第3話 巫子ちゃんに告白されるフラグが次々に立ち僕のテンションが爆上がりしました

 ピリリリリッ!


「ん?」

 翌朝の9時、朝食を食べ終えパジャマから普段着に着替えたところで僕のスマートフォンが鳴った。

 僕はスマートフォンを手に取り、かけてきた人の名前を見る。


「誰だ? ……えっ? 巫子ちゃん?」

 電話をかけてきたのは舞子の妹である巫子ちゃんだった。


 ピリリリリッ!


「何で巫子ちゃんが僕に電話を?」

 巫子ちゃんとは舞子が紹介してくれた時に社交辞令的に連絡先を交換しただけで、実際に電話したことは一度もない。


「まあ出たら分かるか」

 僕は首を傾げながら通話ボタンを押して電話に出た。


「はい。金野です」

「あ、もしもし文人さんですか? 私です。巫子です」


「うん。おはよう巫子ちゃん。巫子ちゃんが僕に電話してくるなんて珍しいね。どうかしたの?」


「あ、あのですね。その、文人さんに聞きたいことがありまして……」

「うん。何かな?」

 聞きづらそうにしている巫子ちゃんの様子から僕の頭にあることが浮かぶ。


「昨日の夜、お姉ちゃんと文人さんが別れたという話を聞いたんですけど……本当ですか?」


「あ、知ってるんだね。うん。別れたよ」

 予想通り僕と舞子についてのことだった。


 舞子と巫子ちゃんの父親は会社の経営者で、今は引退して奥さんと共に海外で生活している。


 その父親の方針で舞子と巫子ちゃんは姉妹でありながら同じマンションの別々の部屋に1人で住んでいる。


 一緒にご飯を食べる日もあれば1度も顔を合わさない日もあるらしく、その関係で今まで知らなかったのだろう。


「ごめんね。僕が頼りないせいで舞子に愛想を尽かされちゃった」

「い、いえ。こちらこそお姉ちゃんが文人さんに酷いことを言ったみたいで……」


「まあ……ね。でも原因は僕にあるし、舞子が言ってたことのほとんどが正論だから仕方ないかな?」


「仕方なくないです! だからと言って何を言ってもいい理由にはなりません!」

 自分は関係無いのに、僕の味方をしてくれる巫子ちゃんの優しさに僕の心が温かくなる。

 巫子ちゃん、いい子だなあ……。


「とにかく巫子ちゃんが謝ることじゃないから気にしないで」


「そ、そうですね。……あ、ごめんなさい。つい感情的になっちゃいました。私が電話したのはその話をしたいからじゃなくてですね……」

 すると突然、巫子ちゃんが思い出したように話題を変えた。


「文人さん、今日何か予定はありますか?」

「いや、ないよ。一日中暇で何をしようか考えてたところ」


「そうですか。実はですね。文人さんに一緒に行ってほしいところがあるんですけど……」

「えっ? それってもしかして……デートのお誘いかな?」


「は、はい。そうとも言います。……あはは、言葉にすると意識して緊張しちゃいますね♪」

 僕のデートという言葉に巫子ちゃんがピクッと反応して照れるように笑う。


 巫子ちゃんピュアだなあ。

 何かこう勇気を振り絞ってるみたいな、初々しい感じがとてもかわいらしくて、僕はほっこりとした気持ちになる。


「それで……どうでしょうか?」

「うん。いいよ。僕で良ければ」


「本当ですか! やった! 嬉しいです!」

 僕がオッケーした瞬間、巫子ちゃんが子どものように大喜びする。

 こういう無邪気なところもかわいいなあ。


「ちなみにどこへ行くの? 待ち合わせ場所や時間は?」


「それは……行ってからのお楽しみです♪ でも文人さんのマンションから近いので、11時に私が文人さんの部屋にお邪魔するのはどうでしょうか?」


「分かった。それでいいよ」

「ありがとうございます! それでは楽しみにしてますね♪」


「うん。また後でね」

 少し疑問が残ったものの、まあいいかと僕は尋ねることなく電話を切る。


 相手は巫子ちゃんだし、騙されるとか酷い目に遭うことはないだろう。

 というか巫子ちゃんになら騙されてもいい。


「ふう……ん? 待てよ」

