第42話 情緒不安定な巫子を真白がからかったらヤンデレになりました
「ごちそう様。ありがとう真白。美味しかったよ」
晩御飯を食べ終え、手を合わせた僕は真白にお礼を言う。
あの後僕が立ち尽くしていると、珍しく自分にも非があると思ったのか真白が「仕方ないなあ」と言って晩御飯を作ってくれた。
「真白って料理上手だったんだね」
僕の中で真白は、面倒臭いからと料理を全くしないイメージだったから意外だった。
「まあレシピ通りに作れば誰にでもできるし、巫子には負けるけどね」
真白は大したことじゃないように言うが、僕に褒められてまんざらでもない顔をする。
「その誰にでもできることを普通にできるのが凄いんじゃないか。僕は作ってもらってる側だし感謝させてよ」
それに真白は謙遜するものの、比べる相手が悪いだけで決して見劣りはしない腕前で、披露する相手がいないことを勿体なく思うくらいだった。
「食器の片づけと洗い物は僕がやるよ」
「よろしく。じゃあ私はお茶を飲んだら帰るわね。私が使った箸をこっそり舐めちゃダメよ♪」
「しません」
ピリリリリッ
「ん?」
食器を台所へ持って行こうとすると、僕のスマートフォンが鳴る。
「巫子からだ。はい。もしもし」
ディスプレイに巫子の名前が表示されているのを見て、僕は電話に出た。
「あ、もしもし文人さんですか? 巫子です」
「うん。僕だよ。どうしたの?」
「えっと、さっきのことを謝りたくて、でも顔を合わせるのは気まずいので電話を……」
「ああ、いいよ。僕は気にしてないから。僕の方こそごめんね。何と言うか気が利かなくて」
電話越しに申し訳なさそうに謝ってくる巫子の罪悪感を和らげようと、僕はお互い様と言うように謝る。
「それと1人でいると寂しくて、少しだけお喋りしてくれませんか?」
「うん。僕も巫子の声が聞きたいな」
「本当ですか? ありがとうございます♪」
僕が了承すると巫子の嬉しそうな声が聞こえた。
「それにしても、随分と参ってるみたいだね?」
「はい……お恥ずかしい話、文人さんの愛がなければ精神が安定しない状態で、依存性強過ぎますよ。ああ、禁断症状で手が……」
「ごめん、僕を危険な薬物みたいに言わないでくれる? というか禁断症状とか出ないで?」
禁欲を始めてから欲求不満により、言動がボケキャラ化している巫子に僕は呆れる。
真白の相手だけでも大変なのに、これ以上僕の負担を増やさないでほしいな。
「文人さんはどうですか? そう言えばもう晩御飯は食べましたか? 食材だけ置いて行っちゃいましたけど……」
「えっと、それは――」
ぐにっ!
「あうっ!?」
「私が作ってあげたわ♪」
僕がどう答えようか考えていると真白が僕の脇腹をつねり、僕が怯んだ隙にスマートフォンを奪い取って僕の代わりに答えた。
「あ、あれ!? その声は真白さん!? どうしてこの時間に文人さんと一緒にいるんですか!?」
「だって文人が困ってたんだもん。普段は意地悪ばかりしてるし、たまには優しくしてあげてもいいかなと思って♪」
巫子の驚く声を聞いて真白が愉快そうな顔をする。
「文人って本当いい男よねえ。一緒にいて楽と言うか凄く居心地がいいんだもん♪ これが癒し系男子の魅力かあ」
「ちょっ、ちょっと真白?」
すると真白が悪ノリし始め、巫子のようにくっついてきて僕は戸惑った。
「そうだ。胃袋を掴んだことだし、巫子が傍にいない隙に誘惑しちゃおっかなあ♪ あむっ♪」
かぷっ
「んうっ!?」
さらに真白は僕の耳たぶを甘噛みし、ゾワッとした感覚に僕は変な声を出してしまう。
「ま、真白さん!? 何をやってるんですか!? ダ、ダメですよ! 文人さんは私の彼氏なんですから!」
その声を聞いて巫子が狼狽え始めた。
「ええーっ? いいじゃない? 減るもんじゃないし、お花見の時にも言ったけど私は2号で構わないから♪」
真白は気分が乗ってきたのか僕から離れ、本気で巫子を騙そうと迫真の演技でスマートフォンのマイクに向かって甘い言葉を囁く。
「ま、真白、ふざけるのもそれくらいに……」
巫子は声しか聞こえないから状況がよく分からない。
これは完全に誤解するぞ。
今は情緒不安定だし、変に刺激して面倒なことにならなければいいけど……。
「ねえ文人、シャワー行こ♪ 今日くらい巫子のことは忘れて私と楽しいことしましょ♪ ほらほら服は私が脱がせてあげるから♪」
「そ、そんな……いやあああっ!? 文人さんが真白さんに寝取られるうううう!?」
僕が危機感を抱いていると案の定、真に受けた巫子が半狂乱の叫びを上げる。
「ふふっ、これ以上はかわいそうだし、このくらいにしとこうかな♪ ごめんごめん今までのは冗――」
ブツッ
「あ……」
プーッ、プーッ、プーッ……
満足した真白が冗談であることを明かそうとすると、その前に巫子が電話を切ってしまった。
「切れちゃった」
「あーあーやり過ぎだよ。真白、今すぐ電話をかけなおして謝りなさい」
「はいはい」
ピンポーン♪
「ん?」
すると突然、僕の部屋のインターホンが鳴る。
「文人さーん」
「っ!!?」
「こ、この声は……」
そしてドアの向こうから聞こえてきた声に僕と真白は凍り付いた。
「文人さーん。怒らないので大人しくドアを開けてくださーい。というか開けちゃいますよー」
巫子の声はいつもと変わらない穏やかなものだが、心なしかどこか冷たいものを感じる。
何で巫子が僕の部屋の前にいるんだ!?
巫子の家からここにくるまで2、30分はかかるはずなのに……。
まさかストーカーみたいにマンションの前で張ってた!?
それとも巫子は僕が絡むと、物理法則の壁を超えて瞬間移動することができるのか!?
「うわあ、何だか厄介なことになっちゃったわね。じゃあ文人、後始末よろしく。靴だけ後で届けてね♪」
「あっ!? 真白!?」
僕が愕然としていると真白は危険な空気を察したのか、部屋の窓から外に出るとベランダを伝って自分の部屋へ逃げて行った。
ガチャッ
「文人さん、こんばんわ♪」
「ひいっ!?」
合鍵で鍵を開けて入ってきた巫子を見て、僕は小さく悲鳴を上げる。
顔こそ笑っているものの、殺気のような邪悪なオーラを纏っていて恐怖を感じたのだ。
「真白さんはどこですか? ちょっと腰を据えて話し合いをしたいんですけど♪」
巫子は部屋の中を見回して真白の姿を探す。
「あ、ちょうどいいところに包丁が、話し合いが決裂したらこれで真白さんを消しましょう♪」
すると巫子が台所で真白が料理に使った包丁を見つけ、手にして怪しい笑みを浮かべた。
「み、巫子!? 真白の悪ふざけが悪質で許せないのは分かるけど、僕の話を聞いて! 早まって自暴自棄になるのはダメええええっ!!」
この後僕は必死に自身の潔白と真白の冗談であることを説明し、さらに巫子の気が済むまで部屋を調べてもらうことで、無実を証明してようやく落ち着きを取り戻したのだった。
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