第21話 お花見をしていると舞子が現れて真白とご対面しました

 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ!


「ぷはあ、久しぶりに飲んだけど最近のビールは美味しいわね♪」


 バクバクバクバクバクッ!


「お弁当の味も良き良き。さすが巫子、また腕を上げたわね。これも愛の力かしら♪」


「相変わらず凄いな……」

「凄いですね……」

 小さな体に似合わない、真白の豪快な飲みっぷりと食べっぷりに僕と巫子は圧倒される。


 18時、市内にある国立公園で予定通り僕の歓迎会を兼ねたお花見が始まった。


 ここは日本でも有数の桜の名所で、僕たち以外にも家族連れや学生、会社の行事と思われる社会人まで数多くの人が訪れていた。


 僕と真白は巫子が福引きで当てた缶ビール、巫子は紙コップに入れたジュースで乾杯したのだが、桜を見ていたのは最初の5分くらい。


「ねえねえ文人、何か面白いことやって?」

「ええっ!? いきなりそんな無茶振りされても無理だよ! しかも何をやってもスベりそうな雑な振り方してくるし!」


「えー? 文人のケチ。じゃあ巫子でもいいわ。歌うとかエロいこととか何でもいいから私を楽しませて?」


「い、嫌ですよ! 恥ずかしいし周りの人の迷惑になりますから!」

 その後は今のように真白が暴飲暴食やパワハラと好き放題やり始め、いつも変わらない光景が繰り広げられている。


「むー、つまんない。じゃあ実力行使だー」

「きゃっ!? ちょっ、ちょっと真白さん!? スカートを捲ろうとしないでください!」


「よいではないかー、よいではないかー。今日の巫子のパンツは何色かなー♪」

「もう止めてくださいってば!」


「君たち、ちょっといいかな?」

 悪ノリした真白が巫子とじゃれていると、見回りできていると思われる20代後半くらいの男の警察官が僕たちに声をかけてきた。


「は、はい。何でしょうか?」

 僕は「何か悪いことでもしたかな?」と緊張しながら警察官に返事する。


「君たち学生? ビールを飲んでるみたいだけど成人してるのか? 特に白い髪の小さい子。身分証を持ってるなら見せてもらいたいんだけど?」


「ああ、はい……」

「わ、私は未成年ですけど飲んでないですよ」

 僕たちは素直に警察官の指示に従い、財布から免許証やマイナンバーカードを取り出して渡す。


「ふうん? まあいいだろう。でも未成年の子もいるし遅くなる前に帰るように、いいかな?」


「は、はい。分かりました」

 警察官は怪訝な顔をしていたものの、僕たちの身分証や周りの状況を見て不問にすることにしたらしく、僕に3人の身分証を渡すと見回りに戻って行った。


「あービックリした……」

「ちょっとドキドキしましたね」

 警察官がいなくなり僕と巫子がホッと息を吐く。


「二人ともビビり過ぎよ。何も悪いことはしてないんだし、言いがかりをつけてきたら相手の不手際を指摘して逆に脅してやればいいのに♪」


「真白、僕たちは真白みたいに肝が据わってないんだよ。それにどんな形であれ警察と揉めるのは勘弁だ」


 不敵な笑みを浮かべ、からかってくる真白に僕は呆れる。


「……っと、そうだ。2人共、身分証を返すね。はい巫子」

「ありがとうございます♪」

 僕は身分証のことを思い出し、重ねられた3枚のうち一番上にあった巫子のマイナンバーカードを渡した。


「これは僕ので……ん?」

 次に真ん中にあった僕の免許証を財布にしまい、残った真白の免許証を返そうとすると、気になる点を見つけ僕は眉をひそめる。


真島まじま……白?」

「ああ、真白は仕事で使ってる名前でそっちが本名なのよ」


「あ、そうなんだ?」

 僕の気持ちを汲み取ったのか、真白は免許証を受け取ると僕が尋ねる前に答えた。


 多分、本名を適当にもじって考えた名前なのだろう。


「……ん?」

「ちょっと文人!」


 ガッ!


