第43話 禁欲が終わった解放感で巫子がいつも以上に大胆になりました
「……うん。オッケー。それじゃあ小説のプロットはこれでいきましょ」
「本当に!? 本当にこれで完成でいいんだね!?」
禁欲最終日の定時5分前、何度もの修整の指示を経てようやくオッケーを貰えた僕は念押しするように真白に尋ねた。
「本当よ。よく頑張ったわね♪」
「もう帰ってもいい?」
「いいわよ。お疲れ様♪」
「やったあ!」
これでようやく巫子とイチャイチャできる!
僕はウキウキしながら自分の机へ向かい、パソコンをシャットダウンして帰る準備を始める。
今日の僕の仕事は小説のプロットが完成したら終わり。
仮に定時までに完成しなくても先日の巫子の突撃騒動の原因を作ったお詫びとして、残りは真白がやってくれることになっていた。
ちなみに巫子は既に仕事を終わらせていて、僕の部屋で晩御飯を作って待ってくれている。
今日の晩御飯も真白は1人で食べてもらうという、絶対に邪魔をさせない徹底ぶりだった。
「じゃあ真白、お疲れ様。また明日!」
「また明日ね。久し振りだからって盛り上がり過ぎたせいで、寝坊して遅刻しちゃダメよ♪」
「うん。巫子、待ってて、今行くから!」
僕は机の上を片付けると、真白に見送られながら真白の部屋を出た。
◆◆◆
ガチャ
「巫子! ただいま!」
「あ、文人さんお帰りなさい♪」
僕が部屋に帰ると、中から巫子の嬉しそうな声が聞こえてきた。
「巫子! 会いたかったよ……って、えええええっ!?」
巫子を見た瞬間、僕は驚きのあまり絶叫した。
「み、巫子!? その格好は……」
僕は口をパクパクさせながら巫子を指差す。
胸元から股下の辺りまで続くフリルのついた1枚の白い布地と、それらが落ちないように首元と腰周りを結ぶヒモがそれぞれ2本。
それ以外は肌色しかなかった。
「裸エプロンです♪ 昔から憧れてて、1人でいる時に禁欲が終わったら何をしようかと考えて、思いついたのでやってみました♪」
「や、やってみましたって……」
「ねえねえ文人さん♪ 似合ってますか?」
僕が唖然としていると、巫子が無邪気に笑いながら聞いてくる。
「う、うん。凄く似合ってるよ……」
「本当ですか! 嬉しいです♪」
僕に褒められて喜んだ巫子は僕の前でクルンと回った。
あ、パンツ履いてない。
本当にエプロンの下裸だよ。
こ、これは刺激が強い……。
僕はゴクリと唾を飲み、僕の胸にモヤモヤした気持ちが湧き上がる。
性欲が溜まっているからか、いつも以上に巫子が色っぽく見えた。
「あ、そうだ! せっかくなのであのセリフも言ってみていいですか?」
すると巫子は何かを思い出したように僕の前に向き直る。
「文人さんお帰りなさい♪ ご飯にしますか? お風呂にしますか? それともわ・た・し♪」
巫子はセリフと共に、首の後ろで結んでいるエプロンのヒモをするりと解いてしなをつくり、肌色の面積をさらに大きくして僕を誘ってきた。
「もちろん巫子に決まってるじゃないかああああっ!!」
「きゃっ♪」
それを見た僕は堪らず巫子の腕を引っ張ってベッドの上に押し倒す。
「はあ……はあ……」
巫子がほしい巫子がほしい巫子がほしい巫子がほしい巫子がほしい巫子がほしい巫子がほしい巫子がほしい!
