第28話 猫カフェに行き様々な猫たちに癒されました

 ニャー♪ ニャー♪


「ああん、かわいいですう……」

 かわいらしい声で鳴き愛嬌を振り撒く猫たちに囲まれて巫子がデレデレと頬を緩める。


 僕たちが次にやってきたのは、今月オープンしたばかりの猫カフェ。


 ゲームセンターを出ると時間は12時前になっていて、僕たちは昼食を食べようとスマートフォンで近くのカフェを検索した。


 するとこの店が出てきて巫子が行きたいと言ったが、詳しく調べるとここは食事が出ないドリンクのみの店だった。


 そこで僕たちは昼食を別の店で取り、さっきの勝負の景品であるジュースを奢るためにこの店に行くことにした。


「それじゃあみんな、今からこれで遊ぶよー♪」


 ニャー♪ ニャー♪ ニャー♪


「こらこら、ちゃんとみんな遊んであげるから順番に並んで待っててね♪」


 巫子が店から借りた猫じゃらしを猫たちに見えるようにかざしてフリフリすると、猫たちが我先にと一斉に巫子に飛びかかる。


「凄いな……」

 僕は座卓テーブルの巫子の対面で唖然としながらその様子を眺めていた。


 オープンしてから日が浅いからか店の中に客は少なく、僕たちが座敷席に座ると店にいる半分くらいの猫たちが駆け寄ってきた。


 ちなみに全員巫子の方に集まり、僕の周りには1匹もいない。


 猫は懐く人を選ぶと言うがここまで露骨なのは珍しく、注文したジュースを持ってきた店員さんも目を丸くしていた。


 おかげで巫子は1口もジュースを飲むことなく、ずっと猫たちと戯れている。


「美しい光景ではあるんだけど、僕にも1匹くらいきてくれないかなあ……」

 巫子に比べると圧倒的に魅力がないのは分かってるけど、このままだときた意味がない。


 チョンチョン


「ん?」

 僕が寂しく思っていると、何かが僕の脚を突いた。


「あ……」

 脚に視線を向けると、そこには1才にも満たないであろう小さな白猫がいた。


 その白猫は構ってほしいのか、瞬きしながらジーっと僕を見つめる。


「どうしたの? もしかして僕と遊んでくれるの?」


 にゃ~ん♪


 僕が尋ねると白猫は返事するように鳴き、こてんと倒れて僕にお腹を見せた。


「あはは、ありがとう。じゃあ僕と一緒に遊ぼうね♪」

 嬉しくなった僕は頭や背中、顎の下など様々なところを撫でてあげる。


 白猫は気持ち良さそうに目を細めてゴロゴロと大きく喉を鳴らした。


 にゃ~♪


「うわっ!?」

 しばらくすると気が済んだのか白猫が起き上がり、今度は僕の体をよじ登り始める。


「あはは、くすぐったいよ♪」

 そしてペロペロと僕の顔を舐め始め、僕は戸惑いながらも白猫の愛情表現を無下にできず、されるがままになっていた。


「あらあら珍しいですねえ」

 すると仕事がなくて暇だったのか、さっきジュースを持ってきてくれた20代後半くらいの女性の店員さんがやってきて僕に声をかける。


「この仔は雪ちゃんって名前のメスでこのお店の1番かわいい仔なんですけど、とても臆病で普段はお客さんに全く近づこうとしないんですよ♪」


「え? そうなんですか? こんなに人懐っこいのに?」

 意外な事実を知らされて僕は驚いた。


「はい。でも彼氏さん優しそうですし、もしかすると一目惚れしちゃったのかもしれませんね♪ 彼女さんも凄くかわいくてモテモテですし、きっと見る目のある人だけに分かる良さがある素敵な人なんでしょうね♪」


「そうなんですよ~。私にはお姉ちゃんがいるんですけど、付き合ってることを快く思ってないみたいで」


「あ、そうなんですか? 私は旦那と結婚する時に両親にもの凄く反対されたんです♪」

 すると巫子が猫たちと遊びながら僕たちの話に入ってきて、店員さんと話が弾み意気投合する。


「顔は強面なんですけど、甘いものと小動物が好きっていうかわいいところがあって、そのギャップが――」

 店員さんも旦那さんとラブラブなのか、話が途中から惚気話とお互いの相手の自慢ばかりになり、巫子側の当事者である僕は照れ臭くなった。


「……あ、ごめんなさい話が逸れちゃいましたね。人に慣れるいい機会なので、いっぱい可愛がってあげてください。そうだ! 特別に雪ちゃんの好きなおやつをサービスしますね。すぐに持ってきます♪」