「ぐふっ!?」

 僕は一瞬、何だかよく分からない違和感を抱き、首を傾げ心当たりを探していると、突然後ろから誰かに首根っこを掴まれ思考が中断される。


「だ、誰だ!? ……げっ! 舞子!?」

 振り向くとそこに立っていたのは、巫子の姉であり僕の元カノでもある舞子だった。


「ど、どうしてここに……」

「たまたまあたしも会社の花見できてて、買い出しの帰りに近くを歩いてたら警察官と話してるあんたを見つけたのよ!」


 舞子の言葉通り、僕を掴んだ反対の手には缶ビールやアイス、スナック菓子などが入ったコンビニ袋が握られていた。


「いったい何をやらかしたの! まさか巫子に無理やりエッチなことをしようとしたんじゃないでしょうね?」


「な、何もやらかしてないよ。缶ビールを飲んでたら成人してるかどうか尋ねられただけだよ。ほら、巫子は未成年だし」

 僕は凄い剣幕で追及してくる舞子を宥める。


 というか無理やりどころか、むしろ巫子から毎晩エッチなことをおねだりされてます。


「どうだか。あたしと付き合ってた時いつもエッチな目で巫子を見てたし、あわよくばと思ってたんじゃないの?」


 舞子は僕に疑いの目を向け続けるものの、とりあえず引き下がり僕を掴んでいた手を離した。


「見てないよ。それに僕と巫子は付き合ってるんだから、あわよくばと思うこと自体は別にいいだろ?」


「ふん。……あら? 見ない顔ね? どちら様?」

 すると舞子が真白の存在に気づく。


「巫子のお姉さん初めまして。文人のペット2号の真白です♪」

2!?」

 真白はニヤニヤしながら面白がるように、舞子を刺激する爆弾発言を放り込んだ。


「ちょっと文人! まさか巫子公認で他の女に手を出したの!? しかもこんな小さい子! さらにペットってどういうことよ! もしかして巫子を家で動物みたいな扱いをしてるんじゃないでしょうね! このロリコンクズ男!」


 真に受けた舞子の顔が先程よりも険しくなり、今度は僕の胸ぐらを掴む。


「こら真白! 嘘を言って話をややこしくするんじゃない! この人は僕の仕事仲間なんだよ」


「仕事仲間?」

「どうも。巫子と文人が働いている会社の社長の真白です。ちなみにあなたと同い年よ♪」


「え? 社長!? 同い年!? ……ああ、そういうこと」

 舞子は最初こそ驚いていたものの、しばらくすると理解したのか納得するように頷いて僕を掴んでいる手を離した。


「あなたが起業した会社に巫子が入って、さらに巫子の紹介で文人が入ったのね。おかしいと思ったのよ。今まで就職できる気配が全くなかった文人が急に仕事が決まったとか言うから。ちなみに何をやってるの?」


「そうね。一言で言えばネットビジネスかしら?」


「ふうん? ちなみに従業員は何人? 見たところあなたたちしかいないようだけど?」


「私たちだけよ。少数精鋭で無駄のない会社を目指してるから♪」


「さ、3人!? あなたふざけてるの!? ビジネスはルールがある戦争よ!? お金と人数が多い方が有利なのに従業員は巫子と文人の2人だけ!? そんな学校の同好会みたいな会社で勝てると思ってるの!? 他人事ながら心配になるわね……」


 真白の説明を聞いた舞子が唖然とする。


 ちなみに舞子の仕事は大手自動車メーカー本社の受付業務。

 規模の大きさで働く会社を決めた舞子には信じられない選択なのだろう。


 ピリリリリリッ!


「ん? 何かしら?」

 すると舞子の服のポケットからスマートフォンの着信音らしきものが聞こえた。


「……うわっ!? 先輩からだ。もう面倒臭いわねえ……」

 舞子がスマートフォンを取り出して画面を見ると、嫌そうな顔をして舌打ちする。


「まあいいわ。起業するってことは大企業に潰される覚悟ができてるってことだし、あなたの好きにすればいいと思うけど、巫子が多額の借金を背負ってあたしに迷惑をかけることだけはないようにしなさいよ? ……はい、もしもし? すみません。ちょっと道を間違えてしまって――」


 舞子は話を切り上げると、電話に出て相手に謝りながら去っていった。


「面白い人ね。私たちは別に何十億も稼ごうとしているわけじゃないし、ネットと影響力というがあるから少人数でも大丈夫なのに。さらに商品の仕入れがないから無一文にはなっても借金ができることはない。的外れにも程があるわ♪」


 舞子に言いたい放題言われたにも関わらず、真白は全く気にしないどころか笑みを浮かべる。


「それに勝つために必要なのは強さではなく生き残る知恵。歴史上の有名な戦争がそのことを何度も証明してるのに、大きな集団に入っただけで勝った気になるとか笑っちゃうわ。ああいう人間を見てるとその鼻っ柱をへし折りたくなるわね♪」


「ま、真白さん? 失礼なことを言ったのは私が代わりに謝りますから、お姉ちゃんを虐めたりしないでくださいね? 血は繋がってないですけど姉妹ですから……」


 真白が獲物を見つけたように目をキランと光らせたのを見て、危険な雰囲気を感じたのか巫子が窘めるように釘を刺した。


「まあ、ああいう気の強い人間は論破したところで決して自分の間違いを認めないし、然るべき時に身をもって思い知ってもらうことにするわ♪」


 プシュッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ!


「うまー♪」

 真白は意味深に笑うとレジャーシートの上に腰を下ろし、新しい缶ビールを開けてまた飲み始めた。

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