第47話 ゲーム対決に負けた罰ゲームで巫子にかわいく罵倒されました
「ねえ文人、ちょっといい? 相談したいことがあるんだけど」
「ん? 何?」
その日の夜、夕食を食べ終えた僕は巫子が洗い物を終えるのを待っていると、まだ帰っていなかった真白に話しかけられた。
「最近、配信の小説紹介以外の企画がマンネリ化してきたからか、アマテラス司のお気に入り登録数の伸びが鈍くなってて、その状況を変える新企画を一緒に考えてほしいの」
「いいよ。僕で良ければ。そうだなあ……」
真白より良いアイデアを思いつけるとは思えないけど、役に立ちたいと思った僕は考え込む。
「よくあるものだと……踊ってみたとか歌ってみたとかはどうかな?」
「悪くないけど、再生数を稼ぐにはそれなりの腕が必要だし、バズるようなミラクルが起こりにくいのよねえ。それに気持ちが入り過ぎて熱唱したら、騒音で周りの部屋から苦情がくるかもしれないし」
「いや真白、君ちょっと前にこの部屋で早朝にバズーカを撃ってたよね?」
自分のことを棚に上げて却下する真白に僕はツッコミを入れた。
「じゃあ巫子に何かしらのドッキリを仕掛けるのはどう?」
「ドッキリには仕掛け人が必要だから、VTuberの配信には向かないのよねえ」
「あーヤラセを疑われちゃうか。占い企画の復活は?」
「ダメじゃないけど、レギュラー化したらまた以前のようにトラブルが起こりかねないし、〇〇万人突破みたいな特別な時だけにしたいな」
「そっか、うーん……」
なかなか良い案が見つからず、僕は頭を悩ませる。
何か手軽にできて、高い能力がなくても撮れ高が取れそうなものはないかなあ。
「……そうだ!」
すると僕はあることを思いついた。
「ゲーム実況はどうかな?」
「あ、それいいわね。人気があるゲームなら幅広い層が見てくれるし、仮に下手でも下手なりの神展開が起こるかもしれないから。上手くいった時は次の企画が立てやすいし……いける! じゃあさっそく候補になりそうなゲームを探してくるわね♪」
「あっ!? 真白!?」
真白は採用を決めると善は急げとばかりに立ち上がり、走って僕の部屋を出て行った。
バタン!
「文人さん、真白さんと何を話してたんですか? 何だか凄く楽しそうに帰っていきましたけど……」
ドアが閉まると、洗い物を終えた巫子がやってきて僕に尋ねる。
「あ、うん。何と言うか、すぐに分かるよ」
「?」
また何か面白おかしい悪戯を企んでいるのだろうかと、嫌な予感がした僕が曖昧に答えると、巫子は不思議そうに首を傾げたのだった。
◆◆◆
「それでは今から、アマテラス司の配信新企画会議を行いまーす♪ 拍手!」
「……」
パチパチパチパチ……
2日後の金曜日の午後、意気揚々と開始を宣言する真白の隣で僕と巫子がポカンとしながら言われるまま手を叩く。
「あの、真白さん?」
「何? 巫子?」
「今から会議をするんですよね?」
「そうだけど?」
「何でゲーム機があるんですか?」
経緯を全く知らない巫子は頭に「?」を浮かべながら真白に尋ねる。
真白の部屋のテレビの前には、ひと昔前のゲーム機と3人分のコントローラーが置かれていた。
「今度の配信でゲーム実況企画をやろうと思ってて、これから巫子のゲームの実力のチェックと配信でやってもらうゲームを決めるの」
「はあ、まあ下手でもいいならやりますけど……それとあの箱は何ですか?」
納得したようなしてないような顔をする巫子がゲーム機の横を指差す。
そこには抽選箱のような箱があり、中には二つ折りしてからホッチキス留めされた小さな紙がたくさん入っていた。
「ただ普通にゲームをやるだけじゃ面白くないから、負けた人は箱の中から1つ紙を取って、開いてそこに書いてある罰ゲームをしてもらうわ♪」
「ええっ!? ば、罰ゲーム!? 聞いてないよ!?」
「べ、別に普通でもいいじゃないですか! そんな変なドキドキ要素いらないですよ!」
罰ゲームと聞いて僕と巫子は慌てる。
何てったって真白が考えた罰ゲームだ。
負けるとどんなことをさせられるか分かったものじゃない。
「あらあら2人共、何をそんなに怖がってるの? 勝てばいいだけの話じゃない♪ それにこれは社長による業務命令だから拒否権はないわよ♪」
「くっ……」
しかし真白は意地の悪い笑みを浮かべながら、もうお約束になっているパワハラを使って僕たちの逃げ道を塞ぐ。
「分かった。やるよ。その代わり真白も負けたらちゃんと罰ゲームを受けてよ!」
「もちろん。勝てたらの話だけどね♪」
僕は仕方なく勝負を引き受けて真白に啖呵を切るが、真白は負けるわけがないと言うような余裕の表情を見せた。
「そんなこと言ってられるのも今のうちだけだ! 巫子!」
「……はい!」
闘争心に火が点いた僕が巫子に目配せすると、巫子は気持ちを察してくれたのか力強く頷く。
こうなったら巫子と2人がかりで真白を負かし、罰ゲームを喰らわせて後悔させてやる!
