15.薬師の里-1
俺は意を決して門を叩く。
ドンドンドン
三度。反応がないので更に三度。それでも反応がないので、更にたたこうと拳を上げる。俺のジャンプと“登り”を持ってすれば門を越えることもできるだろうが、中に人間がいると考えれば失礼がないようにしなければいけない。
チャッ
かすかな音がしたので、あげた拳をおろして音の方を向く。そこには小さな覗き戸がつけられており、今それを開けるようにして一人の人間がこちらを見ている。
「何もんだ」
しわがれた声。老人のようだ。
「冒険者だ。旅の途中にここを見つけて立ち寄らせてもらった。敵意はない」
そう言うと、鼻を鳴らしたあと老人は覗き戸をおろす。直後に、門が開き始めた。左右に開くスペースがないため落し戸かと思っていたが、門は奥に向かって持ち上げられていく。持ち上げられた所で先程の老人が顔を出す。
「どうやら本当に冒険者のようじゃの。入れや」
そう言って俺に背を向ける老人に下に三人待っていることを告げる。
「すまない、下にあと三人仲間がいる。どうにかして引き上げられないか」
俺がそう言うと老人は門に取り付けられていた装置を操作する。すると、一本の棒が倒れた。先には滑車がついており、ロープが通っている。
「仲間を上げるのは構わんが、ここで暴れようと思っても無駄じゃぞ」
「暴れはしない」
ここが街と同様の判定になっているなら攻撃した所で傷つけることはできない。
滑車の根本にある巻取り機をまわしてロープを下ろす。ロープの先端には足を置けるような木製の枠がついている。
「一人ずつ掴まれ!」
下を覗きながら叫ぶと、それに応えるように手を振ってレンがフックに足をかけロープを掴む。姿勢が安定したのを確認して巻取り機を巻く。しばらくまわすと、レンが岩の上に姿を現した。フックから足を離して岩の上に飛び移ってくる。レンが降りたので次を引き上げるためにロープを下ろす。そうして三人とも引き上げ終わった。
「ここはなんだ?」
「わからない」
門を開けてくれた老人はすでに目の前にある集落の中へと消えた。
「勝手に行っていいと思うか?」
「あの老人の感じなら許してくれそうだが」
「お兄ちゃんたち、どこから来たのー?」
視線を下げると、まだ小さな少女がこちらを見上げている。
「外からだ。君は?」
「あたしラタナンテ!」
「…もう一回ゆっくりきかせてくれ」
「ラ・タ・ナ・ン・テ!」
「ラタナンテか。わかった。村長のところへ案内してくれないか?」
少女とのやり取りは俺に任せたようで、後ろの三人は黙っている。
「そんちょーさんはおじいちゃんだよ!」
「そうか?じゃあおじいちゃんのところへ連れて行ってくれるか?」
「わかった!」
ラタナンテが走っていくので、それに遅れないようについていく。集落にある家は十軒だ。一番奥の大きな家に向かってラタナンテは走っていった。俺たちもその後を追ってその家に入った。
「おじいちゃん、外から冒険者さんが来たよ!」
「入ってこい」
ラタナンテの呼ぶ声に対して、奥からそう声が聞こえる。俺たちを呼んでいるのだろう。家の奥は一段上がっていたので靴を脱いで入る。
「冒険者、か。なんのようだ」
皆を見ると、お前がやれというようにうなずいている。
「ここは、どういう場所だ?」
「…冒険者なら構うまい。ここは、魔女の隠れ里じゃ」
「魔女の隠れ里?」
「うむ。魔女といってもお前ら冒険者のように魔法を使うわけではない。いわゆる薬師だ」
この世界ではNPCは魔法を使うことはできないのだろうか。
「英雄騎士団には魔法を使える騎士がごろごろいるがな、儂ら普通の大地人からすれば、ちょっと特殊な薬を使うだけで魔女扱いだ。街には住めん」
大地人。プレイヤーを冒険者としたときにそれに対応する言葉だろうか。大地とともに生きている、ということか。
「ここは薬師の里だと聞いたが、調薬ができる人間がいるということか?」
「全員じゃよ」
「…この集落の全員が薬を作れる、ということか」
「そうじゃ。年を取れば外の世界の大きな街で働くものもいれば、そのままここに残るものもいる。ここでも商人たちのおかげで作った薬を売って必要なものを買えるしの。しばらく来とらんが」
それだ。
「村長。俺たちは街で、商人たちのが街へと至るのを妨害しているモンスターの討伐を依頼された。なにか手がかりはないか」
少々急ではあるが、俺たちの目的を告げる。
「…ダイアウルフじゃな。やつの縄張りで商人達の死体が見つかった。しばらく前にこの地方に移り住んで来たようじゃ」
「それはどんなモンスターだ」
見つかった情報に俺は飛びつくように尋ねる。本来なら虱潰しに探そうかと思っていたのだ。だが、村長の答えは芳しくなかった。
「さあの。わしも名前を聞いたことがある程度じゃ。縄張りはおそらくここから北東に進んだところじゃ。動いてなければな。その周辺でやつの痕跡が見つかることが多い」
「…そうか。助かった。失礼する」
必要な情報を得ることはできたのでもうこの村にとどまる意味はない。すぐ街に戻らなければ。三人を促して家をでようとする。
「待て。冒険者よ」
後ろから村長が声をかけてきた。
「お前らの今の力ではダイアウルフには勝てまい。ここにとどまってレベルを上げろ」
今すぐダイアウルフに突っ込むと思われたのだろうか。
「村に泊めてもらえるのか?」
「構わん。わしらは来るものは拒まん。こんなところに住んどるからな。四軒の家に別れれば十分泊まれるだろう。それとそこの双剣の冒険者よ」
「レンだよ」
「そうだな。全員自己紹介してなかったが、俺がムウ、そっちがライアとシンだ」
「わしはロトルだ。レンはラタナンテに案内させるから、村一番の薬師のところへいけ。お前ならあやつの技を学べるはずだ」
レンが“調薬”スキルを持っているからだろう。先程力が足りないといったのも、レベルを見てのことなら納得だ。
「わかった。薬についてならぜひ学ばせてもらうよ」
「泊めてもらえることには感謝する。代わりと言ってはなんだが、何か森で収集してほしいものがあれば集めてくるが」
「肉じゃな。我らには非力なものも多い。肉を提供してくれるならありがたい」
村長の言葉を聞いて、ライアが答える。
「そんじゃあ、きょうは俺が料理をふるまうぜ。”料理”スキルも持ってるし心配しないでくれ。何人か手伝ってもらえるとありがてえが」
「ほう。冒険者の料理というのも興味深い。ぜひお願いしよう、後ほど三人手伝いに向かわせる」
「おうよ。あー、あと相談なんだが、ここで鍛冶してもいいか?うるさくなっちまうと思うが」
ライアは鍛冶をしたいと言っていた。今日街に戻れないとなると、ここでするしかないだろう。他には、今から森にでて、森のセーフティーエリアを使うかだが、かなり遠いだろう。
「構わん。ここにはモンスターは入ってこん」
そう言う事なら、とライアが村長と話している。俺はとくに用事はないので、しばらく生産を行うことにして村長の家から出た。
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