14.北の森-2

はじめに戦闘を行った場所からさらに北進する。


しばらくは相変わらずウルフやマンキーがメインのモンスターだったが、途中からソアウィーゼルと言う風魔法を扱うモンスターが出てきた。風魔法といっても使うのはかまいたちのような斬撃だけだが。そのかわり、小さめの体でかなりのスピードで動き回る上に、5体以上の集団で現れることが多かった。


俺は距離をとっているのでかまいたちに下手に巻き込まれることはなかったが、ライアとシンは無理に敵を落としに言ったときに避けきれず被弾していた。威力は防具をまとっていないシンのHPを3割近く持っていったので、かなりの威力があるようだ。こちらは誰もやられずに倒すことができたが、マンキーやウルフと違って油断できない相手だ。


「どうする?このあたりでもう少しレベル上げをするか、もっと進んでみるか」


今回のリーダーをしているレンがみんなに尋ねる。


「俺あ、ここでいいぜ。イタチどももまだ完全には対応できねえし、レベル上げにはちょうど良い」


「俺はここから先に進んで無理そうだったら戻ってくればいいと思う。流石に一回の戦闘で全滅はしないだろ?」


「なるほどね。ムウは?」


「…西か東に行ってみれば良い。街からは遠くなるから多少は強力なモンスターも出てくるだろうが、北進するよりはマシだろう。何かあるならまっすぐ北だから番人の意味も合って北の方が強いだろう」


これならシンとライア両方の意見を取り入れたアイデアになっている。特に探索範囲を広げるという意味では、まっすぐ北にならいつか必ずいくだろうから、東か西、街から見れば北西または北東の方角に探索をするのが良いだろう。北の森の先以外に、何かしらのイベントや施設があるとするならそこだ。


「…それは良いかもしれない。安直に北ならいつかいくだろうし、行く可能性の低い方向に行っておけば見落としもなくなる」


レンが先導してあるき出す。

方角は東を選択したようだ。3人もそれについていく。だが、このあたりになると森の浅いところよりは確実に良いアイテムが出るようになっているので、レン含めてみんな結構周りを見渡している。俺は“発見”スキルを持っているため、アイテムがある位置は他の場所よりも明るく見えるので、アイテム収集のスピードも桁違いだ。


黙々とアイテムを回収し、途中からはアイテムの分布も地図に書き込みながら森を進む。


ソアウィーゼルや、新しいモンスターであるダンロンベアという熊、ダオックスという鹿に何度も遭遇したが、被害を受けながらも倒して進む。特にダンロンベアは、耐久が高く、こちらの攻撃を無視して突っ込んでくることが多かったので苦労した。


明確な盾役のいない今のパーティーでは、普通のパーティーのように安定して戦うのは難しいのだ。3人がそれぞれ違う方向から攻撃することで気をそらし、HPを削り切って勝つことができた。回復ポーションも残り5本を割っているので、昼を過ぎたあたりが時間的にも余力的にも引き返すのにちょうど良さそうだ。


「おいレン、そろそろ一回休憩はさもうぜ。俺疲れちまったよ」


「そうだね。時間もいいし、一回昼食を取りながらここからどうするか話そう」


近くのセーフティエリアに入って休憩する。俺が木材を集めてくると、ライアが手早く焚き火を組んで料理を始める、料理はウルフや闘鶏、ロットバードの肉を焼いたものと、近くにあった小川で汲んできた水を使って作ったスープだ。簡単に塩味と肉が少し入っているだけだったが、美味しかった。焼いた肉は、闘鶏とロットバードがまあ普通、ぐらいで、ウルフの肉は正直固くて臭くてあまり食えなかった。


「こりゃあちゃんとやって臭み消さねえと料理になんねえな」


とはライアの言葉である。ただ、ウルフの肉だけ料理に特別な効果が発生していた。


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ウルフの焼き肉  攻撃力+2% 満腹度+25


ウルフの焼き肉。下ごしらえされておらず、

かなり臭い。ライアが作った。

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料理系アイテムの常で、『〇〇の作った』が入っている。攻撃力+2%は正直微々たるものだ。効果がどれほど続くのかも怪しい。ステータスが向上しているのは、アルトの窓で自分について確認すればいいが、それほど良い効果ではない。もう少し丁寧にすれば効果が上がるのではないだろうか。


「ちょっとウルフの料理は考えるわ。こんままじゃあ食えねえ」


食事を終えたライアは改めてそう言っていた。それほどにまずい料理であった。


「一旦作戦会議をしよう」


そう言ってレンが地図を広げ、みんながその周りに集まる。地図は40センチ、横50センチぐらいのなかなか大きな紙に書かれている。


「ここが街だ。そして俺たちがいるのはここ。常識的に考えればもう戻り始めたほうが良いだろう。時間的にも、ポーションの消費的にもだ」


HPはしばらく戦闘を行っていなければほんの少しずつは自然と回復するものではあるが、戦闘中や連戦があり得る状況では使わないわけには行かない。それを消費しているのであれば、戻るのが基本だ。


「ただ、今日はまだ何も発見できていない。だからまだ少し探索を続けるという選択を取ることはできる。帰りはモンスターを避けて帰ればいいしな」


俺たちのパーティーには足が遅いものがいるからこその方法だ。ただ、下手をすればトレインという悪質な行為を引き起こすハメになる。


「戻るにせよ進むにせよ、ここが決断のしどきだ」


そう言いながらレンが地図をたたむのに合わせて地図を覗き込んでいた体勢を戻す。個人的には進むのもありだとは思っている。だが、この世界から出ることができなくなってから、死にどのようなペナルティーが与えられるのかわからないのだ。死ぬことはないだろうが、重たいペナルティーがありそうだ。結論をだせないままライアが焚き火の片付けや、鍋を片付け始める。

