りLv5 木工Lv9 魔力Lv6 ステップLv6 跳躍Lv6
[控え]細工Lv7
アビリティ:木を見る目・初級
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