第7話 朝を迎え巫子が家に帰りたくなさそうだったので同棲することにしました

「ん……」

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、眩しく思った僕は目を覚ました。


「ん~っ!」

 僕は体を起こすとグーッと伸びをして寝ている間に硬くなった体を解す。


「何だかとても目覚めの良い朝だ」

 熟睡できたのか頭の中がとてもスッキリしていて、体も軽く感じ何かいいことがあった後のような幸せな気分がする。


「何でこんなに気分がいいんだろう?」

 何かいい夢でも見てたっけ?


「すう……すう……」

「ん?」

 僕が何か心当たりがないか探していると、近くから何かの音が聞こえてきた。


「すう……すう……文人……さあん」

「え、ええっ!? み、巫子ちゃん!?」

 音がする方を向くと、僕の左隣で巫子ちゃんが僕の名前を呼びながら幸せそうに寝息を立てていた。


「な、何で巫子ちゃんが僕と一緒に寝てるんだ!?」 

 僕は何があったんだと動揺しながら昨日の記憶を辿る。


「あ、そうだ。昨日巫子に告白されて付き合うことになったんだった……」

 その後一緒に夕食を食べ、そのままお泊まりすることになり一夜を過ごしたんだ。


「……」


 むにっ


「痛い……良かった。夢じゃない」

 状況を理解した僕はとりあえず指で自分の頬をつねり、ホッと安堵の息を吐く。


 だって登録者100万人の人気VTuberアマテラス司に告白されて、さらに一緒に仕事することになったんだぞ?


 しかもその正体は舞子の妹で、僕にはもったいないくらいにかわいいSSS級大和撫子の巫子。

 そしてその日のうちにベッドイン。


 これらのことが1日のうちに全て起こったら、誰でも夢じゃないかと疑うだろう。


「んん……」

「ん?」

 僕は巫子が呻くような声を出したことで巫子の寝顔に意識を向ける。


「うゆ……」

「かわいい寝顔だなあ」

 巫子の寝顔を見て思わず僕の頬が緩む。


 こういう無防備というか安心して寝ている姿が、僕に心を許してくれている感じがしてとてもいい。


 何時間でも見ていられるなあと思うと同時に、僕の中にある悪戯心が顔を出した。


「ほっぺたをツンツンしてみよう」


 ふにふに


「んにゅ……」

 僕が右手の人差し指で巫子の頬を軽く突いてみると、巫子が少しくすぐったそうにもぞもぞと動いた。


「おお! 柔らかい」

 まるで赤ちゃんのように瑞々しい、巫子のほっぺたの感触に僕は軽く感動する。


「面白いな。もう一回突いてみよう」


 ふにふに


「ううん……」

「お?」

 するとまた巫子が小さく唸る様な声を出し、その後ぼんやりと目を開いた。


「文人……さん?」

「うん。おはよう巫子」


「……っ!」


 バッ!


「えっ!? み、巫子?」

 巫子は僕と目が合うと何故か恥ずかしそうに布団を被り、顔を半分隠してしまった。


「み、巫子? 何で隠れちゃうのさ?」

「ご、ごめんなさい。文人さんの顔を見たら昨夜のことを思い出して、どんな顔をすればいいのか分からなくなってしまって……」


「ああ」

 どうやら僕に抱かれて乱れている時の自分を思い出して照れ臭くなったようだ。


「私、変な声を出したり、はしたない姿を見せたりしてませんでしたか?」

「大丈夫だよ。何と言うかとても色っぽくて興奮した」

「そ、それはそれで恥ずかしいような……」


「ところで体の方は大丈夫? どこか痛むところはない?」

 複雑な表情をする巫子を見て、僕は話題を変えることにした。


「そうですねえ……はい。どこも痛いところはありません。体調も普段よりむしろ良いくらいです♪」

 巫子は体を起こし、確認するように軽く手足を動かすと元気いっぱいの笑顔を見せてくれた。


「文人さんに抱いてもらっている時も痛かったのは最初だけで、とても素敵な時間でした。男の人に愛してもらうことが、こんなに気持ち良くて幸せなことだったなんて……」


 巫子は昨夜のことを振り返ったように夢見心地な顔をする。


 結局、巫子と上手くできなかったらどうしようという心配は杞憂だった。


 いざ始めてみると、まるで僕と巫子が心を共有しているかのように、お互いに何をしたいか、何をしてほしいかが言わなくても手に取るように分かった。


 僕たちはそれに従うだけで良く、長年連れ添っているパートナーのように自然に愛し合い一つになることができた。


 体の相性の良さも想像以上で、僕たちは肌を重ねた瞬間に人間の皮を被った獣と化した。


 隣の部屋の真白に聞こえるかもしれないことなどお構いなしで、大声で叫び、喘ぎ、汗だくになるくらい夢中でお互いの体と快楽を貪った。


 最後の方は記憶がなくなり気づいた時には既に終わっていて、ただただ気持ち良かったという欲望が満たされた充足感と、この後グッスリ眠れそうな心地良い疲労だけが残っていた。


 巫子もとても満足そうにしていて、文句のつけようがない内容だった。


 舞子の時は舞子の反応を見ながら、ああでもないこうでもないと四苦八苦していたのに、巫子の時は何も苦労せず簡単に上手くいく。


 これが相性の良さで、こんなに差が出るものなのかと僕はその重要性を実感した。


「どうしましょう。もう私、文人さんから離れられません♪」

「わっ!?」

 すると巫子が幸せそうに僕の左腕に抱きついて頬ずりし、この時僕は直感でこう思った。


 ああ、僕はこの子を抱いたんだ。

 少女だった巫子は大人になり僕の女になったんだ。


 これも舞子と付き合っていた時には感じたことがない感覚で、僕の心に「巫子は僕のものだ! 誰にも渡さない!」と独占欲が湧いてくるのを感じた。


「もう家に帰らず、ずっとここにいたいなあ……」

 そして巫子が少し寂しそうにポツリと呟く。


「じゃあ、このまま僕と一緒に暮らす?」

「いいんですか?」


「うん。狭い部屋で暮らしにくいかもしれないけど、僕も巫子と一緒にいたいからね」


「ありがとうございます! 嬉しいです。これから毎日文人さんのためにご飯を作って、それ以外の家事も頑張りますね♪」

 それを見て僕が軽い気持ちで提案してみると巫子は喜んで受け入れ、僕と巫子の同棲が決まった。


「ちなみに巫子、今日の仕事は?」

「ありません。登録者100万人突破のご褒美として、真白さんが何日か休んでもいいと言ってくれました♪」


「そうなんだ? じゃあ今日の午後にでも巫子の部屋に行って、生活に必要な物を取りに行こうか?」


「はい。じゃあまずは朝ご飯を作るので、文人さんはここでゆっくりして待っていてください♪」

 それに伴い今日の予定が決まり、巫子はウキウキしながら僕から離れベッドを降りる。


 これから毎日巫子と昼は一緒に仕事して、夜は昨日みたいにイチャイチャして24時間一緒にいることができるのか?


 ……最高じゃないか!


「っと、その前に……」

 僕がこれからの幸せな生活に思いを馳せていると、巫子が何かを思い出したように戻ってきた。


「文人さん、おはようございます♪」

 そして僕の頬に手を添えて目を瞑り、おはようのキスをした。


「ふふっ♪」

「……」

 僕は微笑みを残しキッチンに向かっていく巫子を見ながらキスの余韻に浸る。

 ああ、僕は今とても……幸せだ。

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