第26話 初任給を貰ったので巫子にプレゼントを買うことにしました

「さらばだ諸君! 次の配信も絶対見てくれよな♪ ……ふう」

 4月25日夜の真白の部屋、配信を終えた巫子が大きく息を吐く。


「はい。オッケーです。お疲れ様でした! 文人さん文人さん、今日も頑張ったので褒めてください♪」


「うん。見てたよ。よく頑張ったね」

「えへへ♪」

 そして僕に駆け寄って甘えてくると、僕は巫子に労いの言葉をかけながら頭を撫でてあげた。


「2人ともお疲れ様。今日も大盛況だったわね♪」

「真白もお疲れ」

「お疲れ様でした♪」

 すると前回と同様に僕と一緒にモデレーターをしていた真白が声をかけてくる。


「文人、今日はいい仕事してたわね。前回に比べてかなり手際が良かったし、おかげでコメント欄がほとんど荒れず自分の仕事に集中できたからとても助かったわ♪」


「ありがとう。困った時は真白が何とかしてくれるって思ってたし、2回目で落ち着いて作業できたのが良かったかな」

 真白に褒められ、僕は自分が成長した実感と嬉しさで胸がいっぱいになった。


「今日は特に反省することはないし、2人共もう帰っていいわよ」

「分かりました。じゃあ文人さん、着替えてくるので待っていてください♪」


「うん」

 巫子がアマテラス司の衣装から普段着に着替えるため脱衣所に向かう。

 

「……あ、そうだ」

 待っている間何をしようかと考えていると、真白が何かを思い出したような声を出した。


「えーっと確かこの辺に……」

 真白は作業机の引き出しを開けてゴソゴソと何かを探し始める。


「あった。はい文人、これを渡しておくわ」

 そして中から取り出した白い封筒を僕に渡してきた。

 その封筒の表面には「給与明細」と書かれている。


「給与明細?」

「そうよ。うちは25日が給料日だから」


「あ、そうなんだ? 開けて見てもいい?」

「いいわよ♪」

 真白から許可を貰った僕は封筒を開けて明細を取り出した。

 まあ僕はまだ研修中だし、金額は期待できないけどね。


「……んんっ!? ねえ真白、この金額間違ってない?」

「いいえ、間違ってないわよ♪」

 しかしそこに書いてあった数字に僕は驚き、それを見た真白が「狙い通り」とばかりに悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「でも支給額の合計が……30になってるよ?」

 そう。基本給の15万円に加えて、仕事の成果に応じた出来高として15万円が支給されていたのだ。


「僕、15万円も追加で貰える程の働きはしてないと思うんだけど……」

「じゃあ文人、ここで一度研修の復習でもしてみよっか?」

 僕が戸惑っていると、真白の顔が真面目なものになり口を開いた。


「ねえ文人。仕事とは何かしら?」

「何って……働いてお金を貰うことでしょ?」


「少し違うわね。厳密には『人の役に立ってお金を貰うこと』よ」

「人の役に立つこと?」

 今一つ違いが分からない僕は首を傾げる。


「文人も前回の配信の後に言ってたじゃない? 『お金と影響力は巫子が頑張って人の役に立ったことに対する報酬だ』って」


「ああ、そうだったね。あの時は頭にきてて夢中で言ったから忘れてたよ」


「他で言えば食べ物がほしい人に食べ物を与え、髪を切ってほしい人の髪を切り役に立つことでお金を貰うことが仕事。お金を貰わなければそれはボランティアになるし、誰の役にも立たないことならそれは遊びになる。これは分かるわよね?」


「うん。分かるよ。例えばテレビゲームは昔は遊びだったけど、今はプロゲーマーやゲーム実況でお金を稼ぐ人が出てきて、仕事として認められてきてるよね」


「そして文人の仕事は私と巫子の補助、それには私と巫子が気分良く仕事できるようにすることも含まれる。そうよね?」


「そうだね。初日に肩を揉まされた時に言ってたね」

 確認するように尋ねてくる真白に僕は1つ1つ頷いていった。


「実は巫子が文人と付き合ってから、動画と配信で紹介した小説が『全部』1週間以内に小説投稿サイトの週間『総合』ランキングトップ3に入るくらい小説を見極める力が上がってるの♪」


「えっ!? そうなの!?」

 真白から告げられた事実に僕は驚愕する。


 後に書籍化や人気作になってるのは知ってたけど、順位とか細かいところまではチェックしてないから、そこまで凄いことになってるとは思わなかった。


「おかげで紹介依頼の金額がどんどん上がってるし、他の仕事の効率も上がって最近は私の仕事を手伝えるようになって私の負担も減った。文人の愛が巫子を覚醒させたの。この1ヶ月で増えた利益と文人の貢献度を計算するとこの金額になったのよ♪」


 その増えた利益が相当なものだったのか、真白は笑いが止まらないという表情をした。


「でも僕自身は研修を受けて巫子とイチャイチャしてただけだし、今聞いた感じだと巫子が頑張ったことによる成果なんだから、僕じゃなくて巫子に還元すべきじゃないかな?」


「文人、さっきの繰り返しになるけど、仕事で重要なのは『何をやったか』じゃなくて『どれだけ役に立ったか』よ。文人は巫子とイチャイチャしていただけのつもりでも、それが巫子に良い影響を与えて多くの人を楽しませ役に立つことに繋がった。私が求めた仕事に対して最高の結果を出したのよ。だからそれに応じたお金を受け取る権利があるの」


「うーん……」

 真白の言ってることは分かるけど、それでも働いた実感がない僕は『いいのかなあ?』と思ってしまう。


「どうしても気が進まないなら、日頃尽くしてくれてる巫子にプレゼントでも買ってあげたら? 文人にとっては巫子が稼いだお金なんだし、受け取れないと私に返すよりもその方が巫子が喜ぶわよ?」


「……うん。そうだね。ありがとう。そうするよ」

「お待たせしました♪」

 僕は真白に促されるまま受け取ることを決めると、着替えを済ませた巫子が脱衣所から戻ってきて一緒に僕の部屋に帰った。

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