第45話 真白が読まれるタイトルとキャッチコピーの付け方を教えてくれました
「タイトルは『無名の頃から応援している人気VTuberが元カノの妹のSSS級大和撫子だった件』。キャッチコピーは『優しい彼女とイチャラブしながら成り上がり浮気した元カノを見返してやる!』よ」
「ふうん? 何と言うか、流行りの単語の詰め合わせみたいなタイトルとキャッチコピーだね?」
「そうね。でも、そこがいいのよ♪」
「え? どういうこと?」
真白の狙いが分からず僕は首を傾げる。
「例えば文人『ツンデレ幼馴染とのラブコメ』というタイトルの小説なら、どんな読者が読んでくれると思う?」
「そりゃあ、ツンデレヒロインや幼馴染もののラブコメが好きな読者だよ」
「じゃあ『勇者パーティーを追放されたので田舎でスローライフを楽しみます』というタイトルの小説ならどう?」
「異世界ファンタジーの追放ものと、スローライフものが好きな読者だね」
誰にでも分かることを聞かれ、僕はバカにされているのだろうかと疑いながら答えた。
「じゃあ『Moon Light』のような、純文学好きの作者がよく付ける、英語や外国語を使ったタイトルならどんな読者が読んでくれると思う?」
「えーっと……想像だけど繊細に描かれた綺麗な描写や世界観がありそうだから、そういう小説を求めている読者かな?」
「ちなみにその読者はどれくらいいると思う?」
「……あまりいないんじゃないかなあ? 少なくとも僕は重視しないし、というかそれどんな小説? そのタイトルじゃ内容どころかジャンルさえ分からないんだけど?」
「主人公の男子高校生が友達と学校で肝試しをしている時に出逢った、幽霊の女の子との恋物語よ♪」
「いや分かるかあっ! というかタイトルの『Moon Light』関係ないじゃん!」
理不尽な答えを聞いた僕は真白に向かって吠える。
「関係あるわよ? 幽霊の女の子の名前が『月島あかり』だから」
「いや、だから分からないから! そんな作者しか分からない仕掛け、読者が見てもポカンとするだけだよ! 僕が読者だったら即スルーだね!」
「そうでしょうね。つまり、そういうことよ」
「どういうことだよ。いいから早く答えを教えてよ……」
真白に翻弄され続け、疲れてきた僕は答えを催促した。
「異世界転生と書いたら異世界転生好き、悪役令嬢と書いたら悪役令嬢好き、『タイトルに入っている単語の読者層』が手に取ってくれるの。つまりタイトルに重要なのはただ一つ『分かりやすさ』よ」
「でも僕の前作の『浪人生で滝沢塾塾生の僕は今日も仮想世界で青春を謳歌します!』も、分かりやすさという点では良いと思うんだけど、何が悪かったの? VRMMOものが好きな読者ってそれなりにいるよね?」
反論ではなく、純粋に疑問に思った僕は尋ねる。
「それは『浪人生』とか『塾』とか、読者に馴染みがない『非テンプレ』を想像させる単語を使っていたことよ。例えば文人、行きつけの蕎麦屋で『新メニュー! カレー始めました!』というお知らせを見つけたら頼む?」
「よっぽど美味しそうじゃない限り頼まないかなあ。蕎麦屋のカレーが美味しい話はよく聞くけど、その店の蕎麦の美味しさを知ってるのに敢えて別のものを食べる気にはならないよ」
「そうよね。それと同じで読者はテンプレ小説の面白さを知ってるから、それ以外の小説にはなかなか手を出さないの」
「つまり読者は大当たりを引くことよりも、ハズレを引かないことの方を重視してるってこと?」
例え話が入ったことで、僕は誤解や頭が混乱しないように真白に確認した。
「そう。だからタイトルやキャッチコピーで自分の小説の斬新さやこだわりをアピールして、読者に『面白そう!』と思わせようとすると、むしろ読者が離れちゃうの。逆にテンプレ要素をアピールすれば『この前読んだあの小説みたいな感じかな?』と想像して手に取ってもらいやすくなる」
「じゃあ作者は読者に『未知への期待』ではなく『安定の面白さ』をアピールすればいいの?」
「そう。そして注目の作品や検索などで小説を探す時、サーッと画面をスクロールして0コンマ何秒しかタイトルやキャッチコピーを見ないでしょ? だから最近の人気作に『あ、これ自分の好きなタイプの小説だ!』と幅広い層の読者が一目で分かる、テンプレや流行りの単語をたくさん入れられる長文タイトルが多いの」
「な、なるほど……」
「今、ラブコメでは冒頭で彼女に浮気されてフられるか、ヒロインや憧れの人を救ってその後グイグイ迫られる激甘作品、現代ドラマではVTuberものがランキング上位に多い。それに加え異世界ファンタジーのタイトルに多い『成り上がり』と『S級』を、バランス良くタイトルとキャッチコピーに振り分けたらこうなったのよ」
「一見適当に付けたタイトルだけど、その裏で緻密な計算がされてるんだね」
僕は感心しながら、35文字のキャッチコピーの奥深さを感じる。
「でもこれは才能や高い能力がある人間にしかできないことじゃない。自分が伝えたいことよりも、読者が求めている情報を伝えることができる『優しさ』があれば誰でもできる。だから高校生や初心者でも人気作が書けるのよ」
「そうだったのか……」
「でも誤解しないで、私は文人に優しさが足りないと言ってる訳じゃない。普段は優しくても車の運転の時だけ気性が荒くなる人がいるように、人はみんな自分の好きなことになると、わがままになりがちだから気をつけなさいってことよ」
作者として耳の痛い話が続いたからか、真白が僕を気遣うようにフォローを入れてくれた。
「さて、前置きはこれで終わり。次は今日から文人にしてもらう仕事、読者を惹きつける冒頭と第1話の書き方について話すわ。でもその前にちょっと休憩。巫子、悪いけどお茶を淹れてくれる?」
「はい。分かりました♪」
話が一区切りしたところで真白はふうと息を吐き、巫子は頷くと立ち上がって台所に向かった。
◆◆◆補足◆◆◆
カクヨムにおける、タイトルのベストな文字数は39文字です。
それ以上になると注目の作品で表示された時、
40文字目以降が「…」と省略されます。
ランキングや検索画面では全て表示されますが、
あまりに長いと「読むのが面倒臭い」とスルーされやすくなります。
また「じゃあ何で市販の本のタイトルは長文じゃないの?」と疑問に思うかもしれませんが、それは出版社による「面白さの保証」があるからです。
アマチュアの小説は面白さどころか完結さえ保証されていないので、読まれるためには読者に「この小説なら間違いない」と思わせる程の強力なアピールが必要です。
そして流行りの小説の調査は、
週間総合ランキングトップ100と、
書きたいジャンルの週間ランキングトップ100のタイトルとキャッチコピーをサーッと流し読むだけでオッケー。
10分程度で終わります。
(真白が言っている流行りの要素は、私がこの小説の構想を練っていた2020年12月上旬頃のものです)
書きたいものが何かも分からないけど、とりあえず結果を出したい!
いくつか候補はあるけど、どれを書けばいいか分からないと迷っている人は参考にしてください。
また「テンプレと流行りの要素ばかり強調してるけど、それじゃあ自分の小説の個性はどこでアピールしたらいいの?」と思う人もいると思いますが、それは次話で解説します。
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