第49話 真白への罰ゲームで驚きの事実が判明しました

「それでは真白さん、私が勝ったので罰ゲームを受けてくださいね♪ もちろん2つですよ♪」


 ゲーム対決が終わり僕と巫子が服を着ると、巫子はニコニコしながら真白に確認する。


「分かってるわ。妨害により負けたのは不本意だけどルールだから、煮るなり焼くなり好きにしなさい」


 さすがは真白、肝が据わっているだけあって罰ゲームを受けることに全く動じることがなかった。


「それじゃあまずは文人さんが引いてください♪」

「え? 僕が? いいの?」


「はい。勝負に勝ったのは私ですが、文人さんの援護があったからこそなので、2つのうち1つは文人さんに譲ります♪」


「なるほど。そういうことなら」

 納得した僕は巫子の申し出を受け、抽選箱の中に手を入れる。


「さあ、お楽しみの時間だ」

 普段あれだけ好き放題されてるんだから、少しくらい過激なものが出て恥ずかしい目に遭わせてもバチは当たらないだろう。


 それにこの罰ゲームを考えたのは真白だし、悪く思わないでよ!


「いくぞ! これだ!」

 僕はワクワクしながら紙を取り出して開いた。


『ハ・ズ・レ♪』


「ぐはあああっ!? ハ、ハズレ!? そんなものまであるの!?」


「あらあら、残念だったわね♪」

 しかし僕はまさかのハズレを引いて思わず吹き出してしまい、真白はしてやったりとばかりに笑った。


「くっそお、せっかくのチャンスだったのに……」


「ま、まあまあ文人さん、文人さんの無念は私が晴らしますから……いきます! えいっ♪」

 巫子は自分の運の悪さにガッカリしている僕を慰めると、抽選箱の中に手を入れて紙を取り出す。


「……」

 すると巫子は喜ぶわけでもなく残念がるわけでもなく、無言で何故か困ったような顔をした。


「巫子? どうしたの? もしかして巫子もハズレを引いちゃった?」


「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

 不思議に思った僕は巫子の横から紙を覗き込む。


「あ……」

 そして理由が分かると僕の口から声が漏れた。


 その紙に書かれていたのは……『初恋の話をする』。


 お花見をした日の夜、巫子から真白が過去に母親の再婚相手の男から虐待を受けて男性不信になったことを聞いている。


 おそらく触れていい話題なのか迷ったのだろう。


「ああ、別にいいわよ。この罰ゲームは私が自分もやることを想定して決めたものだし、指令通りに話すわ」


「え? あ、はい。分かりました。じゃあお願いします」

 すると真白も紙を覗き込み、僕たちに気にしていない素振りを見せるとそのまま罰ゲームを行うことになった。


「あ、そうだ! 真白さんだけでなく文人さんも話してくださいね♪」

「ええっ!? ぼ、僕も!?」


「はい。誰がやるかは勝った人が決めるルールですし、せっかくの機会なので聞いてみたいなと思って♪」


「マ、マジかあ……」

 巫子が微笑む一方で、罰ゲームを回避できたと安心していた僕は困惑しながら考え込む。


 ただでさえ恋バナは難しいのに、さらに初恋となるとさらに難易度が上がるんだよなあ……。


 そして僕の交際人数は巫子と舞子の2人だけで、舞子との話をするのは巫子に対する配慮に欠けると思った。


 何か当たり障りのない、ちょうどいい話なかったかなあ?


