第27話 デートに出掛けゲームセンターに行くと巫子の思わぬ一面が顔を出しました
「うわあ、連休中だけあって人がいっぱいですね」
「そうだね。はぐれないように気を付けないと」
ゴールデンウィーク初日、僕と巫子は街に出掛け手を繋ぎながら人ごみの中を歩いていた。
「巫子はどこか行きたいところとかある? この感じだとどこに行っても人が多いかもしれないけど」
「そうですねえ……」
巫子がキョロキョロと周りを見て気になるものがないか探す。
ちなみに巫子にプレゼントを買うつもりであることはまだ言っていない。
元々あまり物欲がなく、さらに欲しいものがあってもすぐに買える経済力がある巫子に、何をプレゼントすればいいのか分からなかったのだ。
聞いたとしても多分「気持ちだけで十分ですよ♪」という返事が返ってくる。
そこで僕はノープランで街をブラブラしようと巫子をデートに連れ出し、反応を見ながらプレゼントするものを探すことにした。
「あっ、あれ……」
すると巫子が何かを見つけたのか急に立ち止まる。
「ん? どうしたの?」
「文人さん、あそこに行ってみたいんですけど……」
巫子が指差した先にあったのは、ゲームセンターの入り口に置いてあるUFOキャッチャーだった。
「ゲームセンターかあ。意外だね?」
「はい。小さい頃から楽しそうだなあって気になってはいたんですけど、何となく入り辛いと言うか怖い感じがして……」
その言葉通り巫子は興味半分、不安半分という顔をする。
確かにゲームセンターって音楽やゲームの音が大きいし、柄の悪い人が集まるイメージがあるからなあ。
でもそれは昔の話、最近は高齢者で通う人が増えているくらい安心して遊べる場所になっている。
僕も舞子と付き合っていた時にカラオケやボーリングのついでにここに寄り、夕食を賭けて何度も勝負したものだ。
「私1人じゃ心細いので一緒に行ってもらえませんか?」
「いいよ。じゃあ入ろうか」
「はい♪」
僕はオッケーすると巫子と一緒にゲームセンターに入った。
◆◆◆
ゴトンッ!
「やった! 取れました♪」
「おめでとう! 今日が初めてなのに凄いよ」
UFOキャッチャーの4度目のチャレンジで、ゆるキャラの小さな人形を取れて大喜びする巫子に僕は拍手を送る。
「ありがとうございます。文人さんが上手に教えてくれたおかげです♪」
巫子は中で流れているアップテンポな音楽につられたのか、入る前におどおどしていたのが嘘のように大はしゃぎしていた。
僕は巫子にゲームセンターの中を案内をしながら、メダルゲームや音楽ゲーム、シューティングゲームに格闘ゲームと様々なゲームの遊び方と操作を教えていった。
一番印象に残ったのはエアホッケー。
僕が打ったパックを追いかける度に、巫子の大きな胸が僕の正面で右に左に揺れ動く。
さらにスマッシュを打とうと前かがみになった時は谷間まで見え、目のやり場に困った僕は終始ドギマギしていた。
巫子の胸は見慣れてるはずなんだけど、シチュエーションの力って大きいんだなあ。
「さて文人さん。次は何をやりましょう?」
「そうだねえ……」
取った人形をハンドバッグにしまう巫子に尋ねられ、僕は周りを見回す。
「後はパンチングマシーンと……お?」
すると有名なキャラクターがカートに乗ってレースをするゲームの機械を見つけた。
「レーシングゲームとかどうかな?」
「あ! それ友達の家でやったことあります! しかもゲームセンターはコントローラーじゃなくて車の運転席みたいな機械なんですね!」
馴染みのあるゲームだからか巫子のテンションが上がる。
「しかも私、このゲーム凄く得意なんですよ♪」
「へえ? じゃあ僕と勝負してみる? 負けた方が勝った方にジュースを奢るってことで」
「望むところです! それじゃあ早速やりましょう♪」
自信満々の巫子に続いて僕は運転席に乗り込むと、お金を入れてキャラとコースを選択した。
巫子には悪いけど、コントローラーと運転席では全く勝手が違うし、僕は今まで何度も舞子と対戦した経験がある。
ここは勝って彼氏としての威厳を示させてもらうよ!
「巫子、手加減しないから覚悟しててよ!」
「……」
「ん? 巫子ー」
スタート直前、僕は大人げなく軽く巫子を挑発したが、巫子は何も反応せず無言でゲームの画面を見つめていた。
巫子が僕の言葉を無視するなんて珍しいな。
雰囲気も何だかいつもと違うし。
『3……2……』
「おっと? 始まるな」
僕は不審に思ったが、スタートのカウントダウンが聞こえ慌てて画面に視線を戻す。
負けられない勝負だから集中してたのかな?
『1……GO!』
「ロケットスタァァァァァァト!!」
「えええええっ!?」
するとスタートした瞬間、別人のように気迫溢れる表情をした巫子が大声で叫びながらスタートダッシュを決めて先頭に飛び出した。
「いけいけいけいけいけえっ! ドリフト&ミニタァァァァァァボ!」
巫子は初めてとは思えない華麗なハンドル捌きで、コーナーを減速するどころか加速する勢いで曲がり2位以降をどんどん引き離していく。
「つ、強い……」
僕は3位と悪くないスタートを切ったのだが、既にもう追いつけないと思う程の絶望を感じていた。
「うおりゃあああっ!! ショートカットォォォォォォッ!!」
さらに巫子は加速アイテムと巧みな技でショートカットを決め、妨害アイテムが届かない距離まで差を広げ独走体制に入る。
「邪魔だどいたどいたどいたああああっ! スリップストリィィィィィィム!」
そしてあっと言う間に最後尾に追いつくと、弾き飛ばすように追い抜いて1周遅れにした。
「お、おい! あの子凄いぞ!」
「プロゲーマーか!? あんなに激しい走りをする奴見たことねえぞ!?」
「しかもかわいい! 終わった後に握手とかしてくれないかなあ……」
すると巫子の走りっぷりを見た近くの客たちが集まってきて騒然とする。
「ゴール!」
「か、完敗だ……」
結局巫子は全てのレースで圧倒的な勝利を収め、全国トップレベルのタイムを叩き出した。
「ふう……」
わああああっ!
「お嬢ちゃん凄かったぞー!」
「いいものを見せてもらった! 感動したよ!」
「俺もゲーマーとして負けてられないな!」
ゲームが終了し巫子が大きく息を吐くと、見ていた周りの客たちから拍手喝采を浴びる。
「えっ? あ、ありがとうございます♪」
普段の穏やかな姿に戻り、見られていたことに気づいた巫子は照れ臭そうにしながら、手を振ったり頭を下げたりして歓声に応えた。
「それにしても凄まじかったなあ……」
僕は呆然としながらその様子を眺める。
こんな闘争心剝き出しの荒々しい巫子を初めて見たよ……。
巫子ってもしかして……ハンドルを握ると人格が変わるタイプなのかな?
こうして巫子の雄姿はこのゲームセンターの伝説として語り継がれ、僕は将来巫子と車で出掛ける時に、必ず僕が運転することを決めたのだった。
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