「え? あ、はい。ありがとうございます」

 話が一区切りしたところで、店員さんは話を元に戻し店の奥に入って行く。


 チョンチョン


「ああ、ごめんごめん。放ったらかしになっちゃってたね」

 そして僕の顔を舐めることに飽きていた雪ちゃんが退屈そうに僕の肩を叩き、僕は雪ちゃんを持ち上げて抱っこした。


 ふわあ……。


 雪ちゃんは僕の腕の中でもぞもぞと動いて落ち着く場所を探し、止まったところでまた顎の下を撫でてあげると、小さな口を目一杯開けて欠伸をする。


 にゃ~ん♪


 そしてくつろぎながら時々顔を上げて僕を見ると、愛の言葉を囁くように鳴いた。


「かわいいなあ……」

 一目惚れしたかもなんて言われたからか、僕の中で雪ちゃんに対する愛おしさが湧いてくる。


 真ん丸な青色の目がとても綺麗で毛並みも良いし、他の猫と比べるとよく分かるが声も甘い感じでとてもかわいい。


 このカフェにいる猫はみんな保護猫で、お金を払い手続きをすれば飼い猫として連れて帰ることもできるらしい。


 もし僕の住んでいるマンションがペット不可じゃなかったら、連れて帰ることを考えてたかもしれないな。


「……」

「ん?」

「あ……」

 すると僕は不意に視線を感じ、顔を上げると猫たちの女神様と化している巫子がボーッと僕を見ていた。


「巫子、どうしたの?」

「あ、いえ、何でもないですよ?」

 巫子は何でもないように手を振るが、どこか取り繕っているような感じがする。


「もしかして巫子……雪ちゃんのことを羨ましいとか思ってる?」


「そ、そんなわけないじゃないですか。相手は猫ちゃんですよ? 取られないかと心配したり嫉妬したりなんかしませんよ」


「そ、そう? ならいいけど……」

 巫子は口ではそう言うものの、図星だったのか僕から目を逸らした。

 わ、分かりやすいなあ……。


「彼氏さんお待たせしました。雪ちゃんのおやつです♪」

 そこに店員さんが戻ってきて、フリーズドライされたささみを1欠片僕に渡してくる。


「小さくちぎって少しずつ食べさせてあげてください。私はこれで仕事に戻りますね♪」

「ありがとうございます。じゃあ雪ちゃん、おやつ食べよっか?」


 にゃ~ん♪


 僕は店員さんからおやつを受け取り、雪ちゃんに見せると雪ちゃんは目を輝かせた。


「はい雪ちゃん、あ~ん」


 にゃ~ん♪


 僕は店員さんに言われた通りささみをちぎって雪ちゃんの口元に運ぶと、はむはむとかわいく口を動かしながら食べ始める。


「美味しい?」


 にゃ~ん♪


「よかった。まだまだあるからたくさん食べてね♪」

 声をかける度に毎回鳴いて返事してくれる雪ちゃんを、賢く思った僕は頭を撫でてあげた。


「ジーッ……」

「う……」

 するとまた巫子が自分に群がる猫たちの相手をしながら、監視するように横目で僕の様子を伺っていることに気づく。


「な、何でだろう? 何も悪いことをしてないのに浮気がバレたような罪悪感が……」

 その後、僕は雪ちゃんが遊び疲れてお昼寝するまでの数十分、巫子の羨ましそうな視線を浴び続けたのだった。


◆◆◆


「じゃーん! 文人さんどうですか? 似合ってますか?」

「う、うん。凄く似合ってるよ……」


「本当ですか! 嬉しいです♪」

 試着室から出てきた巫子の、神々しさを感じる巫女服姿に僕は圧倒される。


 猫カフェを出た後、別の店で昼食を食べた僕と巫子が次に向かったのはコスプレショップ。


 この店は昼食を食べた店の向かい側にあり、店の入口に飾られているメイド服を見た巫子が行きたいと言って入ることにした。


「でも、どこか違うって顔してますね?」

「い、いや、そんなことないけど……」

 巫子が僕の顔を覗き込みながら首を傾げる。


 基本的にコスプレやオシャレは着飾り変身した自分を見て満足するものだが、巫子は自分がどう思うかを二の次にしてひたすら僕の反応を伺っていた。


 おそらくこの前エロ本を読んだことで、コスプレが男にどのような影響を与えるのかを学んだのだろう。


 店に入る前に気に入ったものではなく「良さそうなものがあったら買う」って言ってたし、完全に僕との夜の営みの時に着ることを考えて選んでるな。


「まあいっか。文人さん写真撮ってもらえますか?」

「いいよ。はいチーズ」


 パシャッ


 僕はニコッと笑う巫子にスマートフォンのカメラを向けてシャッターを切った。


 このコスプレショップでは店内にある全ての衣装を自由に試着することができ、さらに店名のハッシュタグをつけてSNSにアップすれば、無料で持参したスマートフォンやカメラによる撮影もできる。


 巫子はこれまでにナースやミニスカポリス、メイド服にチャイナドレスと様々なコスプレをした見目麗しい姿を披露してくれた。


 僕の目の保養になるのはもちろん、店員や周りにいる他の客たちからの注目を集めている。


 しかし巫子はそれを嫌なものだとは思っていないようで、むしろ楽しんでいるようだった。


 まあ女の子はみんなアイドルに憧れるものだし、動画の撮影や配信の時にアマテラス司のコスプレをしてるから、元々変身願望みたいなものがあったのかもしれない。


「ありがとうございます♪ さて次は何を着ようかなあ……あ!」

 巫子は目ぼしいものがないかと店内を見回し、何かを見つけて声を上げた。


「ん? 巫子? 何か気になるものでもあった?」

「文人さん、あれ……」


「あれ? ……ぶっ!」

 巫子が指差した先を見て僕は吹き出してしまう。


 そこにあったのは猫耳のカチューシャと鈴付きの首輪、肉球柄の手袋と靴下、そして腰に巻き付けられるようにヒモが付いている尻尾。


 さらにおもちゃの猫じゃらしが透明な袋の中に入った黒猫のコスプレセットだった。


「文人さん、さっき雪ちゃんと楽しそうに遊んでたじゃないですか? だから私も猫になって文人さんと遊びたい……にゃ」


 巫子は頬を赤く染め、はにかみながら僕にお願いしてくる。

 やっぱりさっきのこと気にしてたんじゃないか。


「わ、分かった。じゃあそれ買って家で一緒に……遊ぼうか?」

「……はい♪」

 そんな巫子のかわいいお願いを断れるわけもなく、僕は頷いて今日の夜に飼い猫とご主人様プレイをすることが決まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る