13.北の森-1

北の門に向かって街を歩く。


「…だからさ、双刀使ってる俺からすれば防御だけの時間なんていらないんだって。絶対に片方の武器で攻撃できるんだから」


「俺も武器を二つ持つ派だがそこは違うな。俺の場合は自分で無理に踏み込んでも片方は届かない場合が多いんだよ」


「盾を武器にするのがそもそもおかしいんだって。普通の盾使ってるやつは使うにしても牽制とかノックバックねらいとかだろ?お前すっげーインファイトしてくるもん。あれすっげーめんどくさいんだぜ?武器使うやつからしたらよ」


シンとライアが戦闘について語り合っている。それぞれの戦い方について利点と欠点、やりやすいところとやりにくいところを言い合っている。


「なあレン、こいつのインファイトほんとにやりづらいよな」


シンが振り返ってレンに問いかけてきた。シンは話に夢中になると周りが見えなくなるタイプだから俺とレンが話していたことにすら気づいてないだろう。逆にレンは俺と話していながらも前でどんな話が行われていたかをちゃんと把握している。双子でも、随分と違うものだ。


「そうだな。ライアの戦い方だと俺たちの間合いの更に内側に入ってこられることが多いから、そこはほんとにめんどくさいよ。だからこそこっちから攻め続けて入らせないようにしないといけないけど、ライアはかいくぐって入ってくるからね。近接職殺しじゃないかな本当に」


「そんなもんかねえ。押しどころ見つけてつっこんでるだけなんだぜ?めんどくさいってんなら俺よりレンだろ。あとトビア。二人とやるのは楽しいけど疲れんだよな」


「そんなにめんどくさいか、レンの戦い方は。刀であることを除けば普通の剣士だろ」


俺は近接武器をメインで扱うわけではないが、ソロで相手することを考えて仲間の戦闘はよく見るようにしている。コイツラからは学べることが相当多いのだ。


「お前はわかってないね。間合いに入った瞬間に飛んでくる居合と、それを抜けたと思ったらいなされるこっちの剣。少し体勢を崩したら怒涛の勢いで迫ってくる刃。恐怖だわ」


ライアのその批評を聞いてフフッとレンが笑う。


「ライアにしては芝居みたいだね」


「うっせ」


「レンなんかそんなにやりにくくないけどな」


「シンはいなしても関係なく攻撃してるからね。崩れたらそこから次の攻撃にいくだろ。二刀と正面切って殴り合っても分が悪いから俺は苦手だ」


「やっぱ武器によって相性あるよなあ。全部押しきれたら楽なんだが」


見も蓋もないことをライアが言う。ライアからすれば、インファイトに持ち込んで全部押し切って勝てたら楽に決まっているだろう。だが、面白くもないだろう。


「だがつまらないだろ。ライアはレンみたいなのがいなければ」


俺がそう言うとライアはニヤリと笑う。


「まーな。超えれない猛攻超えて入り込んで俺の距離で暴れられたら最高だ。なんだかんだシンの連撃もやってて楽しいしな」


みんなで会話しながら門を越える。


門を越えたらそこから先はモンスターの生息するフィールド。であると同時にプレイヤーもまた他のプレイヤーを攻撃することが可能になる領域だ。味方の魔法使いの攻撃が壁タンクを敵ごと巻き込んで吹き飛ばすこともある仕様上、パーティー外のプレイヤーによる攻撃もダメージがある。


つまり、俗に言うPKも可能であるといわけだ。 

サービスの謳い文句や説明ではPKを推奨するようなことは書かれていなかったが、それを目的として生きていく人間もいるのだろう。


俺たちとて、卑怯な手で襲って人を殺したいとは思わないが、正々堂々と戦うことならむしろしたいとは思っている。PvPにはPvPの楽しさがあるのだ。βテストの頃で言えば、強力な大型のモンスターはトレントという木が魔物になったのと、大型イノシシぐらいしかいなかった。正式サービスの今であれば、より強力なモンスターはまだまだいるだろう。どちらにしろ楽しみだ。


「さてと、とりあえずはまっすぐ北に進もう。俺が先頭をいく。ライアとシンは後ろを、ムウは中列で索敵を頼む。採取は構わないが、集中しすぎるなよ」


「了解だ」


今の俺は視力も聴力も強化されているし、“発見”スキルによって、奇襲を受けたときでも事前に『来る』方角がわかるようになり、それに集中すれば『何が』『来る』のかを認識できる。つくづく俺に相性の良いスキルだ。普通は何かが来る方角が大まかにわかる程度だが、俺はそちらに神経を傾けて索敵することで、視覚と聴覚によって、更に細かい情報を得ることができるのだ。


ただ、レベルの高いモンスターはその分レベルの低い“発見”スキルに引っかかりにくくなっており、更に中には“発見”スキルに対して特に強力な抵抗力を持つモンスターもいる。スキルがあるからと言って油断は禁物だ。今は、前から来ればレンが対応してくれるし、後ろから奇襲を食らっても二人が止めてくれる。だが、仲間を危険な目に合わせなくてこそハンターだ。


