第22話 酔った勢いで真白が僕の恋人2号になると言い出しました
「文人ー、抱っこしてー」
「やっぱりこうなったか……」
1時間後、真白は見事なまでに泥酔していた。
結局あれから真白は缶ビール6本のうち5本を飲んだ。
アルコールは人間の理性を弱め隠された本性を現すとよく言うが、真白も例外ではなかったらしい。
少し前に巫子がトイレに行くと言って離席し真白と2人きりになると、真白はあぐらをかく僕の膝の上に乗りベッタリとくっついて甘えてきた。
いつものクールで一匹狼な姿は影も形もなく、甘えん坊の美少女と化していた。
……あれ? それって凄くいいことなんじゃないか?
「ねえねえ文人、頭撫でてー」
「はいはい」
しかし自己主張が強いところは変わらず、僕は言われるまま真白の頭を撫でる。
「ふにゃあ……」
すると真白は気持ち良さそうに目を細めながら間の抜けた声を出した。
「うにゅ~」
「うわっ!?」
さらに真白は鳴き声のような声を出しながら、僕の胸にスリスリしてくる。
何だかネコみたいだ。
「いいなあ巫子は、いつもこんな風に文人にかわいがってもらえて」
「そりゃあ付き合ってるからね。彼女の特権だよ」
「むう……」
僕が諭すと真白は不満そうに口を尖らせた。
というか今まで何とも思ってないような感じで僕たちをからかっていたけど、本当は羨ましいと思っていたのか。
「真白も彼氏を作ってイチャイチャすればいいじゃないか? 真白ならその気になればすぐにできるでしょ?」
「うーん……でも探すのが面倒だし、自分の時間が減っちゃうからなあ」
「いや面倒とか言ってたら一生恋愛なんてできないよ?」
全くその気がない様子の真白に僕は呆れる。
「ちなみに真白はどんな人がいいの?」
「そうねえ……一緒にいて楽というか手のかからない人がいいなあ。私、依存や束縛されるの嫌いだし」
「あはは、真白らしいなあ」
「どこかに私の好きにさせてくれて、甘やかしてくれる都合のいい男いないかなあ。
……そうだ!」
僕が相槌を打ちながら話を聞いていると、真白が何かを思いついた。
「ねえ文人。2番目でいいから私も文人の彼女にして?」
「ええっ!? ぼ、僕!?」
いきなりとんでもないことを言い出す真白に僕は驚きの声を上げる。
「文人ならすぐに会えて面倒は巫子が見てくれるし、優しくて見た目も悪くないから。うん。いいアイデア♪」
「ダ、ダメだよ! それ浮気だし!」
名案とばかりに頷く真白に僕は即座に反対した。
「えー? いいじゃない? 巫子のついでに少しだけ構ってくれるだけでいいし、恋人を2人作ることは法律で禁止されてないから」
「いや、だからって……」
「文人お願ーい、だーい好き♪」
しかし真白は諦めず食い下がり懐いてくる。
「ま、真白、ふざけるのもいい加減に……」
「あらあら? 恋人だなんて2人共いつの間にそんなに仲良くなったんですか♪」
「うわっ!? み、巫子!?」
僕が戸惑っているとトイレを済ませた巫子が戻ってきた。
「ダメですよ真白さん、確かに恋人を2人作ることは法律で禁止されていませんけど結婚は1人としかできませんから♪」
巫子は顔こそ笑っているものの、その背後に強烈な敵意と嫉妬のオーラを放っている。
こ、怖い……。
「2番目とはいえ文人さんの恋人になると言うなら、私は真白さんを敵と見なします。とりあえず今日で真白さんにご飯を作るのは終わりにしますね♪」
「ああん、それはダメ。嘘嘘冗談よ♪ 文人の恋人は巫子しかいないに決まってるじゃない♪」
「変わり身早っ!」
巫子の脅しに真白はあっさりと屈し、僕から離れ巫子に擦り寄った。
さすが巫子、あの真白を簡単に退けるとは。
どうやら胃袋を掴むのは異性だけでなく同性にも有効なようだ。
いや、いつものようにからかってきただけかな?
しかしこの年(22歳)で色気より食い気か。
巫子によると土日もほとんど外に出ないらしいし、真白に恋人ができる日はくるのだろうか?
「あ……」
すると真白が突然ブルっと体を震わせた。
「ん? どうしたの?」
「おしっこしたい……」
「そりゃあ、あんなに飲んでたらね」
「トイレ行ってくるー」
「はいはい。行ってらっしゃい」
ガッ
「あらっ?」
「っと、危ない」
真白が巫子から離れて歩き出そうとすると、足がもつれたのか転びそうになり傍にいた僕は慌てて抱き止めた。
「大丈夫? 足下フラフラじゃないか? ほら、肩貸してあげるから」
「ありがとー」
僕は真白が倒れないように支えながら体を反転させ、肩を組むように真白の右腕を僕の首にかけ左手を真白の腰に回す。
「巫子、真白をトイレに連れて行くから荷物番よろしく」
「分かりました。人が多いので気を付けてくださいね」
「うん」
僕は心配そうにする巫子に見送られ、真白と共にトイレへ向かった。
◆◆◆
「うわあ……」
トイレに着くと女子トイレの前には20人近い行列ができていて、それを見た僕は唖然とする。
これ、順番が回ってくるまで30分以上かかるんじゃないか?
「ま、真白? 今から30分我慢できる?」
「無ー理ー」
トイレに向かう間にさらに酔いが回ったのか真白の声に力がなく、もたれるように僕に体を預けていた。
「もう適当にその辺でするう。人気のないところに連れてってえ」
「えええ……マジで?」
僕は正気かと疑ったが、この状況ではそうするしかないと諦めてこの場を離れた。
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