今、巫子と愛し合ったら絶対に気持ちいい。
僕はまるで悪魔に脳を乗っ取られたかのように巫子のことしか考えられなくなり、体の奥底から巫子を求め気が狂いそうになった。
こんなに欲情したのは巫子と初めて体を重ねた時以来だ。
僕はたった1週間の禁欲で別人のようになっている自分に戸惑いながら、今までの自分が満たされ過ぎて、それも良くないことを実感した。
「巫子、それはダメだよ。僕だって1週間お預け状態で限界なのに、そんなことされたら我慢できないよ」
僕は今にも飛びそうな理性を必死に保ち、見下ろしながら巫子を批難する。
「ああ、文人さん素敵です。そんなケダモノのような目で見つめられたら……ドキドキします♪」
巫子は今にも襲い掛かろうとする僕に全く怖がらないどころか、期待するように目を潤ませ興奮で息を荒くしていた。
それにつられるように僕の興奮がさらに高まる。
「悪いけど風呂もご飯も後回し。巫子のことは大事だけど僕も男だ。誘惑した責任……取ってくれるよね?」
「もちろん♪ いくらでも責任を取るので早く私をかわいがってください。私もう……待ちきれません♪」
「言ったね。その言葉、後悔しても知らないよ!」
巫子の言葉を聞いた僕は、もう遠慮はいらないとばかりに巫子の唇を奪った。
こうして人間の皮を被った獣と化した僕と巫子は本能の赴くままに、禁欲していた1週間を取り戻すように激しく愛し合ったのだった。
◆◆◆
「ああ、幸せですう……」
1週間ぶりの夜の営みを終えた後、風呂に入り晩ご飯を食べた僕と巫子は再びベッドに入り、身を寄せながらまったりとしていた。
「満足した?」
「はい。とっても♪」
巫子の表情は明るく気力充実という感じで、これならもう大丈夫だろうと僕は安心した。
「文人さん聞いてください。私、決めました。文人さんに相応しい大人の女になります♪」
「え? 巫子は今でも十分……というか僕よりも大人だと思うけど? 仕事面でも生活面でも頼りっぱなしだし」
僕は巫子の言葉に首を傾げる。
「いいえ。私、この1週間で痛感しました。文人さんに尽くすのもイチャイチャするのも、全部私がやりたいからやっていたことで、思うようにできなくなった途端に病んでしまう私は、自分のことしか考えられないわがままな子供なんだって」
「別にわがままな子供でもいいじゃないか? 巫子はVTuberとして世の中の多くの人の役に立ってるし、それ以前にまだ成人してないんだから、急いで大人になろうとする必要もないよ」
自嘲するように反省する巫子を見て、僕は励ますように諭した。
「そう言ってもらえると救われます。ふふっ、文人さんは私とは反対に常に私のことを第一に考えてくれますよね。いつも大切にされてるなあと思わせてくれるその優しさ、尊敬します♪」
巫子はその時のことを振り返るように自分の胸に手を当て、これでもかと僕を褒めちぎる。
「それで私、気づいたんです。私のように自分のことしか考えられない人間を子供と呼び、文人さんのように他人のことも考えられる優しさを持つ人間を大人と呼ぶんだって。年齢や能力、立場は関係ない。近い将来私は母親になりますし、このままじゃいけないと思ったんです」
「……そっか。じゃあ、頑張ろっか?」
「はい♪」
巫子の説明を聞いてもやっぱり、僕は巫子が今でも十分大人だと思った。
だって本当に自分のことしか考えられない子どもなら、そんな志が高いこと言えないもん。
しかし、僕はそれを口には出さない。
YouTubeの研修で僕は学んだんだ。
世の中の出来事は勉強の問題のように、正解が1つとは限らない。
むしろ複数あったり、逆に0や分からないことの方が圧倒的に多い。
なのにここで僕と巫子が「大人だ」「子供だ」と議論するのは、不毛以外の何者でもない。
こういう時は自分が信じているもの、正解だと思うものを自由に「選ぶ」。
だから僕は巫子の考えを尊重し、好きにさせながら応援することを選んだ。
その方が巫子が喜ぶし、巫子が尊敬する大人である僕がするべき受け答えだと思うから。
「文人さん、真白さんが文人さんに小説を書くことをお願いした時、人気作を書くためには優しさが必要だと言いましたよね?」
「うん。言ったね」
すると巫子が話題を変えて僕は頷く。
「優しさは目に見えないものですけど、使えば使う程減っていくものなんです。誰かが補充してあげないと少しずつ心が蝕まれていき、最後には病んでしまう。だから文人さんがたくさんの読者の人に優しさを与え続けられるように、私がそれ以上に文人さんに優しくしますね。文人さんが今まで私にそうしてくれたように」
「……うん。ありがとう。巫子が味方でいてくれるととても心強いよ。これからもよろしくね」
「はい♪」
巫子の僕に対する想いを聞き、胸がいっぱいになった僕はその気持ちに応えるように巫子にキスをする。
「じゃあ巫子、おやすみ」
「はい。おやすみなさい♪」
優しさの尊さを知り、さらにお互いに与え合って循環させることができる僕たちなら、きっとこの先何があっても大丈夫。
僕はそう思える程のパートナーがいる幸せを噛みしめながら、唇を離すと巫子と共に眠りについた。
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