第46話 真白が読者の離脱率が低い冒頭の書き方を教えてくれました
「さて、それじゃあ続きを始めよっか」
「うん。よろしく」
20分後、巫子が用意してくれた紅茶とクッキーが盛られた皿が空になると、再び真白が話を始めた。
「さっき言ったタイトルとキャッチコピーで、小説を手に取ってもらうという最初で最大の難関を突破したものの、すぐに第2の難関が待ち受けている。文人、それが何か分かるわよね?」
「もちろん。第1話を読んだ人が全く第2話に進んでくれないことだよね?」
読者にとって第1話は立ち読みのようなもので、最初の数行読んだだけでブラウザバックする人も少なくない。
それを防ごうと作者たちは何とかして読者を惹き込む、続きが気になると思ってもらえるインパクトの強い第1話を書こうと日々頭を悩ませているのだ。
しかし今のところ、これといった有効な手段は見つかっていない。
なぜなら小説では、特に異世界ファンタジーのような創造性の高いものは最初に設定や時代背景の説明が必要で、どうしても物語の動きが少ない説明回が続きがちになり読者が退屈してしまうのだ。
「せめて小説の魅力が一通り伝わるところまで読んでもらえたら、離脱されても『この人の好みには合わなかったんだな』と諦めがつくんだけど……」
「じゃあ、第1話で全部伝わるようにすればいいじゃない?」
「え? どうやって?」
真白の言葉を聞いて僕はキョトンとする。
「プロローグ、プロローグを使えばこの問題は簡単に解決できるわ♪」
「プロローグってあれだよね? ミステリー作品の最初でよくある、犯人が事件を起こすシーンのような見せ場のことだよね?」
「そう。序章・導入部という意味で、これは私の解釈なんだけど、プロローグって第1話と話が繋がってなくても、何ならメインストーリーと関係なくても別に問題ないと思ってるの」
「あー、確かに厳密なルールは決まってない感じだよね」
作者の間でも書いた方がいいのか時々議論される程、プロローグは微妙な立ち位置にあり、共感した僕は頷いた。
「だからこれを小説の魅力や見所が詰まった『作品紹介』や『切り抜き』として利用するの。前後の繋がりという制限がなくなれば、最初から読者に見せたい場面やパワーワードが使えるでしょ?」
「そうだね。読者としても、どんな小説なのかすぐに分かるのは嬉しいだろうね」
「タイトルやキャッチコピーが浅く広く読者の目を止めて集める作戦なら、プロローグは集めた読者が定着するように深く刺す作戦。段階に合わせて上手く作戦を使い分けることが勝利への近道なの」
「なるほど。ここでタイトルやキャッチコピーの段階ではできなかった、小説の個性をアピールすればいいんだね」
つまり過去の僕は最初から狭く深く刺し行ってて、勝負を急ぎ過ぎてたってことか。
僕は少しずつ、真白の言っていることが僕の中で繋がり始めていることを実感する。
「それで具体的に、プロローグには何を書けばいいの?」
「ラブコメだったら当然、一番重要なのはメインヒロイン。巫子の良さがこれ以上ないくらい存分に出ているものがいいわね。ここは実話ではなく完全な作り話でいきましょ」
「了解。ちなみに文字数の上限とかってある? Web小説では1話2000文字~3000文字が多いみたいだけど?」
「私の調査では、5000文字くらいでも普通に読んでくれる感じだわ」
「5000文字だね。それだけの文量があれば余すところなく書けそうだ」
「ここは小説作りの中でも1、2を争うくらい重要な部分だから締切はなしにするけど、その代わりに読んだ人が全員巫子のファンになると思うくらいの会心のエピソードを書いて頂戴。生半可なものを持ってきたらビリビリに破いて放り投げるつもりだから、覚悟しなさいよ♪」
「あ、あはは……お手柔らかに。分かった。とりあえず全力を尽くすよ」
意地の悪い笑みを浮かべる真白を見て、僕は合わせて笑いながらも不安を感じる。
この人だったら冗談じゃなくて、本当に破って放り投げかねない。
心を折られて立ち直れなくならないように頑張ろう……。
「よろしく。じゃあそろそろ今日の仕事を始めましょ。巫子、食器の片づけだけ頼んだわよ」
「はい。分かりました♪」
真白が話を切り上げると僕たちは腰を上げ、それぞれの仕事に取り掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。