第25話 巫子が通販でエロ本を買ったので腹を割って話し合うことにしました
ピンポーン♪
「ん? 誰だろう?」
翌日の午後、無事に熱が平熱まで下がり風邪が治った僕は、巫子と一緒に部屋でのんびりしていると突然部屋のインターホンが鳴った。
「あ、きましたね。はーい♪」
僕が首を傾げていると巫子には心当たりがあるらしく、返事をして立ち上がり玄関に向かう。
「――はい。ご苦労様でしたー♪」
玄関から巫子の労う言葉が聞こえてくると、訪問者は3分も経たないうちに帰って行った。
宅配業者かな?
「やっと届きました♪」
僕の予想通り、戻ってきた巫子は有名通販会社のロゴが印刷された薄い長方形の段ボール箱を持っている。
「巫子、何か買ったの?」
「はい。この前気になる本を見つけたので注文しちゃいました。さっそく今から読んでみますね♪」
巫子が上機嫌で段ボール箱を開けて中に入っている本を取り出した。
巫子が気になる本なら、きっと面白いんだろうなあ。
読み終わったら貸してもらって僕も読んでみるか。
「……んんっ!? あ、あのー巫子さん?」
しかし出てきた本のジャンルが思っていたのとは違い、僕は眉をひそめる。
「はい。何ですか?」
「今からその本を読むの?」
「そうですけど……何かおかしいですか?」
「だってさ、その本のタイトル言ってみてよ?」
「はい。『毎晩ヤりたい! パートナーを快楽の虜にする変態プレイ100選』♪」
「よく言えました……」
黒髪ロングの大和撫子である巫子には全く似合わない、卑猥な言葉に僕は褒めながら目眩を覚えた。
「何で……エロ本なんか買おうと思ったの?」
しかもタイトルが「毎晩ヤりたい」とか「変態プレイ」とか、何か僕に対するメッセージを感じる。
巫子の答え次第では腹を割って話し合わないといけないな。
「もしかして……僕との夜の営みに不満がある?」
「ありませんよ? でも、もっといろいろなことをした方が楽しいかなと思いまして、先人の知恵を借りてみることにしました♪」
「だからってエロ本を参考にするのはどうなんだろう……」
巫子は後ろめたさを一切感じない明るい笑顔で僕の質問に答えた。
巫子はエッチなことにも勉強熱心で僕と付き合ってからの約1ヶ月、ご奉仕系を中心に基本的なことを一通り経験した。
僕は経験豊富ってわけじゃないし、次は何を教えようか悩み始めていたところではあるけど……。
「うわあ……凄い。見たことも聞いたこともない世界が広がってます。さすが探求者が書いた本ですね。想像力豊かでまるで芸術品を見ているみたいです……」
僕が唖然としていると巫子がエロ本を僕にも見えるように座卓テーブルの上に置き、開いて読み始めると未知との遭遇をしたような圧倒された顔をする。
こういうのって女性に何かをするものが多いし、自分もこうなるのかと思うとそんな顔にもなるよね。
まあ彼氏の前で堂々とエロ本を読む彼女もなかなか強烈だけど。
「うーん、いきなり痛いものやハードなものは勇気がいりますね。敷居が低そうなのはコスプレ系かなあ? ちなみに文人さんは何か気になるものはありますか?」
「……へ?」
すると巫子が僕に意見を求めてきた。
「い、いや僕は別に……巫子がやりたいものでいいよ」
「文人さん、それではダメなんです」
僕が無難な答えでかわそうとすると、巫子の表情が真面目なものになる。
「私、昨日文人さんの全てを受け入れたいと言ったのを覚えてますか?」
「もちろん覚えてるよ」
「文人さんは優しいので、夜の営みの時に私に遠慮しているように見えるんです。でも私は文人さんの彼女ですから、文人さんの中に眠っているケダモノを解放して存分に暴れさせてあげます♪」
「いや解放させなくていいから! 変に拗らせるくらいなら一生眠らせておくよ!」
僕への愛が暴走し、事実上のセクハラをしてくる巫子を僕は窘めた。
「大丈夫です。何を言っても絶対に引きませんから、恥ずかしがらずに正直に言ってみてください♪」
「いや無理! 恋人でも急には踏み込んではいけない部分があるというか、最低限の礼儀や遠慮は必要だと思うよ!」
しかし巫子は彼女の使命感からか、穏やかな笑みを浮かべながらも全く引き下がろうとしない。
いくら相手が巫子でも、自分の中のどす黒い欲望をそう簡単に暴露できるか!
