第44話 真白が高校生や初心者が書いた小説がどのようにカクヨムで人気作になったのかを教えてくれました
「おはよう真白」
「真白さん。おはようございます♪」
「おはよう文人、巫子。今日は最初に発表があるから聞いて頂戴」
翌朝9時の5分前、僕と巫子は真白の部屋に出勤すると、真白と3人で座卓テーブルを囲むように座り今日の仕事が始まった。
「まずはベストセラー小説を目指す戦略から、投稿する小説投稿サイトはカクヨム。ここで連載して読者の反応を見ながら修整して、一区切りする『舞子ざまあ回』を投稿した1~2週間後に、アマテラス司の小説紹介で紹介して一気にバズらせる作戦でいくわ」
「カクヨム? どうしてカクヨムなの? 真白この前、小説の評価は『読まれた量』って言ったじゃないか? それならカクヨムより読者が多いと評判の某サイトの方がいいんじゃないかな?」
「そうなんだけど、カクヨムにはそれを超えるメリットがあるから」
疑問に思った僕が尋ねると、真白は予想通りとばかりにニヤリと笑う。
「ここだけの話、カクヨムには他の小説投稿サイトにはない、無名の作者が書いた小説でも人気作になれる仕組みがあるの♪」
「え、ええっ!? そ、そうなの!? そんな話聞いたことないんだけど!?」
人気作になるためには地道に小説を書き投稿してファンを増やし、新作を投稿した時にご祝儀的な感じでファンから貰える評価によって日間や週間ランキングの上位に入る。
そうすることで多くの新規の読者の目に触れて読んでもらうことができ、さらに評価を伸ばして勢いをつけ人気作まで上り詰めるのが一般的だ。
しかし口で言う程簡単ではなく、多大な時間と労力に加え運も必要であることを知っている僕は、そんな裏技みたいなことがあるのかと疑った。
「さらに言えばバズったり、ランキング上位に入ったりしなくても、正しいやり方で投稿すればいけるわ♪」
「えええ……本当にい?」
「本当よ♪ 信じてないみたいだから教えてあげる。高校生や初心者が書いた小説がどのようにカクヨムで人気作になったのかを♪」
半信半疑の僕を見て、真白はとっておきの秘密を話す子供のように笑いながら話し始めた。
「まず文人に問題。本屋の一番奥にある棚に棚差しされ背表紙しか見えない名作と、入口にある『話題の本』コーナーに平積みされている凡作だと、どちらの方が多く売れるかしら?」
「そりゃあ平積みされている凡作の方が売れるよ。目立つところに置いてある方が有利だからね」
「そうね。小説投稿サイトでは日間・週間ランキングの上位がその話題の本コーナーにあたる。でもそこは人気や実績がある作者の小説やバズった小説が占拠していて載るのは難しい。そうよね?」
「うん。それができないからみんな苦労してるんだよね」
1つ1つ確認するように尋ねてくる真白に僕は頷いていく。
「でもカクヨムにはランキング上位の他に、それと同じくらい宣伝効果の高い場所があるの。それは……『注目の作品』よ」
「ああ、トップページを開くと真ん中に表示されるやつだね」
「その注目の作品は【前日に1人以上、新規の読者から★を獲得している】と【1週間以内に最新話を更新している】の2つの条件さえ満たせば、翌日1日限りの短時間でランダムだけど表示されるの。読者1人から★を貰うだけなら高校生や初心者でもできるでしょ?」
「うん。まあそれでも結構難しいけどね」
「注目の作品に表示されることにより新規の読者が小説を読む、その中の誰か1人が★を入れる。すると翌日も注目の作品に表示される。それを見た新規の読者が小説を読む。その中の誰か1人が★を入れる。このサイクルを繰り返すことで評価を伸ばしているの。ランキング上位に載ることより遥かに簡単でしょ?」
「いやまあそれに比べたら簡単だけど……」
真白の話を聞いて僕は微妙な表情を浮かべる。
僕も前作で★を獲得して注目の作品に載ったことがあるけど、★どころかフォローも全然増えなかった。
言ってることは分かるけど、そう上手くはいかない。
現実味のない話に思えたのだ。
「少し話が逸れるけど文人、小説投稿サイトの読者はみんな『あること』に悩んでるんだけど、それが何か知ってる?」
「え? いや、知らない」
そんなこと考えたこともない僕は首を横に振った。
「面白い小説を『探すことが面倒臭い』ことよ。ランキング上位は入れ替わりが遅いし、新着だと速過ぎる。関連小説機能がもっと親切だったらいいんだけどね」
「あーうん。それは僕も思う。累計評価が高い一部の小説に偏ってる感じがするんだよね」
「だから5分に1回切り替わる注目の作品が読者にとって非常に便利で、場所もいいから宣伝効果がとても高いの。私の調査ではパソコンとスマートフォンの両方に表示される4作品は、時間帯やジャンルによって多少変わるけど、5分間で4~10人フォロワーが増えてるわ」
「ええっ!? う、嘘だ! 僕の小説が表示された時はそんなに増えなかったよ!」
「そうでしょうね。文人の小説には注目の作品に載ってもフォローが増えない致命的な欠点があるから。知りたい?」
「し、知りたい!」
そんなわけないと思った僕は反論したが、真白の甘い言葉にあっさりと懐柔されてしまう。
「じゃあ教えてあげる。文人の小説にはタイトルとキャッチコピーに問題があるの」
「……え? タイトルとキャッチコピー?」