 ……あ、そうだ。

 すると僕はあることを思い出した。


 確か小学校1年生の時に、同じクラスで気になる子がいたな。


 でもその子とは1、2回しか喋ったことなくて、夏休みの間に転校しちゃったから、覚えている名前が合っているかどうかさえ怪しい。


 まあ記憶が曖昧な部分は適当に想像で補って、踏み込んだことを聞かれたら「忘れちゃった」とのらりくらり逃げれば何とかなるだろう。


 よし、それでいくか。


「ではまず真白さんからどうぞ♪」


「うん。私の初恋は小学校1年生の時、当時から私は人とつるむことが嫌いで、いつも自分の席で本を読んだり寝たりして1人で過ごしてたの」


「あはは、真白さんらしいですね♪」

 僕の中で大体の方針がまとまったところで真白が話し始め、巫子が楽しそうに合いの手を入れた。


「そしたらクラスのリーダー格の女子が、何故だか分からないけど私のことが気に入らなかったみたいで、ある日の放課後私が1人で教室にいる時に、周りに人がいないことをいいことに嫌味を言ってきたの」


「ああ、そういう人どこにでもいますよね。本当に困ります」

 巫子にも経験があるのか、うんざりとした顔をする。


「その当時、男子たちの間でスカート捲りが度胸試しとして流行ってて、女子はスカートを捲られることが男子から可愛いと思われているステータスみたいな扱いになっていたの」


「ああ、好きな子にはつい意地悪しちゃう的なやつですね」


「そう。私はいつも1人だから当然捲られるわけがなく、その女子から『お高く止まってるつもりかもしれないけど、結局あんたは誰からも捲られないブスなんだからね!』って言われたの。私はくだらないと思いながらも少し傷ついた。今とは違いそこまでメンタルが強くなかったから」


「うわあ、酷いですね。というかその人と何の関係もないし、何でそんなことを言われなきゃいけないんだって感じですよね。まあでも小学1年生だし多少の理不尽は仕方ないのかな? それでそれで、肝心の初恋の人はいつ出てくるんですか?」


 真白の話が上手いのか巫子がどんどん感情移入していき、ワクワクしながら続きを促した。


「この後よ。気の済んだリーダー格の女子が教室から出ていくと、入れ替わりで忘れ物を取りにきたと思われる大人しそうな男子が入ってきたの。男子は自分の席から荷物を取るとゆっくり私に近づいてきて、『何だろう?』と思った次の瞬間にバッと私のスカートを捲ってきたの」


「ええっ!? 何で!? というか真白さん自分に痴漢してきた男子を好きになったんですか!?」


 いきなりの急展開に巫子は驚きの声を上げる。


 ……んん!? ……ちょっと待て!?


 そして僕は真白の話を聞いているうちにが頭をよぎった。


 僕は小学生の時に1度だけ、女子のスカートを捲ったことがある。


 その時の状況は今のところ、真白が話している内容と完全に一致している。


 さらに僕と真白は同い年。

 ま、まさか……。


 僕は「そんな奇跡みたいなことがあるわけない」と思いながらも、期待で心拍数が上がっていくのを感じた。


「突然のことに私が呆然と立ち尽くしていたら、その男子も取り返しのつかないことをしたように動揺して『ご、ごめん! あまりにもかわいかったからつい……許して!』って謝りながら逃げて行ったの。その日は1学期の修了式で、逃げてほとぼりが冷めれば大丈夫だと思ったんでしょうね」


「はあ……それで真白さんはどうしてその男子のことを好きになったんですか? というかその男子もそこまで後悔するならしなければ良かったのに」


 巫子が全く訳が分からないという様子で真白に尋ねる。


「これは私の推測だけど多分その男子は、さっきの出来事を見てたんだと思うの。そして俯く私を見て、自分がスカートを捲れば私の面目が保たれると思ったんでしょうね。普段はそんな悪戯をするような人じゃなかったし、きっと私のために勇気を振り絞ってやってくれたんだろうなって、後からその優しさにじんわりと心が温かくなったの」


「な、なるほど?」

 理由を聞いても、巫子は分かったような分かってないような微妙な反応をしていた。


「それに私は元々話しかけ辛いというか近寄り難い雰囲気を持ってたから、誰かにかわいいと言われたことも優しくされたこともなかったの。他の人にとっては些細なことだけど私にとってはとても嬉しくて、気がついたら好きになっちゃってたの♪」