これは普段好き放題されている真白への、合法的に仕返しをするチャンス……下剋上だ!
こうして僕&巫子VS真白のゲーム対決が始まった。
◆◆◆
「イェーイ! 勝った~♪」
「ま、負けた……」
「強過ぎます……」
1本目のバトルロイヤル形式の格闘ゲームの対戦が終わり、僕と巫子は愕然とする。
「まさか一度も倒せないなんて……」
対戦が始まると僕と巫子は予定通り力を合わせ、真白に息吐く暇も与えないくらいの怒涛の攻撃を仕掛けた。
しかし真白はプロゲーマー顔負けの巧みなコントローラー捌きによる無駄のない動きと、絶妙なタイミングで繰り出されるガードにより完璧に防ぐ。
さらに僕たちに攻撃する余裕もあるという力の差を見せつけ、僕と巫子はあっさりと敗北してしまった。
まさかゲームを買ってから僕たちと勝負するまでの間に、こっそり練習を積んできたのか!?
「さて、約束通り私が勝ったから2人には罰ゲームを受けてもらうわ。さーて何が出るかな~……これだ!」
勝った真白はウキウキしながら抽選箱の中に手を入れ、中から紙を取り出して開く。
お願い! 痛いこととか恥ずかしいこととか、変なものが出ませんように!
「えーっと何々……『1分間罵倒』」
「1分間罵倒?」
すると僕の祈りが通じたのか、真白にしては軽めのものが出てきた。
「書いてあるのはそれだけ? 誰が誰に罵倒するの?」
「それは勝った人が決めるの。そうだなあ……じゃあ巫子が文人に罵倒してみてみてよ」
「ええっ!? わ、私が文人さんにですか!?」
「うん。何となくだけど、それが一番面白そうだから♪」
「え、ええ……でも、文人さんに悪いですよ」
指名されて戸惑う巫子がチラッと僕の顔色を伺う。
「別にいいよ。罰ゲームだって分かってるから」
僕は「気にしないで」と言うように巫子に向かって手を振った。
巫子には悪いけど、これは僕としては助かった。
何もせずにただ聞いているだけでいいからね。
「そ、そんな。うう……褒めることならいくらでもできるのに……」
「ほらほら、やるのはもう決定なんだから諦めなさい。始めるわよ」
憂鬱そうにする巫子を押し切るように、真白は服のポケットからスマートフォンを取り出し、時計アプリを開いて時間を計る体勢に入る。
「よーい……スタート!」
「ふ、文人さんの、バカーッ! エッチ! 変態!」
そして罰ゲームが始まると、巫子は「何か言わないと!」という感じで必死に頭に浮かんだ言葉を言い始めた。
口先だけだと分かっているからか、僕は罵倒されているのに不快感どころか愛おしさを感じる。
言葉の裏にある、僕への愛が隠しきれていないというか滲み出てるんだよなあ。
これは新手のツンデレなのだろうか?
「えっと、えっと……」
「ほらほら頑張って。せっかくの機会だし、普段は言えない文人への不満や言いたいことを全部言っちゃいなさい♪」
20秒も経たないうちに言葉に詰まり、オロオロしている巫子に真白が面白がるように煽りを入れる。
「ヘタレ! 意地悪! 甲斐性なし……って、きゃあっ!? わ、私、何てことを……」
無理矢理言わされているとはいえ罪悪感を感じているのか、僕を貶す言葉を吐く度に巫子の表情がどんどん追い詰められたものになっていった。
「はい。終了ー」
「うわあああんっ! 文人さんごめんなさい! さっき言ったことは全部嘘ですから! 文人さんに不満なんて1つもないし、心の底から尊敬してるくらい大好きですから嫌いにならないでくださああああいっ!」
そして1分が経ち終わった瞬間、巫子が大声で謝りながら僕の胸に飛び込んできた。
「大丈夫だよ。僕も巫子のことが大好きだし、そんなことで嫌いにならないよ。僕の方こそゲームに負けて辛いことを言わせちゃってごめんね」
僕は巫子を安心させようと抱きしめ、頭を撫でながら慰める。
ああ、巫子は本当にかわいいなあ。
「まあまあ、いつものことだけど、これでもかと言うくらい見せつけてくれちゃって、いい雰囲気のところ悪いけど戦いはまだ始まったばかりよ。次はすごろくゲームで勝負しましょ♪」
僕たちがイチャついている間に真白はゲーム機を操作し、ゲームソフトの切り替えを済ませてニヤニヤしながら待っていた。
「わ、分かってるよ。次こそ僕たちが勝つから! 巫子! やるよ!」
「は、はいっ!」
まだまだ厳しい戦いが続く予感がした僕は表情を引き締め、巫子と共に士気を高めると再びコントローラーを手に取った。
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