第31話 帰ろうとすると挙動不審の舞子に会い修羅場の予感がしました

「さて、帰ろうか?」

「はい♪」

 ショッピングモールを出た直後、僕のお腹が鳴り僕と巫子は近くのファミレスで晩御飯を食べてから帰ることにした。


 タッタッタッタッタ……


 ドン!


「うわっ!?」

「きゃっ!?」

 ファミレスを出て駅に向かって歩き出そうとすると、正面から走ってきた女性と僕の肩がぶつかってしまった。


「す、すみません。彼女と喋ってたからちゃんと前を見てなくて……」

「い、いえ、あたしの方こそ急いでて……って、ええっ!?」


 僕が謝ると、同じく謝ろうとした女性が僕の顔を見て驚きの声を上げる。


「ふ、文人!?」

「えっ!? ま、舞子!?」

 僕とぶつかった女性は舞子だった。


「き、奇遇だね。こんなところで会うなんて、もしかしてこれからデートかな? 僕たちは今から帰るところだけど」


「そ、それは……」

 元カノとの遭遇に僕は気まずく思いながら、平穏にやりすごそうと無難な話題を振ってみると、何故か舞子は動揺した。


 ん? 何だか様子がおかしいぞ?

 何か後ろめたいことでもあるのか?


「って、いけない! 早く追いかけないと見失っちゃう! 悪いけどあたし急いでるから!」

 

「あっ!? 舞子!?」

 僕が不審に思っていると、舞子はまるで僕の相手をしている暇はないとでも言うように慌てて走り去って行った。


「行っちゃった……」

「お姉ちゃん、どうしたんでしょうか?」

 残された僕と巫子は呆然と佇む。


 てっきり「あんたには関係ない」とか「そうだけど、悪い?」とか冷たい返事が返ってくると思ってたのに。


 それに「追いかける」とか不穏なことを言ってたけど……。


「気になるわね♪」

「うわあああっ!?」

「きゃああああっ!?」

 すると背後からいきなり聞き覚えのある声が聞こえ、驚いた僕と巫子は悲鳴をあげた。


「ま、真白!?」

「真白さん!?」

「やほ♪ 文人、巫子、こんばんは♪」

 振り向くとそこには真白がいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべながら立っていた。


「な、何で真白がここに?」

「だってさあ、手持ちの仕事は全部終わっちゃったし、何もすることがなくて暇なんだもん」

 僕が尋ねると、真白が退屈しきった子供のように不満そうな顔をする。


「それで文人と巫子が街へデートに行くって言うから、私も適当に街をブラブラしようと思って、そしたら2人を見つけて尾行することを思いついたの♪」


「ごめん。最後だけ全く同意できない」

 何の説明にもなっていない真白の説明に僕はツッコミを入れた。


 いくら暇だからって、普通の人なら知り合いのデートを尾行しようという考えにはならない。

 まあ、この人は普通じゃないんだけど。

 探偵ごっこみたいなノリなのかな?


「ちなみにどこから尾行してたの?」

「2人が猫カフェから出てきたところから♪」

「ガッツリと尾行してるな……」


「最初はからかうネタを探すだけのつもりだったけど、何だか面白いことが起こりそうな場面に出くわしたわね♪」

 真白は新しいおもちゃを見つけたような嬉々とした表情を浮かべる。


「文人、巫子、巫子の姉の行方を追うわよ。見つけたら私に連絡。これ社長命令だから♪」

「えええ、マジでえ……」


「勘弁してくださいよ……」

 野次馬根性全開の真白のパワハラにより、僕と巫子はげんなりしながら舞子の捜索を開始した。


◆◆◆


「うわ……」

「これは……」

「あらあらあら♪」

 それから5分も経たないうちに、真白から駅前のコンビニ付近で舞子を見つけたと連絡が入った。


 僕と巫子は駆けつけると、そこで驚きの光景を目にする。


「それでさ――」

「えーマジでえ? 店長それ絶対盛ってるっしょ♪」

 20代後半と思われる長身で爽やかな雰囲気がある男と、大学生と思われるギャルっぽい女の子が楽しそうに腕を組んで歩いていた。


「ぐぬぬ……」

 その様子を物陰にいる舞子が歯を食いしばりながら伺う。


「これ、あれかな? 舞子が舞子の彼氏の浮気現場を押さえようとしてるのかな?」


「多分そうですね。あの人、お姉ちゃんから文人さんと別れたことを聞いた日に、見せてもらった写真に写っていた人と同じですから」

 そのさらに数メートル後ろから、舞子を見ている僕が尋ねると巫子が頷いた。


 それに加えて舞子の彼氏は就職前に働いていたアルバイト先の店長。

 女の子が男を「店長」と呼んでいることから、おそらく相手は店の従業員だろう。


「あーやだやだ。これだから男って生き物は、まあ下心だけの男女の関係なんてこんなものよね」

 真白は過去の毒親との記憶でも思い出したのか、呆れたように蔑む言葉を吐く。


「あ、どこかに移動する!」

 すると2人が駅前のタクシー乗り場で足を止めタクシーに乗った。


「くっ、すみません急いでるんで先に乗せてください!」

「うわっ!?」

 それを見た舞子は逃がすものかと走り出し、近くで乗ろうとしていたサラリーマンを押しのけてタクシーに乗り後を追う。


「私たちも行くわよ!」

「ええっ!? もういいじゃん! この辺で止めとこうよ!」


「そうですよ! これ以上は危ないですよ!」

 僕と巫子は深追いしようとする真白に待ったをかけた。


「でも気になるでしょ? だったら私と一緒にくる! 社長命令!」

 しかし真白はまた社長命令を使って押し切り、手を挙げてタクシーを止めると助手席に乗り込む。


「運転手さん! 全速力で前を走ってるタクシーを追って! 絶対に見失っちゃダメよ!」


「わ、分かりました!」


 ギャギャギャギャギャッ!!


「きゃっ!?」

「うわっ!? 危なっ!?」

 真白の鬼気迫る声に急かされた運転手は、僕と巫子が後部座席に乗りドアを閉める前にタクシーを発進させた。

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