それを見ながら考えていた俺の視界の隅に、何かが入り込んだ。慌ててそちらを見直し、目を凝らす。それでは足りずそちらの方向にある木に駆け上った。


「おい、ムウ!」


「どうした?」


みんなが俺の急な行動に驚いて声をかけてくるが、俺はそれを聞き流してつい今目に入ったものへ目を凝らしていた。煙が立っている。それもいくつも。


「出発の準備をしろ!煙が立ってる!何かある!」


「なに!?」


驚いてこちらを3人が見上げる。俺は木から飛び降りてレンのもとへ行く。


「レン、地図を出してくれ」


「ああ」


近くではライアとシンが片付けを急いでいる。煙のもとを目指すならば帰還のことも考えて急がなければならない。


「煙はあっちの方角700メートルの辺りからたっている」


「わかった」


俺の報告を聞いたレンがそのおおよその場所を地図に書き込む。方角はここからさらに東に行った先にあるようだ。


「片付いたぜ」


ちょうど良い所でライアとシンが、片付けを終えて声をかけてきた。


「よし、出発だ!アイテム採取は最低限で行くぞ!」


どこに、とは誰も言わない。目の前に何かが待ち受けているのだ。行かないという選択肢はない。それが俺たちの基本原理。より、楽しそうな、ワクワクする方へ行く。


「隊列はさっきまでといっしょだ」


レンが先頭をあるき出すので、俺も武器を背負いそれを追う。


ここまではずっとただひたすらに森だった。一度川も見かけたが、流れは街の方に向かっており、辿ろうにも西の方に源流が行っていたので放置していた。だが、ここでわずかに地形に変化が見える。森の中に大きな岩が見られ始めたのだ。中には身長を越えるような岩もある。それらがそこかしこに転がっている。


「地形が変わり始めたな」


「ああ。気をつけろ」


普通の森だった状態からさらに視界が塞がれている。この状態ではモンスターがいたとしても、すぐに気づくことはできない。視界よりも俺の“発見”スキルや聴覚が役に立つだろうが、ソアウィーゼルは時々気づくことができないのだ。


「わかってる」


モンスターの気配に俺が気づいた場合はそれをさけ、直前まで気づくことができずに幾度か戦闘を行いながら進む。森の中であり、足場が悪くなっているとは言え1キロもないので、20分ほどで目的地付近までたどり着いた。


「確認する」


三人にそこで待つように告げてから樹上に上がる。休憩した場所とは違い木々が密集して生えているので視界がふさがっているが、木々の間からわずかに見えた先には、今まで見かけたのとは比べ物にならない巨大な岩が円を描くように並んでいる姿だった。煙はその中から生じている。


「岩に囲まれた中に何らかの建物がありそうだ」


岩が見えた方角へ3人を案内する。ほんの30メートルほどだ。そこにつくと、周囲の木を押しのけるように巨大な岩がそびえ立っていた。木の高さは10メートルぐらいだが、あきらかに岩はそれよりも高い。こちら側、つまり円の外側を向いている面はかなり傾斜が急であり、取り付くのは難しそうだ。


「一旦回ってみようぜ。なにか見つかるかもしれない」


シンの提案で、俺とライア、シンとレンの二組に別れ、それぞれ反対側から岩の集合体をぐるりと回る。どの方角から見ても同じような岩の壁が見えるだけだ。どうやら、岩の壁の近くは一部に気が生えていないところがあるようだ。そのあたりになにかあるか足元を探ってみたものの、特に岩を動かす装置らしきものも見受けられずそのまま岩の周りを回る。およそ4分の3ほどいった所でレンとシンが立ち止まって上を見上げていた。


「どうした?」


同じように上を見上げながら尋ねる。岩の壁には特におかしいところは、、、いや、一箇所だけ不自然に壁が低い。ここが木の生えていない場所であることを考えると、先程の場所でも上はこうなっていたのだろうか。


「少し跳んで見る」


そう三人に言う。


「わかった。危険そうならすぐに降りてこいよ」


「了解」


その場からまっすぐ跳び上がっても届かない。だから、後ろにある木を利用する。木が全く生えておらず、枝も伸びていない空間はおよそ半径2メートル。最も近くまで枝の伸びている木に登り、踏み切ることが可能そうな枝の先端まで進む。木に登ったことで視線が高くなり、不自然になっているところの様子がよりはっきり見える。人為的に削られた一種の門だ。木製の落とし戸がある。人が、いる。

俺は足場を確認すると、スキルを発動させた。


(《ジャンプ》)


3メートルほどの跳躍を可能にするアーツだ。ぎりぎり届かなかったものの、木製の門の土台を掴むことができた。岩に体が打ち付けられそうになるのを、腕を曲げて挟むことで衝撃を転がして避ける。骨折のバッドステータスを受けることはなくて助かった。


「フッ!」

片手でぶら下がった状態から、もう片方の手も岩にかけ、体を持ち上げる。足を駆けて門の前に体を運んだ。門が開く様子はない。俺が騒がしくしていないから中の存在に気づかれていないのだろう。こんな始まりの街に近い所に危険な存在がいるとは思えないが、こんなところに人が住んでいるというのもおかしな話だ。


俺は意を決して門を叩いた。

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