「そうだったんですか……それで夏休みが明けた後どうなったんですか? その男子と進展はあったんですか?」


「実は夏休みの間に母親が再婚したことで引っ越しすることになって、ありがとうもサヨナラも言えずにお別れしちゃったの」


「ええっ!? そうなんですか!? それは残念ですね。恋が始まった瞬間に終わっちゃうなんて……」


「その男子と喋ったのもその時だけだし、相手は私のことを忘れちゃったかもねえ。今はどこで何をしてるのかしら……」


 思いもよらぬ結末に巫子は驚き、真白は遠い目をして部屋の窓の外を見る。


「ちなみに凄い偶然なんだけど、その男子の名前……文人くんって言うの♪」

「っ!?」


 そして真白が向き直りながら僕に意味深な視線を送り、さらに決定的な一言を放ったことで、僕の中の疑惑が確信に変わり僕はドキッとした。


「へえ? 確かにそれは凄い偶然ですね。文人さんの名前、よくある名前ってわけじゃないのに」


「……」

 巫子が首を傾げる隣で、僕は全てが繋がった衝撃で言葉を失っていた。


 真白、君はいつから気づいていたんだ?

 僕が真白の初恋の相手だったということを?


 前々からいろいろ不可解に思うことはあった。 


 僕と巫子が付き合った日の夜、真白は僕が小さい頃にスカート捲りをしたことがあることを知っているような口ぶりをしていた。


 花見の時には酔っていたとはいえ、僕の恋人2号になると言い出した。


 今思えば男性不信なのに、僕を入社させたのもおかしな話だ。


 でも真白が以前から僕のことを知っていて、さらに初恋の人だと分かっていたのなら、これらのことも全て筋が通る。


 ところが真白は巫子と僕を取り合うどころか、そのことを口に出すことなく自ら身を引いた。


 女性として巫子には敵わないと諦めていたからなのか、自分に男は必要ないという考えが変わることはないと思っていたからなのか、理由は真白にしか分からない。


 もしかすると普段の悪ふざけは、伝えることさえできずに終わった自分の初恋の未練を解消するための行動や、僕に対する遠回しの愛情表現だったのかもしれない。


 真白はいったい、どういう気持ちで僕と巫子の恋を応援しているのだろう?


 僕は何とも言えない複雑な気持ちになってしまった。


「これで私の話は終わりよ。満足した?」

「はい。ありがとうございました♪ さて、次は文人さんの番ですよ♪」


「……あ」

 呆然としていた僕は巫子の声で我に返る。


「ご、ごめん。つい真白の話に聞き入っちゃってたから、まだ話すこと決めてなくて……ちょっとだけ待って」


 ここで僕がさっき思い出した話をすると、僕と真白が両想いの初恋の人同士だということに巫子が気づいてしまい、気まずい空気になると思った僕は必死で他の話がないかと記憶を辿った。


「うーん……」

 しかしそう都合良く見つかるわけがなく、辺りに沈黙が流れる。


「あのお……文人さん?」


「あ、いやその、何というか……ほらあれだよ! どこからが恋なのかって人によって違うし、時期も小学校入学前はカウントするのかとか線引きが難しいじゃない?」


「つまり、いいなあと思った子やいい雰囲気になった子はそれなりにいたと? 文人さんって意外と気の多い人だったんですね」


「い、いやそんなことない! 言葉の綾だよ! 巫子お願い! やましいことは何もないから疑いの目で僕を見ないで!」


 不審に思う巫子に僕が苦し紛れに言い訳すると、逆に状況を悪化させてしまった。


「ふふっ♪」

 真白は僕が狼狽える様子を愉快そうに、そしてどこか満足そうに眺めていた。


 その後僕は咄嗟に考えた作り話をして何とか罰ゲームを乗り切った。


 後日の配信でカートレースゲーム実況が行われると「アマテラス司の正体はプロゲーマーか!?」と視聴者たちが騒然となり、SNSの急上昇ランキング上位に入る程の話題になったのだった。

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