第8話 荷物の整理をしていると遊びにきた真白に公開処刑されました
「巫子、そこに置いてある物、全部捨てるから袋に入れてくれる?」
「分かりました」
部屋の中央に集めた不要な物を、僕の指示で巫子が分別しながらゴミ袋の中に入れていく。
朝食後、僕と巫子は部屋の荷物の整理をしていた。
巫子と同棲を始めるにあたって、巫子の荷物を置くためのスペースを空ける必要があったからだ。
「ふう、とりあえずこんなところかな?」
ガチャ
「おはー」
「ん?」
作業を始めてから約1時間が経ち、一区切りしたところで真白がやってきた。
「真白か、インターホンも鳴らさずに入ってこないでよ」
「いいじゃない? 仕事仲間なんだし堅いことは言いっこなしよ」
「それだと僕も真白の部屋に無断で入っていいことになるんだけど?」
「別にいいわよ?」
「いいのか……」
「真白さん、おはようございます♪」
「ういっすー」
「……まあいいや。で、何の用?」
マイペースな真白に僕は呆れながら用件を聞く。
「別に、仕事が切りのいいところまで進んだから、気分転換で遊びにきただけよ」
「あ、そうなんですね。じゃあ私たちもここで一度休憩にしましょう。お茶を淹れますね♪」
「うん。よろしく」
巫子は作業の手を止めると、ゴミ袋を邪魔にならないところに置いてキッチンに向かう。
巫子は本当に気が利くなあ。
「ねえ文人」
僕が感心していると真白が僕に話しかけてきた。
「ん? 何?」
「いやあ、昨夜は随分とお楽しみだったようね♪」
「う……」
全てを知っていると言うように、ニヤニヤする真白を見て僕の頭にある可能性が浮かぶ。
「ご、ごめん。もしかして声や音とか聞こえてた?」
「うーん。聞こえてたというか……」
僕が気まずく思いながら謝ると、真白は服のポケットから音楽プレーヤーを取り出した。
『巫子! 巫子おっ!』
『文人さん! 文人さん!』
「聞いてた?」
「うおおおおいっ!? ちょっ、ちょっと待て!!」
そして操作すると僕と巫子の秘密の時間の音声が再生された。
「おい真白! 何だよこれ! どうやってこれを録音した!?」
「昨日の夜この部屋でご飯を食べてる時に、文人と巫子が見ていない隙を見計らってこっそり盗聴器を仕掛けておいたの♪」
「得意気に言うな! プライバシーの侵害で思いっきり犯罪だ!」
「じゃあ警察に通報して私を逮捕してもらう? してもいいけどアマテラス司の動画の投稿が止まって巫子の収入がなくなり、文人も職を失って路頭に迷うわよ♪」
「くっ……」
僕が追及しても全く動じることなく、不敵に笑いながら脅してくる真白に僕は為す術無く歯を食いしばる。
真白の奴、完全に僕たちの足元を見てる。
これがワンマン企業のパワハラか……。
「お待たせしました♪ 何だか騒がしいですね?」
するとキッチンから3人分の紅茶を乗せたお盆を持った巫子が戻ってきた。
「あ、巫子、ちょうど良かった。面白いものがあるから聞いて♪」
「はい? 何ですか?」
首を傾げながら座卓テーブルの上にお盆を置く巫子の隣で、真白がニヤリと笑いながら音楽プレーヤーを操作する。
『文人さん! もっと文人さんの(ピー)で私の(ピー)を(ピー)してええええっ!!』
「きゃああああっ!? 何ですかこれ!? 真白さん止めてくださああああいっ!!」
すると今度は巫子が大声で卑猥な言葉を叫ぶ音声が再生され、聞いた巫子が絶叫した。
「ちなみに巫子、文人が巫子に囁いた愛の言葉をまとめたものもあるけど、いくらで買う?」
「言い値で買います!」
「真白! そこまでだ!」
「あっ!?」
僕はこれ以上好きにさせるものかと、真白が巫子の方を向いている隙に真白から音楽プレーヤーを取り上げる。
「まったく、巫子も真白の甘い誘いに乗らない! 言ってほしいならまた今度その時にいくらでも言ってあげるし、録音した声よりも直接言われた方が嬉しいでしょ!」
「そ、そうですね。ごめんなさい。気が動転していたのでつい……」
そして巫子を諭すと巫子が申し訳なさそうに笑いながら僕に謝った。
「まあいいや、それはコピーでメインのデータは私のパソコンの中にあるから」
真白は痛くもかゆくもないとばかりにすんなりと引き下がる。
くそっ、やはりその辺のことは対策済みか。
「それにしても、音声とはいえ知り合いの生々しい姿を覗くのはなかなか楽しかったわ。背徳感も凄いし、おかげで凄く捗っちゃった♪」
その時のことを思い出したのか、真白が満足そうな顔をする。
何が捗ったのかは、多分聞かない方がいいだろう。
「で、用件はそれだけ? 作業の邪魔だし、気が済んだなら帰ってくれる?」
「まあまあ、からかったお詫びに少しだけ手伝ってあげるから、そんな冷たいこと言わないで♪」
「本当にい?」
渋い顔をする僕に真白が機嫌を取ろうとしてくるが、正直全く信用できない。
「というわけで、まず手始めに……」
すると真白はキョロキョロと僕の部屋を見回したかと思うと、何故かベッドの下に潜り込む。
ってマズい! そこは……。
「ま、真白! ちょっと待った!」
「やった、エロ本ゲットー♪」
「ぐはあああっ!?」
僕は慌てて真白を止めようとしたが時既に遅し、ベッドの下から出てきた真白の手には僕が隠していたエロ本が握られていた。
「ふむ、これは……JKものね」
「こ、これが噂の……初めて見ましたけど、これはなかなか……」
「きっと文人は以前から巫子を邪な目で見て、この写真みたいなことをしたいと妄想していたに違いないわ♪」
「そ、そうだったんですか……ちょっと怖いですけど文人さんなら全然ありです」
「止めてええええっ! 本人の前で僕の性癖について議論しないでええええっ!!」
ニヤニヤしながら見下すような目で僕を見る真白と、興味津々の様子でエロ本を見る巫子に僕は恥ずかしくて死にそうになる。
彼女の前で性癖を暴くとかどんな羞恥プレイだよ!
ああ、もうお婿に行けない……。
「結構コスプレしてる写真も多いわね。巫子、今度家から制服を持ってきて着てあげなさい」
「わ、分かりました!」
「こら真白! 巫子に変なことを吹き込まない!」
いやついこの間まで本物のJKだった巫子の制服姿とか大歓迎だけど!
その状態で誘惑されたら、大興奮して鼻血を吹き出しながら朝までハッスル不可避だけど!
「もう我慢できない! 真白! 余計なことしかしないなら帰って! 退場おおおおっ!!」
「あーれー」
「ま、真白さん!? 真白さーん!」
僕は力ずくで真白の小さな体を抱えると、そのまま部屋の外へ追い出した。
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