「それならこうしましょう。今夜はこの本を適当に開いたところに書いてあることをするということで♪」
「まあ……それならいいかな?」
「ありがとうございます♪」
すると巫子が妥協案を出し、僕がオッケーすると中身が僕に見えないように本を持つ。
「文人さん、1から100の間の好きな数字を言ってください」
「うーん……じゃあ82」
「82ですね♪」
僕が意味もなくたまたま頭に浮かんだ数字を言うと、巫子がパラパラとエロ本を捲った。
タイトルに「変態プレイ」って書いてあるけど、どれくらい過激なことが書いてあるんだろう?
どうせなら恥ずかしくて頼めないくらいの、強烈で興奮するものがいいなあ。
巫子が赤面して提案したことを後悔するようなものも悪くない。
「……あら♪」
すると僕の期待は外れたのか、巫子は何やら微笑ましいものを見たような顔をする。
「ん? 何? どんなページが……ぶっ!」
巫子の横からエロ本を覗き込むと、僕は思わず吹き出してしまった。
大人サイズのベビー服を着た、口にはおしゃぶり、首周りにはよだれ掛け、股間にはオムツを着けた男性が、保育士のような格好をした女性に抱かれて、おもちゃのガラガラであやされている。
いわゆる「赤ちゃんプレイ」のページだった。
しまった! もしかしてあれか! 82だけに
「じゃあ今から、おしゃぶりとよだれ掛け、哺乳瓶に粉ミルク、オムツとベビーパウダーを買ってきますね♪ 文人さんは病み上がりなのでお留守番をして待っていてください♪」
「巫子! ちょっと待って! もしかして今日の夜、僕が赤ちゃんになって巫子にオムツを替えてもらう感じ!? 嫌だよ! 恥ずかしいよ! 大人の男としての尊厳が木っ端微塵だよ!」
エロ本を閉じて楽しそうに出掛ける準備を始める巫子を僕は慌てて止める。
「いいじゃないですか? 将来子供が生まれた時のための練習になりますし、少し前に妻にとって夫は1人目の子供という話をしたじゃないですか♪」
「いやそれは例え話であって本当に子供になるわけじゃないから!」
「……ダメですか? わがままを言ってるのは承知ですけど子供ができるのはまだまだ先ですし、せめて気分だけでも味わってみたいんです」
「うっ……」
しかし寂しそうな表情で頼み込んでくる巫子を見て、僕は心が痛み言葉に詰まってしまった。
「よ、よし分かった。でも1つだけ条件がある。僕だけじゃなくて巫子も赤ちゃんになって!」
「ええっ!?」
何とか回避できないかと、僕が苦し紛れに言った条件に今度は巫子が動揺する。
「僕も将来父親になるんだからオムツを替える練習をした方がいいし、巫子がケダモノになった僕の姿を見たいと言うなら、僕だって巫子の恥ずかしい姿やはしたない姿を見たい!」
「あうう……」
その時のことを想像したのか巫子の顔が赤くなった。
よし! 形勢逆転だ!
ここで助け船を出せば「やっぱり止めよう」という流れに持ち込めるぞ!
「まあ巫子が無理と言うなら、この話はなかったことにしても――」
「わ、分かりました……」
「……へ?」
しかし僕の予想に反して、巫子は恥じらいながらも了承した。
「私が言い出したことですし、文人さんがどうしても見たいと言うなら……いいですよ。そ、それでは行ってきます……」
「あ、あれ?」
「こんなはずじゃ……」と呆然とする僕の横を抜けて巫子が部屋を出て行く。
この日の夜、僕と巫子は交代で赤ちゃんになり甘えながらオムツを替えてもらうという黒歴史級の恥ずかしい姿を晒し合った。
終わった後ベッドの中で「何やってるんだろうなあ……」と僕は自分たちのバカさ加減に呆れた。
でも「こんなこと巫子以外の人とは絶対できないだろうなあ」と、まるで2人で力を合わせて困難を乗り越えたような、絆の深まりを感じるとても充実した幸せな時間だった。
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