どんな凄いことを教えてくれるのかと期待していた僕は、当たり前過ぎる答えに拍子抜けした。
いやまあ確かにその2つは重要だけど……。
「ねえ文人、もし文人が読者なら注目の作品をどう使う?」
「そうだなあ……5分で切り替わっちゃうから、表示されている小説のタイトルとキャッチコピーをパッと見て、気になったものをとりあえず一通りフォローして1つずつ読んでいく感じかな?」
「そこよ!」
「うわっ!? え!? 何!?」
急に真白が大きな声を出し、僕は何事かと驚く。
「文人が今言ったように、注目の作品はランキングや新着とは違い5分で切り替わるから、ほとんどの読者は他の良さげな小説を取りこぼさないように、気になる小説を見つけてもフォローするだけで第1話を読まないの!」
「ええっ!? そうなの!?」
「だからこそ第1話を読まれなくても読者にフォローさせるような、タイトルとキャッチコピーをつけられるかが人気作になれるかどうかの明暗を分けるの。私の体感ではその2つだけで8割方勝負が決まる」
「は、8割!? そこまで重要なの!?」
「だって高校生や初心者に10万文字の名作は書けなくても、コピーライターを超える秀逸な35文字のキャッチコピーならマグレで書ける可能性があるでしょ? だから高校生や初心者が書いた小説がカクヨムで人気作になるという現象が起こるのよ」
「な、なるほど……」
次から次へと僕の中の常識を覆してくる真白に、衝撃を受けた僕はただ相槌を打つことしかできなくなってしまう。
「それと文人、ランキング上位にあるテンプレ小説を見て『テンプレだから読まれるのは分かるけど、自分の小説より2桁も★やフォローが多いのはおかしくない? 内容にそこまでの差があるとは思えないんだけど?』と思ったことない?」
「あるある! というか読まれずに悩んでいる人はみんな思ってるよ!」
「それも今言った『とりあえずフォロー層』を獲得してるからよ。たとえ注目の作品1回の表示による増加が1人や2人でも、1ヶ月続いたら何百人にもなる。そして次第に読者が『こんなに多くの人が評価してるんだから面白いだろう』と思い始め、積み重ねてきた★とフォローが新たな★とフォローを呼ぶ状況になり人気作ができあがっていくのよ」
「そ、そうだったのか……」
僕が初心者だった頃、誰かが書いた創作論を読んで、人気作を書くためには読者を惹き込むインパクトの強い第1話を書くことが重要だということを知った。
だから僕は全力を尽くし「第1話さえ読まれたら勝てる」と思える小説を書いた。
しかしそれは間違いで、勝負が決まるのは第1話よりも手前。
「タイトルとキャッチコピーさえ読まれたら勝てる」小説が人気作になる。
その真理を知らなかった僕は、戦う前から負けていたのだ。
「まあ、このことは多分プロの小説家や編集者でも知らないと思うから気にする必要はないわ。大事なのはそれを知ってこれからどうするかよ。さて、タイトルとキャッチコピーの重要性が分かったところで、ベストセラーを目指す小説のタイトルとキャッチコピーを発表するわ♪」
真白は呆然としている僕を励ます言葉をかけると、次の話題に移った。
◆◆◆補足◆◆◆
上記で解説した注目の作品に表示される条件についてですが、
【前日に1人以上、新規の読者から★を獲得している】を満たしても必ず表示されるわけではなく、
(山下の推測ですが)0時になった瞬間に抽選が行われ、選ばれた小説の中からランダムで表示されるようです。
また表示されるのは日間ランキングが切り替わった後(夜中)からのようです。
(それまでは前日分が引き続き表示されます)
抽選の基準についてはこれも山下の推測ですが、
前日に多くの★やフォローを獲得した小説や、
(★+フォロー数が2で表示された日もあれば、8でも表示されなかった日もあったので、完全にその日の運次第です)
長期間途切れることなく★を獲得している小説が選ばれやすく、
(★200くらいまでは1日だけでもほぼ毎回選ばれていたと思います)
★が多いか話数が多いか、文字数が多いかは分かりませんが、
連載が長い小説ほど選ばれにくい傾向にあるようです。
注目の作品に載った日は、
ランダムなので運の要素が大きいですが、
1日で5~40フォロー増えています。
(平均は12くらい)
パソコンのみに表示される場所での、
1回の表示5分間で増えるフォロー数は0~2です。
また、私が定めている人気作の基準は、
検索での最高ランクである★500以上です。
これだけの★を獲得していれば編集者によるチェックが入り、
素晴らしいと認められれば書籍化の打診がきます。
(少し前に、過去に交流があった方が400台で書籍化されていました)
そしてこの小説の日間ランキングの最高は16位
(すぐに陥落)
週間ランキングも30位以内に数回入っただけと全然バズっていません。
(原因はラブコメの主流である高校生が主人公の学園ものと、ハーレム要素を外しているからだと思われます)
なのでこのエピソードで真白が語っていることは、
ほぼ間違いないと思います。
もしカクヨムで小説を投稿している方、
そのうち投稿したいと思っている方は参考にしてください。
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