 一息吐いたところで僕はあることを思い出す。


 昨日の司の占いで、早ければ今日僕のことが好きな女の子に告白されると言っていた。


「ま、まさかその子って……巫子ちゃんなのか!?」


◆◆◆


 ピンポーン♪


「き、きたっ!」

 あれから僕はそわそわして気持ちが落ち着かず、人生で一番長く感じた2時間を過ごすと、11時になり僕の部屋のインターホンが鳴った。


 僕は急いで玄関に向かいドアを開ける。


 ガチャ


「文人さん、こんにちは♪」

 ドアの向こうには巫子ちゃんが眩しいばかりの笑顔をして立っていた。


「こんにちは巫子ちゃん。……って、何? その荷物?」

 すると巫子ちゃんは右手に買い物袋のようなものを提げていた。


「これですか? 実はですね、デートに出発する前にお昼ご飯を作って文人さんと一緒に食べようと思って買い物してきたんです♪」


「え? いいの? じゃあせっかくだしお言葉に甘えようかな?」

 思いもよらぬ巫子ちゃんの申し出に僕のテンションが上がる。


 以前舞子の家に行った時に巫子ちゃんの手料理をご馳走になったことがある。


 その味は絶品で、その時のことを思い出した僕は食欲が湧いてくるのを感じた。


「はい。冷蔵庫の中に何があるか分からないので、簡単なものしか作れませんけど……」


「いいよいいよ。巫子ちゃんは料理上手だし、作ってくれるだけでも凄く嬉しいよ。狭くて使いにくいかもしれないけど、キッチンや冷蔵庫の中のものは自由に使って」


「分かりました。すぐに作るので文人さんは適当に座って待っていてください♪」

「うん。よろしく」

 話がまとまると巫子ちゃんをキッチンに案内し、僕は居間の座卓テーブルの前に腰を下ろす。


「~♪」

「……」

 そして鼻歌を歌いながら楽しそうに料理する巫子ちゃんをぼんやりと眺めた。


「懐かしいなあ。新婚夫婦みたいなこの感じ、舞子と付き合ったばかりの頃もこれくらいラブラブだったのに」

 というか巫子ちゃん、ほぼ間違いなく僕のことが好きで胃袋を掴みにきてるよな?


 巫子ちゃんは優しくて礼儀正しいいい子だし、舞子が僕にした仕打ちに対するお詫びの可能性も0じゃない。


 でも普通は食べてから待ち合わせするか外で食べるかだし、ここまでするのは不自然だ。


 司の占い通り、僕は今日巫子ちゃんに告白されるのだろうか?


 仮に占いが当たるとして、巫子ちゃんは僕の何が良くて惚れたのだろうか?

 舞子の家で数回会って喋っただけなのに。


「巫子ちゃんが彼女かあ……」


『文人さん、大好きです♪』


「……いいな」

 巫子ちゃんが彼女になったところを想像して僕の口元がニヤける。


 実は僕、巫子ちゃんみたいな大和撫子って感じの子めちゃくちゃ好みなんだよなあ。


「しかも巫子ちゃん、よく見ると凄くスタイルいいし」

 僕の記憶の中の巫子ちゃんは、いつもゆったりというか体のラインが分かりにくく肌の露出が少ない服を着ていた。


 しかし今日は白のニットのセーターに、ヒラヒラした膝丈の茶色いチェックのスカートを履いている。


 はっきりと主張してくるセーターの胸の部分の大きな膨らみと、スカートから伸びる細くて長い脚に僕の目は釘付けになった。


 確か舞子も「できれば一緒に並びたくない」と嫉妬するようなことを言っていた気がする。


「付き合ったら当然、キスやエッチなこともするわけで……」

 確か僕よりも4つ年下のはずだから……18歳で卒業式が済んでなかったらまだJKか!?


「……ヤバいな、犯罪だな」

 巫子ちゃんはそういうことに慎重というかガードが堅そうだけど、あの魅力的な体を好きにできると思うと興奮するな。


 まあ理由が何であれ、巫子ちゃんが彼女になってくれるのは僕的に大歓迎だ。


「?」

「あ……」

 すると僕の視線に気づいたのか、巫子ちゃんがこちらを向いて僕と目が合う。


「……ふふっ♪」

「っ!」

 すると巫子ちゃんは何やらニコッと思わせぶりに微笑み、それを見た僕はドキッとした。


 え!? 何今の笑顔!?

