第48話 巫子と真白がカートレースゲームで壮絶なバトルを繰り広げました

「わーい。また私の勝ちね♪」

「ぐぬぬ……」

 麻雀ゲームで勝利した真白が大喜びし、僕は悔しさで歯を食いしばる。


 あれから休憩を挟んで約3時間、僕と巫子は未だに1度も真白に勝てずにいた。


 真白はただ実力があるだけではなく、勝負所を見極める勘と流れを引き寄せる運の良さも持っていた。


 正直言って全く隙がなく、どうやったら勝てるのか想像もつかなかった。


「さーて今回の罰ゲームは……『服を1枚脱ぐ』♪」

「またあ!? それが出るのもう5回目なんだけど!?」


「真白さん! まさかとは思いますけどイカサマしてないですよね!?」

 明らかにおかしいと思った僕と巫子が抗議する。


 真白はまるで目印でも付けているんじゃないかと思うくらい、高確率で『服を1枚脱ぐ』を引いていて、ゲーム対決は事実上の野球拳と化していた。


「してないわよ。ちゃんとルール通りにやってるわ。という訳で文人、1枚脱ぎなさい♪」

「ええっ!? ぬ、脱げって言われても……」

 ニヤニヤする真白の指示に僕は困惑する。


 既に僕が着ている衣服はトランクス1枚だけ。

 それはつまり全裸になれということを意味していた。


「真白さん待ってください! 文人さんの代わりに私が脱ぎます!」

「巫子!?」

 すると巫子はそれを阻止しようと真白に代案を出す。


「私は文人さんの彼女です。彼女として、文人さん1人に恥をかかせるわけにはいきません!」


「あら? じゃあ脱いでもらおうかしら? できるならね♪」

 それを聞いた真白は笑いながら巫子を挑発した。


「私を甘く見ないでください。文人さんのためなら、このくらい朝飯前です!」


 バッ!


 既に覚悟を決めていたからか、真白がオッケーすると巫子は立ち上がり、躊躇うことなく自分が着ているワンピースに手をかけてその場で脱ぎ捨てる。


「おお……」

 すると眩しいばかりの白い肌と均整が取れた美しいラインを持つ体、そして清潔感のある白のかわいらしいブラジャーとパンツが顕になり、僕は毎日見ているにも関わらず釘付けになった。


「ひゅう♪ 相変わらず綺麗な体してるわね。同じ女性として嫉妬しちゃうわ♪」

 真白も茶化し気味に巫子を褒め囃す。


「さて、じゃあ次の勝負を……あら? もうこんな時間なのね」

 真白がふと時計を見ると、時刻は18時前になっていた。


「次で最後にしよっか。ずっと私が勝ってるし、文人に好きなものを選ばせてあげるわ。今まで対戦したものでも可。その代わり罰ゲームは2つよ♪」


「分かった」

 せめて1勝したい僕はゲーム機を操作し、メニュー画面からダウンロードされているゲームの一覧を見る。


 何か、何か真白に勝てそうなものはないのか?


「あ……」

 するとあるゲームを見つけて僕の手が止まった。


 そして「いいよね?」と尋ねるようにチラッと巫子に視線を送り、巫子は無言のまま力強く頷く。


「じゃあ真白、カートレースゲームで勝負だ!」

 この前デートでゲームセンターに行った時、巫子は伝説になる程の凄い走りを見せていた。


 それに加えて僕が援護したら、きっと真白にも勝てるはずだ!


「オッケー♪ ふふっ、最後も勝ってさらに『服を1枚脱ぐ』を2つ引いて、2人共素っ裸にしてあげるわ♪」

 自信があり負けるわけがないと思っているのか、真白が余裕の笑みを浮かべる。


「見てろよ。すぐにその鼻を明かしてやる!」

 僕は意気込みながらカートレースゲームを起動すると、CPUも参加するグランプリモードを選択して、それぞれキャラとコースを選んだ。


 3……2……1……


 そしてスタート画面に移りレース開始のカウントダウンが始まる。


 GO!


「レッツゴー♪」


 ギュゥン!


「うわっ!? 速い!」

 スタートすると真白が軽快にスタートダッシュを決めていきなり先頭に立つ。


「ふふっ、この調子でどんどん差をつけて独走態勢に――」

「させるかああああっ!」


 ガシャン!