「正面、ウルフ2マンキー3。周辺警戒マンキー2、よって来る可能性あり」


「ここにもウルフいたのかよ。草原にもいたぜ?」


「南のガレ場にもいた。弱いモンスターしかいなけりゃこいつらもやられにくいんだろ」


「いくよ」


茂みの向こう側に見えたウルフと、その近くの木の上にいるマンキーに向かって3人が駆けていく。


彼我の距離は30メートル程度。まだ俺の射程の外だ。


レベルアップによって22メートルまでなら射程に収めることができるようになったが、射程外だ。“ステップ”スキルを持っているため、普通よりも長い距離ステップで動くことのできる俺は、少しの距離なら走るよりもステップで回避したほうが速い。“ステップ”スキルは文字通り足さばきを補助するのだが、その足さばきをを戦闘で活かせば攻撃にも生きる。特に、通常のステップの距離が伸びるのもいいが、アーツの《ステップ》を使うと2メートル以上の距離を一歩で動くことができる。これが位置取りに便利なのだ。


(《パワーショット》!)


“弓”スキルがレベル5になって覚えたばかりのスキルだ。文字通り、少し長いための代わりに、強力な矢を放つ。瞬間的なダメージソースとして優秀なアーツだ。


「ウルフは抑える!お前らはとっととマンキー潰しちまえ!」


「おう!」「わかった」


ライアがウルフの一方に盾で殴りを入れ、もう一方が飛び上がろうとしたのを剣を振って牽制している。


その間に樹上にいるマンキーがレンとシンが攻撃しようと樹上から襲いかかる。それをシンとレンが斬撃ではたき落とし、追撃する。


最初の斬撃よりも追撃の斬撃が速かったのは、おそらくアーツを使っているからだろう。二人ともアーツを言葉に出さずに発動することができるので戦闘中に叫ぶことがないため、アーツの発動はその行動を見ていなければわからない。


通常ならアーツは声に出してその名前を言うことで発動できるのだが、自らの体がそのアーツの発動によってどう動くか細かく想像できれば、声に出さなくても発動することができるのだ。戦闘という、もっとも脳が加速している状態で細かい想像をするのは困難であるし、声で発動してもたいして弊害がないため大体のプレイヤーはアーツ名を口に出している。


しかし、発声するのに時間がかかる以上考えてから発動までに僅かなラグがあるのは当然であるし、場合によっては発声ができずアーツを使えないという状況も考えられる。


シンとレンの方は危険はなさそうだと判断して、ライアの援護に回る。に上から飛びかかり、盾にしがみついているウルフに当てて、盾から落とす。


「サンキュ!」


ライアの声を聞きながら更に矢を放ち、一方のHPを減らす。


ライアにもそれが見えているので、即座に反応しそっちを攻撃してHPを削りきりもう一方に向きなおる。もう一方もHPは3割近く減っているので、ライア一人なら全く心配はない。俺は周囲の気配に気を配りながら、レンとシンの方に目を向ける。あっちはモンスター3体とは言え、最弱クラスのマンキーだ。負けることはないだろう。


「レン!」


「わかってる!」


シンが攻撃を仕掛ける間にレンが納刀する。そしてシンがひいた所でつられて突っ込んできた残り2体のマンキーに、レンの抜刀術が直撃した。マンキーのHPはそこで限界だったようだ。


だが、周囲にいたマンキーがやはり戦闘の気配に気づいたようで近寄ってきた。俺はそいつらが来る方向に位置取ると、集中して矢を放ち一気に沈めきる。軽いモンスターなら威力の低い弓でもすトッピングが可能であるし、俺からしたらマンキーはかもだ。先制攻撃が仕掛けれれば、ウルフも一体なら余裕だろう。2匹以上になると仕留めきれない上に、流石に激しく動く相手に外さない自信はまだない。


「この辺のは余裕だな。相手にならねえ」


「面白くねえよ。もっと奥に行こうぜ」


俺たちはレベルは低いものの技術はかなりのものを持っているので、初心者が練習する程度のモンスターは相手にならないのだ。


「ノンアクティブな敵は放置してできるだけ奥にいく」


「了解。ムウ距離まだわかってる?」


戦闘のために一旦しまっていた地図を取り出してレンが聞く。


「わかってるぞ。これ縮尺は?」


レンがここまで歩いてきた道を記しているので、それを尋ねる。


「5000分の1だよ」


「そうか。とりあえず今の位置がここだ。今歩いてきたところの左右30メートルも、おかしいものは全く見当たらなかった。そこも森でいいだろう」


「そんなに細かくわかってるのか。俺はこの森を網羅するつもりはないんだけどね。そこまでやるならやってしまおう」


「了解」


打ち合わせが終わったので、俺は今射った矢を回収する。かなりの本数用意できたとは言え、むやみに浪費できない。作りの甘い矢ならすぐに壊れるが、俺の矢は品質が高いので一射や二射では壊れない。


「ほらよ」


ある程度矢を拾った所で、残りの矢を3人が拾っていてくれたようで渡してくれる。


「ありがとう」


「時間がもったいないからな。さっさといくぞ」


ライアはちゃっかりアイテムも収集していたようだ。銅や鉄と言った鉱石も、小さなものであれば普通にそこらへんで拾えるので、鍛冶師も最初はピッケルでガツンガツンと言うよりは、他の生産スキルと同様に拾って回るのだ。


「じゃあ行こう」


レンがそう促して歩き出す。俺達はさらに探索をするために森を進んだ。

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