 女の子にとって男にジロジロ見られるのは、あまり気持ちの良いものではないはずなのに……。


「もしかして巫子ちゃん、僕のこと誘惑してる!?」

 いやまさか、純粋な巫子ちゃんがそんな駆け引きみたいなことするか?


 でも今日の服装を見ている感じ、男受けというか僕の目を意識している雰囲気はあるし……。


「もう巫子ちゃんが何を考えているのか分からないな……」

 こうして僕は料理が出来上がるまで悶々とした気持ちで過ごしたのだった。


◆◆◆


「うわあ美味しそう。それじゃあ、いただきます」

「いただきます♪」

 20分後、料理が出来上がり僕と巫子ちゃんは手を合わせる。


 巫子ちゃんが作ってくれたのはハム・レタス・トマトのサンドイッチ。

 僕はサンドイッチを手に持ってかじった。


「うん。美味しい」

 洗ったレタスとトマトの水分をしっかりと切っているからか、パンがベチャベチャになっておらず、しっとりとしていて味付けのマヨネーズとマスタードが全体に程良く馴染んでいる。


 また具だくさんでありながら食べやすい厚さにする配慮もされていて、期待通りの腕前だった。


「巫子ちゃんって本当に料理上手だなあ。将来は絶対いいお嫁さんになるよ」

 僕は褒めながら巫子ちゃんの恋愛事情について探りを入れてみる。


「ありがとうございます。嬉しいです♪ でも残念ながら相手がいないので、なれるのはまだまだ先になりそうです」


「あ、そうなんだ? 巫子ちゃん凄くモテそうに見えるけどなあ」


「通っている高校が女子校で出逢いがなくて、恥ずかしながら今まで男の人とお付き合いどころかデートもしたことがないんです」


「じゃあ僕が初めてか? それは光栄だなあ」

 ということは嘘じゃなければ巫子ちゃんは処女か。

 これは男としてポイントが高い。

 舞子は初めてじゃなかったからなあ。


「まあ大学に行き始めたらバイトとかサークルとか合コンとか、出逢いの場はいくらでもあるよ」


「それが私、大学には進学せずに知り合いの人の会社にお世話になることになったんです」


「あ、そうなの? 意外だなあ」

 巫子ちゃんの家庭は経済的に裕福だし、舞子が大学に行ってるから巫子ちゃんも大学に行くものだと思ってた。


「今日文人さんと一緒に行くところも、それと関係がある場所なんですよ♪」


「へえ~」

 ……ん!?

 頭に何か引っかかりを感じた僕はあることを思い出した。


 確か昨日の司の占いで、告白してくれた女の子がって言ってなかったか?


 そして巫子ちゃんは僕が無職であることを知っている。

 ということは僕は今日巫子ちゃんに告白されて、さらに一緒に働く流れになるんじゃないか?


 だっていくら出逢いがないとは言え、普通の感覚なら彼氏候補に無職だと分かっている男は敬遠する。


 でも何かしら当てがあり「自分と一緒に働くから問題ない」と思っているのなら辻褄が合う。


 もうこれ……巫子ちゃんで確定じゃないか!?


 それならもう僕がこの場で付き合ってくれと言ってしまおうか?

 年下の女の子に告白させるのは男として情けないし。


 でもこれは司の占いを基に都合の良い情報を集めた推測だし、単に「カップル限定」の場所に行きたくて僕を誘っただけの可能性もある。


 でも司の占いの的中率は100%だし、巫子ちゃんの方から誘ってるわけだから普通に考えれば脈あり。


 でも万が一違った時のリスクが大き過ぎる。

 ああもう! いったい僕はどうすればいいんだああああっ!!


「文人さん? どうかしましたか?」

 僕の様子がおかしいと思ったのか巫子ちゃんが首を傾げた。


「え? いや何でもないよ。ちょっと食べる時に唇を噛みそうになって、あは、あははは……」


「あらあら、慌てんぼさんですね。誰も取ったりはしないのでゆっくり食べてくださいね♪」


「う、うん。気をつけるよ……」

 僕は何とか適当なことを言ってごまかす。


 こうして僕は食事の間ずっと「でも」「でも」が頭の中をグルグルし、結局「放っておいても告白してくれるなら無理に冒険しない方がいいか」とヘタレな決断を下したのだった。

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