「なっ!?」

 すると真白の後ろから巫子が妨害アイテムを投げ、ぶつけて真白がクラッシュした。


「よっしゃああああっ! ざまあみろっ!」

「あなた、本当に巫子なの!?」

 不意を突かれた攻撃と巫子の豹変振りに真白が唖然とする。


「……面白い。それなら私も本気でいかせてもらうわ♪」


 グゥン!


「あっ!?」


 しかし真白は落ち着きを取り戻すと楽しそうな顔をして、巧みなコーナーリングテクニックで最短距離を走り巫子との差を詰めると、追い抜いて前に出た。


「なら、もう一度!」

 巫子は再び真白に向かって妨害アイテムを投げて止めにかかる。


「甘い! 同じ手は食らわないわよ♪」


 カキンッ!


「くっ!」

 しかし当たる直前、真白は事前に手に入れていた無敵アイテムを使って巫子の攻撃を防いだ。


「お先っ!」

 真白は無敵アイテムが切れるまでの間にさらに巫子との差を広げていく。


「ふふっ、今度こそ妨害アイテムが届かないところまで――」

「逃がすかああああっ!」


 ブォン!


「っ!?」

 すると巫子はダッシュアイテムを使って加速すると、段差になっている場所からジャンプして飛び、コースの壁を越えるショートカットをして真白に追いついた。


「巫子、なかなかやるじゃない♪」

「真白さんこそ、素晴らしいテクニックです♪」

 巫子と真白はお互いの実力を認め合ったのか、笑みを浮かべながら称え合う。


「す、凄い。僕にはとてもついていけないよ……」

 2人の高いレベルでの攻防に圧倒された僕は、早くも優勝争いから脱落していた。


◆◆◆


「見事よ巫子。まさか私をここまで追い詰めるなんてね♪」


「真白さん。勝負はまだ終わってませんよ。勝手に勝った気にならないでもらえますか!」


 20分後、グランプリは最終レースの終盤に突入していた。


 巫子と真白が熾烈な1位争いを繰り広げながら、山のコースを螺旋状に登り頂上を目指していく。


 現時点での巫子と真白の成績は全くの互角。


 このレースでの勝者がグランプリの覇者となる状況だった。


「いよいよ決着か……」

 そして僕はというと、CPU達と3位争いをしながら勝負の行方を見守っている。


 正直言って僕、いてもいなくても同じだよなあ……。


 つるっ!


「あっ!? しまった!」

 すると2人の勝負を見るのに気を取られていたせいで、僕はバナナの皮を踏んでスリップしてしまい5位まで順位を落としてしまった。


「……きたっ! 真白さん、勝たせてもらいますよ!」

 その一方で巫子は最後のアイテムボックスで無敵アイテムを引き、使用して無敵状態になると真白に体当たりしてクラッシュさせようと近づく。


「甘いわね♪」


 ビュンッ!


「あっ!?」

 しかし真白はダッシュアイテムを引いていて加速し、巫子の体当たりを避けるとそのまま前に出てリードを奪った。


「残念だったわね巫子。私の勝ちよ♪」

「ぐっ!」

 山を登り終えて頂上に着いた真白は勝ち誇り、巫子は悔しそうに顔を歪める。


 ゴールは今2人が走っている直線の先にあるジャンプ台を飛んで谷を越え、着地したすぐ先にある。


 ここから追い抜くことは不可能な状態だった。


「くそっ! 何か、何か逆転する方法はないのか!」


 ピロン♪


「あ!」

 すると僕はアイテムボックスから強力なアイテムを手に入れた。


 それは下位のプレイヤーだけが入手でき、自分以外のプレイヤー全員に確実に当たる攻撃をするアイテムだった。


 このアイテムなら、この不利な状況を変えられるかもしれない。


「いっけええええっ!」


 ガラガラピシャーン!


 僕はすぐにアイテムを使い、コース全体に雷が落ちた。


「なっ!?」

「おおっ! 文人さん、ナイスです!」

 思わぬところからの攻撃に真白は面食らい、巫子は歓声を上げる。


 無敵状態の巫子には何の影響もなかったが、攻撃を受けた真白は大きくスピードを落とした。


「くっ! ダメ、越えられない!」

 それでも真白は強引に谷を越えようとしたが、向かい側に届かず下のコースへ落ちて行く。


「ゴール!! 文人さん、ありがとうございます! 勝ちました!」

 勝負あり。谷越えに成功した巫子が1着でゴールし、僕に向かって大きくガッツポーズした。

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